一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

一二三の名局・1

2016-01-23 13:29:08 | 名局
今日1月23日は「1、2、3」で加藤一二三九段を連想する。そこで今日は、加藤九段の名局を紹介する。加藤九段の実戦集では必ず紹介される、あの名局である。

1968年12月3、4日
第7期十段戦七番勝負 第4局
於:神奈川県鶴巻温泉「陣屋」
持ち時間:各9時間

△十段 大山康晴
▲八段 加藤一二三

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲2五歩△3三角▲4八銀△3二銀▲5六歩△4二飛▲6八玉△6二玉▲7八玉△7二玉▲5八金右△8二玉▲5五歩△4三銀▲5七銀△7二銀
▲5六銀△5二金左▲6八銀△6四歩▲9六歩△9四歩▲6六歩△5四歩▲同歩△同銀▲5五歩△6三銀引▲6五歩△同歩▲同銀△6四歩▲5六銀△7四歩▲3六歩△2二飛
▲4六歩△2四歩▲同歩△同飛▲2五歩△2二飛▲3五歩△同歩▲3四歩△5一角▲5四歩△4三金▲2四歩△同角▲5五銀△5二歩(第1図)

大山×加藤のタイトル戦はこれが6度目。過去5回はいずれも大山十段が勝っていた。
本七番勝負は、加藤八段の●●○で第4局を迎えた。対局日は12月3~4日で、これも偶然の「1、2,3」。大山十段の四間飛車に、加藤八段の採った作戦は、今では絶滅した5筋位取り。
中央で細かい歩交換があったあと、大山十段は△2二飛と転戦する。加藤八段は天王山に銀を進出し、△5二歩で初日を終えた。
そして次の3手が、加藤八段渾身の構想だった。

第1図以下の指し手。▲4四銀△同金▲6二歩(第2図)

▲4四銀と進出したあと、△同金に▲同角と取らず、一本▲6二歩と叩いたのが絶妙手。加藤九段の棋士生活61年半、約2,500局の中で、最高の一手といってよい。1975年、大泉書店発行の「加藤一二三実戦集」によれば、▲6二歩で単に▲4四同角だと、△3三角▲2二飛成△4四角▲2一竜△9九角成で先手不利、とある。しかし▲6二歩△同金を利かしておけば、金が浮いていて攻めやすくなるのだ。そこで後手は△7一金と寄ったが、この利かしが入ったのは大きかった。
なお巷では、加藤八段が「▲6二歩」に7時間考えた、と伝えられているが、この手に420分を記録したわけではない。同書によると、就寝前に2時間考え、結論が出ないまま眠りに落ちた、とある。
2日目、▲4四銀の消費時間は1時間55分。肝心の▲6二歩の消費時間は不明だが、29分以下である。▲4四銀を指した時点では▲6二歩は浮かんでいたと思われるので、短時間の着手なわけだ。
ただ、▲6二歩を昼休後に指したという加藤八段の証言があり、となれば確かに、すべての考慮時間を合算すれば、7時間を越えそうである。

第2図以下の指し手。△7一金▲4四角△3三角▲2二飛成△4四角▲2一竜△6二角▲4一飛△3八角▲3三歩成△5六角成▲6七金△5五馬▲7七銀△6五歩▲4三と△6六銀▲6八金上△6七銀不成▲同金
△6六金▲5七銀△6七金▲同玉△5四馬▲4五金△6四馬▲5五金打△7三馬▲5四桂△8四歩▲1一竜△2八歩▲6二桂成△同馬▲6四香△2九歩成▲5二と
まで、97手で加藤八段の勝ち。

▲2一竜に△6二角が辛抱の手だ。勢いは△9九角成だが、▲4一飛△6二金▲7一飛成△7三玉▲7九金とし、次に▲8五桂を狙って先手勝勢となる。▲4一飛が▲7一飛成の先手になるのが、▲6二歩△7一金の効果だ。
以下は加藤八段が大山十段の攻めをガッチリ受け、そのあとは反撃に転じ、キッチリ寄せた。
これで加藤八段はタイに追いついた。続く第5局を負け、第6局は必敗の将棋を拾い、最終第7局は激戦のすえ勝利し、うれしい初タイトルとなったのであった。
コメント
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