一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

6月20日のLPSAジャンジャンマンデー(後編)・中倉宏美女流二段に負ける

2011-06-25 11:54:48 | LPSAマンデーレッスン
まさに異例の再戦であるが、中倉宏美女流二段は現在6戦全勝のため、「連勝ストッパー」として、私に白羽の矢が立ったらしかった。
宏美女流二段はきょうもミルキーである。凛として気高く、その貌は白亜の彫像のようだった。
またも私の先手で、居飛車対三間飛車の対抗形となった。私は急戦策を採る。▲5七銀左から、▲5五歩~▲4五歩と仕掛けた。△5三銀▲4六銀に、宏美女流二段は△5六歩。ここは△5四銀も有力だが、宏美女流二段はいつも△5六歩である。これが宏美女流二段の「マイシステム」なのだ。
数手後、宏美女流二段は△2四歩と反撃する。その局面が下。

先手・一公:1七歩、1九香、2五歩、2八飛、3六歩、3七桂、4五歩、4六銀、5六銀、5八金、6七歩、6九金、7六歩、7八玉、8七歩、8八角、8九桂、9七歩、9九香 持駒:歩
後手・宏美女流二段:1一香、1三歩、2一飛、2四歩、3三桂、3四歩、4二金、5三銀、6一金、6三歩、7二銀、7三歩、8一桂、8二王、8三歩、9一香、9四歩 持駒:角、歩2

先手の飛車が「2六」ならこの筋があり、昭和53年の名人戦昇降級リーグ1組(現在のA級)・米長邦雄八段×勝浦修八段戦で、勝浦八段がこの手を指したことがある。しかし本局では▲2八飛なので響きが薄い。とはいえ△2四歩を▲同歩では△2七歩▲同飛△3八角なので、私は▲3五歩と攻め合った。
宏美女流二段は△2五歩。ここで私が指した▲2二歩が、ココセ級の大悪手だった。△同飛なら数手後の▲3三歩成が飛車に当たるという読みだが、手順に△5一飛と逃げられ、大損をした。
感想戦では、▲2二歩を利かさずに▲3四歩と攻める手が検討された。以下△3六歩▲3三歩成△3七歩成▲4二と△2八と▲2二歩が進行の一例だが、▲2二歩で飛車を取り返せれば、先手が金得で優勢。ほかの変化もやってみたが、いずれも先手十分だった。
本譜は▲3四歩△3六歩▲3三歩成△3七歩成▲2五飛に、△6四銀が大きな手。5六の銀を取らせるわけにはいかないから▲5七歩の辛抱だが、宏美女流二段は一転して△4一金。私も▲3七銀とと金を払い、新規蒔き直しとなった。
しかし以後は宏美女流二段の軽快な攻めに遭い、私は無念の投了となった。
「大沢さん、負け」
と、船戸陽子女流二段の声が聞こえる。ここで連勝ストッパーになれば、船戸女流二段の私を見る目が少しは変わったかもしれないのに、残念な敗局となってしまった。
これで第2期のジャンジャンマンデーが終了した。私は12局戦い、6勝6敗(●○●○●○●○○○●●)の五分だった。対戦表を見ると、私は「最多対局賞」にすべりこんだようである。しかし同時に、次回(7月4日)のジャンジャンマンデーで行われる表彰式にも参加せねばならなくなった。どうも先方のネライにはまるようでおもしろくないのだが、マンデーレッスンS講師が、私のために賞品を買ってくれると思うと、欠席はできない。やはり来月も、参加してしまうのだろう。

