一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

土居矢倉

2020-08-12 00:16:01 | 将棋雑記
4日・5日に行われた第61期王位戦七番勝負・木村一基王位と藤井聡太棋聖の第3局は、藤井棋聖が勝ち3連勝。藤井棋聖は2つめのタイトルまであと1勝となった。

本局は相矢倉っぽくなったが、厳密には先番の藤井棋聖が▲6七(右)金~▲5八(左)金とし、快勝した。
この形(手順)は土居市太郎名誉名人が愛用していたらしく、名人戦でも採用したことがあるらしい。それでこの形を「土居矢倉」と呼ぶらしい。私は不勉強で、その名称を全然知らなかった。
あらためて土居名誉名人は1887年11月20日生まれ。1973年2月28日、85歳で没。A級は3期で、1940年、52歳で第2期名人戦に登場したが、木村義雄名人に1勝4敗2千日手で敗れた。この第3局指し直し局に、土居矢倉が現れた。

藤井棋聖の順番通り、右金を6七に持っていき、左金を5八に上がっている。ただし名人戦では、序盤で角交換になっていた。これならバランスを取る意味で、▲5八金・▲6七金はある形である。これも土居矢倉と云うのだろうか。それとも、角交換でのこの形が、本来の土居矢倉なのだろうか。また、▲6七金は、左の金が上がってもいいのか。現代では▲5八金・▲7八金の形から▲6七金左とするのが圧倒的だからである。この辺の細かいことは、私には分からない。
なお土居名誉名人は1949年引退。1954年に名誉名人を贈られた。

私が所有する土居名誉名人の著書は、1938年(昭和13年)12月発行の「將棋の指し方」しかない。影山稔雄氏との共著である。新潮社発行、当時1円30銭だった。
これは初心者用の解説書で、玉の囲い方、平手戦の指し方、駒落ち戦の指し方、囲いの崩し方が満遍なく解説されている(参考:家にある最も古い棋書)。
▲6七金―▲5八金の形はさすがに解説されていなかったが、左美濃+右四間飛車から矢倉を撃破する解説が載っていた。まったくの偶然だが、2日と9日のNHKEテレ「将棋フォーカス」では、阿久津主税八段がこの形の指し方を指南していた。
ではここで、土居名誉名人版の右四間飛車による矢倉撃破を、引用させていただく。なお、旧漢字、旧かな遣いを排し、常用漢字と現代文かな遣いに直した。符号の横の筋も漢字で記されていたが、これも現代の表記に合わせ、算用数字とした。


(三)矢倉崩し戦法

先手は、敵に、矢倉囲いの堅陣を組み上げさせる暇を与えず、第1図まで進んできた。(手順は、前編『矢倉崩しの駒組』参照)

第1図以下の指し手。▲2五桂△3一角▲4五歩△8六歩▲同歩△同角▲同角△同飛▲3三桂成△同金上▲4四歩(第2図)

攻撃の機を逸するな この形となれば、先手は、猛然起って、攻撃の火蓋を切らなくてはいけません。ここで▲5八金右と、手を緩めていますと、後手に幸便に、△3一角と引かれ、次に8筋の歩を切られて、角の交換となり、後に▲2五桂と跳んだ際、△3七角の打ち込み、または単に△8八角と打ち込まれても、先手不利の局面を現出してしまいます。戦局は微妙なもの、一手の遅速は好局をしてたちまち苦境に陥れるものでもありますから、ここぞと思う機会(チャンス)は、絶対に逸しては駄目です。
すなわち、先手攻撃の第一弾は、▲2五桂の一手です。
ここで、後手は、銀を逃げていては、4筋から攻めこまれますから、角を活用して、併せて玉を矢倉に囲わんとする意味で、△3一角と引きます。先手は、直ちに▲3三桂成と銀を取らずに、あくまでも4筋攻破を目指して、▲4五歩と突くのが良手です。
後手は、これを△同歩と取れば、▲同銀と進まれ、△4四歩でも▲3三桂成△同桂▲4四銀△同金▲同角で、完全に破られてしまいます。そこで、ここは成り行きに任せ、引き角の目的遂行のために、△8六歩と突きます。
先手は、これを取らずに、▲4四歩では、△同銀▲同角△同金▲同飛△4三歩▲4八飛(参考図)で、次に△8七歩成がありますから、▲8六同歩と取る手です。

△8六同角▲同角△同飛。ここで先手は、▲8七歩をせずに、直ちに、▲3三桂成です。後手は、△8八飛成と、成り込む暇はなく、△同金上の一手。△同桂では、▲4四歩でより以上に不利です。
先手は、ここで、▲7七角と打つ手もありますが、予定通り、▲4四歩と取り込んで行って、絶対優勢です(第2図参照)。

これを△同金直なら、▲5三角。△同金左なら▲4五歩でいずれも後手の陣営は壊滅の一途をたどる他はありません。
かくの如く、先手は、居玉の形ながら、角の睨みと、▲5六銀の備えと、▲4八飛の抑えと、▲3七桂跳の好手によって、後手に矢倉を組み上げる暇を与えず、見事に撃破してしまいました。
矢倉崩しは桂馬の役目 しかし、なんと云っても、矢倉囲いの堅陣攻略の第一の手がかりは、▲2五桂跳の威力によるものです。従って、矢倉囲いにする方では、敵桂の動向に第一番に注目して、これに対する備えを怠ってはなりません。


以上である。第1図の局面は先手が1手多く指している(▲9六歩)のが意味不明だが、そういう細かいことはいいのだろう。
なお、当時は本手順をまとめて載せておらず、「第1図以下の指し手」の11手は、私が独自に加えた。
将棋フォーカスでは阿久津八段が▲2五桂と跳んだが、土居名誉名人も▲2五桂と跳んだ。やはりこの形になれば、▲2五桂が本手なのだろう。
ただし「將棋の指し方」では解説文がまだるっこしく、現在ならこの半分以下の文章量になるだろう。
とはいえ昔の本を読むといろいろ面白い。名著の誉れ高き著書は、装丁を変えて復刻してくれると嬉しい。
コメント (2)
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