帰りはA氏と神田へ。以前も行ったことのある、A氏馴染みの店に入った。カウンターにいた店長(だと思う)はアジア系の濃い顔をしているが、将棋界の事情に詳しく、鉄道マニアでもあり、A氏と私の趣味にピッタリ合っている。話していて、楽しい人である。
A氏はビール、私はウーロン茶で乾杯。私は下戸だが、ウーロン茶でも十分酔えるので、構わない。
A氏の著した書物が、朝日新聞の某エッセイで取り上げられるという。
「ボクの本まで取り上げるなんて、いよいよネタがなくなってきたかな」
とA氏は謙遜しつつも、うれしそうだ。私は別にうれしくも何ともないが、
「それはよかったですねえ」
と、にこやかに答えておく。
2時間ほど、談笑した。会計はA氏がほとんど持ってくれたが、私のほうも大ネタを提供したので、勘弁してもらおう。
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6月20日のLPSAジャンジャンマンデー(前編)・「ブログには書かないでください」

2011-06-24 00:28:48 | LPSAマンデーレッスン
23日に指された女流王座戦、上田初美女王対室谷由紀女流初段は上田女王、島井咲緒里女流初段対山口恵梨子女流初段は山口女流初段の勝ちとなった。上田-室谷戦は0:100、島井-山口戦は50:50の割合で応援していたが、室谷女流初段は相手がわるかったか。それにしても、パーフェクト室谷女流初段の美しさを何と形容したらいいのだろう。ほかの女流棋士とは格が違う。まったく、女優が将棋を指しているかのようだった。
山口女流初段の夏らしい服装も見事。女流棋士会の未来はやっぱり明るい。

20日は「LPSAジャンジャンマンデー」に行った。今クールの最終3回目である。「芝浦サロン」の担当は、前週金曜日に続き島井女流初段だった。
午後6時すこし前に入室すると、何人か会員がいた。数えてみると、ジャンジャンマンデーの参加は、私を含めて8人。早速松尾香織女流初段から、手合いが発表される。
私の1局目はTa氏と。私が先手番になったので、横歩取りに誘導した。△8五飛と引かれたので、私は角を換わって▲9六角。中座飛車を指す以上、▲2二角成~▲9六角の変化は把握していなければならない。それをご存じですか、と私は問うているわけだ。
Ta氏は△8二飛。私は労せずして▲6三角成とし、押し切った。
2局目を待っている間、船戸陽子女流二段が遅れて来る。マスクをしていたので心配だ。マスクを外した顔は相変わらず魅力的だったが、少し顔色が悪いように見えた。
珍しく、将棋ペンクラブ幹事のA氏(作家)が見える。2局目は、そのA氏と対局がついた。いつだったか、将棋ペンクラブの幹事同士はあまり将棋を指さない、と聞いたことがある。私は幹事ではないが、たしかに幹事とはあまり指したことがない。しかしこの適当な距離感、私は好きである。そんなわけで、A氏とも初対局であった。
私の居飛車明示に、A氏の四間飛車となった。と、隣の席に船戸女流二段が座り、将棋を始めた。ジャンジャンマンデーでは、マンデーレッスンS講師も、会員と真剣勝負を指すのだ。奥では塾長の藤森奈津子女流四段が、F氏と指していた。
船戸女流二段が香水をつけていて、その芳醇な香りがモロにこちらに来る。ああっ…あああっ…!! な、なんかムラムラする。ポワ~ンとしてしまって、将棋を指すどころではない。もし船戸女流二段との将棋だったら、TKO、というところだった。
局面――。私は▲4六銀から▲3五歩と仕掛けるつもりだったが、気が変わって棒銀に出た。
しかし△3二飛と予め守られたところに▲3五歩と突いたため一手遅くなり、△4五歩から捌かれてしまった。その後△3六歩▲4八銀右と引かされては、ハッキリこちらが悪くなった。
ところがここでA氏は△6四歩~△7四歩と意味不明の手待ち。この2手の間に私も自陣に手を入れ、ヨリが戻った。△6四歩では、△6四角とのぞき、ガンガン攻められるのがイヤだった。
中倉宏美女流二段が見える。宏美女流二段はマンデーレッスンS講師ではないが、進んでこのジャンジャンマンデーに参加している。その意気やよし。
私はA氏に逆転勝ちとなった。A氏は私の文章のよき理解者であり、いつもとてもお世話になっている。この将棋に限り、勝敗はどうでもよかった。
A氏に、将棋のあとの飲み会に誘われたので、快諾する。私の交友関係は、すべて将棋がらみだ。将棋さまさまである。
ともあれ、これで2勝。通算すると6勝4敗だ。連勝賞は無理だが、最多対局賞と最多勝利賞を狙える位置につけた。ただ、入賞したとしても、副賞を受け取るために次回も参加せねばならず、そこが面倒くさい。
3局目は某氏と。「某」と書いたのは、本人からこの将棋のことを書いてくれるなという指示があったから。そう言われたって私の将棋でもあるわけだから、書く書かないは私の自由である。もちろん書くが、せめて…ということで、イニシャルも伏せたわけだった。
余談だが、最近はこのブログがあっちこっちに浸透しているのか、「このことはブログに載せないでね」と言われることが多くなった。
「振り駒名人」の某氏に振っていただき、またもや私の先手で、▲7六歩△8四歩。ではと矢倉に誘導したが、某氏は△6四歩と突いて急戦の構えを採る。私も強く迎え撃つと、某氏は△7五歩~△8五桂と来た。▲7六銀△5五歩▲同銀△5四銀。いきおい銀交換になり、私は▲8六歩と、△8五の桂を殺しにいく。この桂を代償なく取れれば私が勝つ。さればと某氏は、△7七歩と打った。この局面が下。

先手・一公:1七歩、1九香、2六歩、2九桂、3六歩、4七歩、5五歩、5六金、5八飛、6六歩、6九金、7五歩、7六銀、7八玉、8六歩、8八角、8九桂、9七歩、9九香 持駒:銀、歩
後手・某氏:1一香、1三歩、2一桂、2二角、2三歩、3一王、3二金、3四歩、4二銀、4三歩、5一飛、6一金、6四歩、7七歩、8四歩、8五桂、9一香、9三歩 持駒:銀(銀と桂を書き間違えました)

ここで私は持ち時間10分のうちの2分近くを割き▲6七玉とかわしたが、玉飛が接近し、結果的によくなかった。本譜は△5三銀▲8五歩△4四銀▲5四桂△4五銀打▲同金△同銀▲6二銀△5六金▲7七玉△6二金▲同桂成△5五飛と進み、後手が優勢になった。
▲6七玉では、▲7七同桂△同桂成▲同角、とサッパリしてしまうのが良かった。死んでる桂を交換するのは気が利かないが、これで後手の持ち駒は歩切れの銀、桂。私は△4四桂がイヤだったのだが、こんな手は何でもなかった。
そういえばプロの実戦でも、こうした歩(△7七歩)は、必ず取っているようである。5日の「大野教室」で、大野八一雄七段が、「自分から攻めていかないで、相手の攻めを利用するといいよ」と語ってくれたが、上の応接は、それを地で行くものといえよう。
▲7七同角までの局面は、▲7五歩、▲7六銀といつの間にか盛り上がり、しかも歩得で何の不満もない。ここから引き続き某氏の攻めを丁寧に受ければ、戦わずして私が勝っていただろう。
本譜は某氏にいいように攻められて、惨敗した。
「うわああああ!! この将棋を負けるとは!!」
私は投了後、咆哮する。続いて室内にわく、苦笑。マナー違反だと分かっていながら、つい叫んでしまった。某氏には社団戦で、この実力を余すところなく発揮していただこう。
時間は8時を過ぎている。いまからもう1局は遅いが、藤森女流四段が、何とか私にもう1局指させてくれようとしている。ありがたいことである。
宏美女流二段の将棋が終わり、宏美女流二段と指すことになった。え? でも宏美女流二段とは今クールで当たっているけど…?
(つづく)
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四たび大野教室に行く(後編)・まだ残っている

2011-06-23 00:07:50 | 大野教室
「後はあなたたちで指してください」
大野八一雄七段がピタリと動きを止めてしまったので、困った私たちは、大野七段の端攻めの構想を参考にして、勝手に指し手を進めた。
すると大野七段が、
「そうだ、こう進んだんだ。思い出した」
と言ったので、安心した。しかし続けて「いや~、このあたりは頭の中が真っ白というか精神的におかしくなっていて、もう何を指したか、忘れていました」
と言うので、私たちの笑いもひきつった。
▲9三桂成△同桂▲9四香。やや細い攻めだが、次に▲9三角成(香成)があるので、後手はふつうは、△9二歩と謝る。しかし吉田正和四段は、△8五桂と跳ねた。これが好手。これに▲9三角成なら△7三玉と逃げた形が軽く、後手には△7七香▲同桂△同桂成▲同玉△7九竜の狙いも生じている。先に先手が△7四歩を咎められれば優勢、と書いたが、本局は△7四歩が好手に変わってしまった。まさに「勝ち将棋鬼のごとし」である(注:△8五桂は、▲9四香の数手後に指されたことが判明しました)。
この△8五桂で、大野七段は観念してしまったようである。このあとは、「自分が負けるよう負けるよう考えて」、「二人がかりで負けにしてしまった」ようだった。以下の進行は意味がない。ここで解説も終了となった。
解説を拝聴して、確かに大野七段は、いい将棋を落としたと思った。そんな大野七段は、いまでもこの局面が頭から離れないという。その無念、レベルは違うが、私にもよく分かる。私も高校1年生の新人戦で惜敗した将棋は、しばらくの間、脳裏から離れなかったものだ。
さらに大野七段は、
「明日で(この対局から)1ヶ月になります」
とも言った。何だか死んだ子の歳を数えているようで、私たちはかける言葉もない。プロ棋士という仕事は、私たちから見れば花形職業だが、内実はかなりシビアで、精神的には必ずしもよくない。大野七段の述懐を聞いて、本心からそう思った。
しかし不幸中の幸いというか、大野七段には、竜王ランキング戦5組昇級のチャンスがまだ残っている。この悔しさを以降の対局にぶつけて、是非とも昇級を勝ち取ってもらいたい。

…と、以上の文章を加筆修正して、次号の「将棋ペン倶楽部」に投稿してしまおうか、などと考えたりする。ブログに発表したものを投稿しても別に構わないと思うが、どうなんだろう。もう、タイトルも決まっているのだが。
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四たび大野教室に行く(中編)・プロ棋士の読みの恐ろしさ

2011-06-22 00:50:51 | 大野教室
上手・大野七段(角落ち):1一香、1三歩、2四歩、3三歩、3四王、4二金、4五歩、5五金、6七と、8六歩、9一香、9三桂、9四歩 持駒:角、銀2、歩4
下手・一公:1七歩、1九香、2一竜、3五桂、3六歩、3七桂、4七歩、4九金、5九玉、6九金、7六歩、8四銀、8八飛、8九桂、9七歩、9九香 持駒:銀、歩2
(△4五歩まで)

ここから私は▲2四竜△同王▲2五銀△1五王▲2八飛と進める。
「これでどうでしょうか?」
「▲2四竜! 全然読んでなかったねえ。これは上手玉が必至だ。いやでも、ここで一本△2七歩と叩くね」
「▲同飛。ここで下手玉が詰むかどうかですが…」
大野八一雄七段はしばし考え、△6八銀と指した。私は▲4八玉と逃げる。
「これは詰まないね。負けました」
「ハア!?」
大野七段があまりにもアッサリと「投了」したので、私は拍子抜けした。
「そうか。下手勝ちの順があってよかったですね」
大野七段がにこっと笑う。しかし勝ちがあっても、それが感想戦では意味がない。
「私は実戦で大野先生に『負けました』って言わせたいんですよう!」
と私は嘆いた。大野七段にそう言わせるのは、まだまだ先のことになりそうである。
R氏が、昼の「LPSA芝浦将棋フェスタ」で指した将棋を、大野七段に見せている。R氏はアマ初段だが、対戦相手はアマ四段。これは相手にならないだろうと思いきや、終盤までいい勝負だった。R氏は終盤を鍛えれば、すぐにアマ三段になれる。
午後7時すぎ、近所のファミレスへ向かう。参加者は大野七段、W氏、R氏、Hon氏に私だ。
大野七段はダイエット中ということで、パスタの単品。私もダイエットをしなければならないが、それはいつからでもできるので、食べ放題メニューをオーダーする。
食後は、R氏が将棋盤を取り出し、またも「芝浦将棋フェスタ」での将棋を並べ始めた。R氏は本当に将棋が好きなのだ。26日の社団戦での戦いを大いに期待したい。
今度はHon氏が女流王座戦の棋譜を取り出した。これを大野七段に解説していただく。これは相振り飛車の将棋で、私は指さないが、大野七段の解説はとてもためになり、私も相振り飛車を指したくなった。
せっかくなので、先月指された竜王ランキング戦6組準決勝・大野七段対吉田正和四段の一戦を、大野七段に自戦解説していただく。大野七段はこの対局で惜敗し、本戦トーナメント入りのチャンスを逸した。当人にはまことに不愉快な一局ではあるが、私にとっては他人事であり、大野七段が「勝勢になる一着を逃した」一手を、たんに知りたかった。
将棋は先番大野七段の居飛車明示に吉田四段の四間飛車。大野七段は▲9六歩。これに吉田四段が受けなかったので、大野七段は▲9五歩と伸ばす。と、言葉で書けば簡単だが、このあたりの心理状態の述懐が実に巧みで、私たちはみるみるうちに「大野解説」に引きこまれた。ファミレスで聞くにはあまりにも場違いだが、それゆえに私たちは、最高に贅沢な時間を過ごしていた。
▲9五歩と伸ばした以上、居飛車穴熊はない。大野七段は▲4六銀から▲3五歩と仕掛ける。角交換から、先手は▲5五銀と出た。後手は△7四歩が突いてあり、先手はこれを咎めたい。
後手は△4三銀かと思いきや、△2五銀。一目、先手にとってありがたい手である。この直前に大野七段は大長考していたが、この意外な銀出で、それまでの読みがフイになった。これが後の進行に微妙な影響をおよぼすことになる。
何はともあれ▲3三飛成△同桂。ここで次の一手を問われれば、私たちなら間違いなく、▲3一飛と打つ。実際それで正解なのだが、大野七段が
「これで将棋は終わってました」
と言ったのでビックリした。私たちレベルからいえば、桂香両取りに打つ▲3一飛はふつうの手。そこで後手も敵陣に飛車を打って、ここから中盤のねじりあい、というところである。
しかるに大野七段は、「これで終わり」、つまり先手勝ちと言ったのだ。
「だってここからは一本道なんですよ」
続けて大野七段は解説する。するとほぼ絶対の手順で後手玉が寄り、私たちはテーブルマジックを見るように、なるほどなるほどと感心したのだった。
それにしても、プロ棋士の読みの何と深いことか。ここから寄りまで、20手近く。そのほとんどの変化を、大野七段は読みつぶしたことになる。
そういえば以前、植山悦行七段に自戦解説を聞いたときも、植山七段はかなり早い段階で、「この将棋は勝ったと思いました」という意味のことを言っていた。
もちろん将棋はそんなに簡単に勝負がつくものではないし、大野七段や植山七段も対局中は、勝敗はまだまだ先と、気を引き締めていたはずである。ただいえることは、私たちが「指しやすい」と見える局面が、プロ棋士には「優勢・勝勢」に見えるということだった。
話が戻るが、先ほどの局面で、大野七段は▲3一飛とは打たなかった。「より良い手を指そうと思って」▲3四歩と叩いたのである。
これが考えすぎの疑問手だった。後手は喜んで△3四同銀。△4三銀の形から▲3四歩と叩く手はあるが、なけなしの一歩をはたいて2五の銀を3四に引き戻すなど、見たことがない。▲3一飛から一手勝ちを読んでいながら、▲3四歩のような疑問手を指す。ここが実戦心理の不思議なところだ。
大野七段、遅ればせながらの▲3一飛に、吉田四段、△4六歩▲同銀を入れて△3二歩。これが大野七段の読みになく、またもコンピューターを狂わせた。
ここで大野七段が悪手を指したという。そこで私が、「悪手探し」を提案した。私たちなら飛車を打った流れから、▲1一飛成と香を取る。しかしこれが悪手とは思えない。▲3二同飛成もなくはないが、2手をかけて桂を取りに行くものだろうか。これは疑問手っぽいが、それゆえなさそうな気がする。
▲3七桂は味よい活用だが、これはプロ好みの気がする。大野七段が悪手と断じる手とは思えない。
そういえば最初、大野七段が角を持ちかけていた。とすれば▲5五角か。しかし何だこれは。
私たちはサッパリ分からず、大野七段に答えを聞く。と、それは「▲6六角」だった。これで▲9四歩から端を攻める構想だが、その攻めで端が破れるはずもなく、悪手だったというのだ。
まあ確かにそうなのだろうが、いかにもプロらしい悪手といえる。
ところが、大野七段があらためてこの局面を見て、持ち駒が1歩しかないことに気づき、
「あれ? 1歩しかないのに、私がここへ角を打つわけがありませんよ」
と言って、局面を元に戻し始めた。
そうは言っても、▲3四歩と打ち捨てて歩切れになり、△4六歩▲同銀で1歩もらっているのだから、持ち駒はやはり1歩である。だが大野七段は、
「そうですね…。いやしかし、それならやっぱり、角は打たない。…あれ? じゃあどう指したんだろう。忘れちゃった。プロとしてマズイねこれは」
と言いだしたので、私たちは慌てた。
(つづく)
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四たび大野教室に行く(前編)・初白星ならず

2011-06-21 01:26:23 | 大野教室
19日(日)は、昼から「大野教室」に行った。大野教室とは、日本将棋連盟棋士の大野八一雄七段が講師を務める、将棋教室である。基本的に実戦の指導で、対局の合間には詰将棋や次の一手が出題される。熱心な生徒はさらに実戦譜を見せ、寸評もいただいているようだ。放課後のおしゃべりも楽しい。
次週26日(日)に第23回社団戦の第1日があるので、今回はモチベーションの維持も兼ねている。行きにW氏と偶然会い、午後1時半ごろ、いっしょに入室した。
先客はUe氏と、子供たち3人。日曜日は、土曜日より客が少ない気がする。
大野七段には、早速角落ちでお願いする。私の作戦は居飛車。振り飛車も指したいが、金銀で抑え込まれそうな気がして、最近は指す気がしない。居飛車なら2筋の歩を交換できるので、そのぶん攻めの幅が拡がる。
本局は、▲5七銀・▲7七銀の形から、私が▲8八飛と振ったのが会心の一着。第4期竜王ランキング戦2組昇級者決定戦決勝・大山康晴十五世名人×真部一男八段戦で、後手の大山十五世名人が指した手を拝借した。これで上手(先手)は8筋(2筋)を受けにくい。
その後も私は強気に応接する。大野七段は5筋に戦いを求めたが、私は▲4六角を▲3七角と引く妙手(事前にアタリを避けた)を織り交ぜ、優位を持続したまま、終盤戦に突入した。
私は▲2三銀△同王▲3一飛成と、上手王を追いつめる。ここではさすがに勝ちを意識した。対大野戦10戦目にして、悲願の初勝利か。しかし大野七段も6七にと金を作り、妖しく迫る。実は私の玉は居玉で、このと金が存外脅威だ。さすがにラクには勝たせてくれない。
▲2一竜△3四王▲3七桂△4四歩▲3五桂。△4四歩では、△4四王と早逃げされるのがイヤだった。私は詰めろ詰めろで迫る。大野七段は△4五歩と、さらに懐を拡げる。ここでどう指していいか分からなかった。その局面が下。

上手・大野七段(角落ち):1一香、1三歩、2四歩、3三歩、3四王、4二金、4五歩、5五金、6七と、8六歩、9一香、9三桂、9四歩 持駒:角、銀2、歩4
下手・一公:1七歩、1九香、2一竜、3五桂、3六歩、3七桂、4七歩、4九金、5九玉、6九金、7六歩、8四銀、8八飛、8九桂、9七歩、9九香 持駒:銀、歩2

私は▲5一竜と廻る。以下△5三銀▲2八飛△5七角▲4二竜△6八銀▲同金△同と▲同飛△同角成▲同玉△4二銀まで、何と大野七段の勝ちとなってしまった。
上の局面からわずか12手で私が負けるとは、どういうことか。私はまたも掌中の勝利を逃し、呆然となった。
午前のNHK杯将棋トーナメントには終盤の魔術師・森雞二九段が出ていたが、森九段のお株を奪うような逆転のテクニックである。しかも感想戦で大野七段は、どう指しても負けと思って指していた、と言うので私もクサッタ。私のほうに、もっと明快な勝ちはなかったものか。
「△6七にと金を作らせたのが結果的に疑問で、△6六歩を黙って▲同歩と取っておけば何でもなかった」
という結論になったが、どうも釈然としない。
ここで3時のおやつ。Hon氏の手土産などを含め、4~5種類のお菓子が配られる。これで脳ミソを休めてくれ給え、という大野七段の配慮だが、この間に詰将棋が配られ、私たちは休むヒマもない。
詰将棋があらかた解けると、今度は実戦次の一手が配られる。といってもよくある「次の一手」ではなく、たくさん駒の利いているところに相手の駒が成ってきた場合、どの駒で取るのが最善かを問うものである。
私たちレベルでは頭を抱えてしまうが、プロから見ればどの局面も「この一手」らしく、「常識」とさえ云えるものだという。
プロの読みのすごさ、形の明るさには感心させられるが、今回も私は、ただただ唸るしかなかった。
それにしても、1局目の将棋が気になる。何か勝ちはなかったのかと、そんなことばかり考えている。そんなモヤモヤ感を抱いたまま、大野七段との2局目が開始された。しかし頭の中がこんな状態では、満足に手も読めない。何しろ指し手を進めながら、前局の将棋を考えているのだ。
2局目も私は居飛車で向かい、▲5七銀、▲3七桂として左美濃に組む。玉は▲7九まで囲ってしまっているから、角は▲7七→▲5九と使いたいが、すでに右桂を跳ねているので、▲3七角とできない。
また▲7七角のままだと△7四歩~△7三桂~△6五桂があるから、下手も忙しい。
困り果てた私はまたも飛車を8八に振るが、前局と違って、逡巡した末の着手だからホメられない。
その後私は飛車を2八に戻し、再度四間に振るなど、まったく指し手の一貫性がなかった。
角は結局4八に収まったが、なんの働きもない、ただの木偶の坊だ。しかも玉は3八にいる。まったく、ひどい将棋にしてしまった。
大野七段、桂を交換して△1五歩。▲同歩なら△1八歩▲同香△2六桂で上手が勝つ。実戦も1筋から攻め込まれ、中押し負けとなった。
感想戦では、▲5七銀~▲3七桂~左美濃の構想が良くないとされた。角落ちのハンデがあっても、駒組の不備ですでに下手がおもしろくないとは、将棋は本当にむずかしい。
次は、Hon氏と練習将棋。Hon氏の変態三間飛車に私は急戦で挑む。
R氏が見え、隣で練習対局を始めた。きょうは「LPSA芝浦将棋フェスタ」の団体戦に出場していたはずだが、そのあと芝浦から川口まで、わざわざ足を伸ばしたものらしい。熱心なことである。
△8六歩~△8五歩の継ぎ歩が、Hon氏が見落としていた好手。私は金桂交換の駒得を果たし、有利になった。しかしそこからHon氏の反撃が見事で、私は無念の敗戦となった。
社団戦を前にして0勝3敗とは、何たることだ。これでは自信を消失するだけではないか。
それにしても、大野七段とのあの局面…。もうお開きの雰囲気だったので、私は1局目の局面を再現し(上に掲げた局面)、大野七段に問うた。
(つづく)
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