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HPV ワクチン 中咽頭がん と その周辺 2014年7月10日

2014-07-10 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
検査の進歩や関心の高まりとともにhead and neck cancer(頭頸部がん)へのHPVの関与が解明されはじめているところですが、米国では有名な58歳男性がなったがんが7月3日にニュースになっていました。
JPMorgan Chaseのchief executiveの方とのことです。

関連の話題。
HPV Vaccine for Oral Cancer? JAMA. 2014;312(2):122

文献じたいはだいぶ前からみかけてましたし、疫学調査も増えています。

2011年11月 「HPV関連の中咽頭癌発症率が上昇」

(偶然ですが、今朝は日本のアーティストの男性の中咽頭がんがニュースになっていました)

がんになる人全体でみると5%前後と数は多くないですが、女性よりも男性に多く(80%が男性)、好発年齢は50~60代。リスク因子としては喫煙、アルコール摂取、部位によってはHPV感染が注目されています。

UpToDateでも"Human papillomavirus associated head and neck cancer"というページがありますので、最新情報はこのあたりでご確認を。


日本ではHPVについては子宮以外の話をあまりメディアもとりあげていませんが(知らないのかも?)、、、
子宮のがんだと、合併症や治療による副作用、将来の妊娠出産への影響が問題になりますが、
口の中やノドのがんでは、食べる、しゃべる、という日常的な機能に障害が残ることがあり、救命だけでなく機能をなるべく失わないように早期に治療をすることが重要であります。
トークや歌を歌う仕事の場合はより深刻です。



さて。その日本の話。
最近話を聞きに来るメディアの方の中には、これまでに公開されている情報を読んでいない人もいます。
1次情報読まないと記事かけないと思うんですが・・・それもふくめて解説してください、なのかもしれません。


厚労省は昨年6月に実態調査をはじめたわけですが、医療機関やメーカーがもつ有害事象データ、患者会等のデータ含めて多角的に検討が行われ、個人情報なので全てが公開はされていませんが診療情報などをもとに検討がおこなわれました。
(症例リストは「不明」が多く、どつやって検討するのが妥当かわからないものもありますが)


2014年1月の時点での論点整理が出て、現実的な対応が進められているところです。

これまでにいくつか話題になったことがありました。

自己免疫疾患については配布資料にサマリーがあります。

■平成24年度末時点で、SLEで特定疾患医療受給者証を有しているのは60,122人(人口10万人あたり 47.1人)
■10-19歳女性においては、957人(人口10万人あたり16.4人)
■研究班における報告によれば、平成21年度における 「年齢調整発生率」は1.94人/10万人。
■男女 比は1:8.23と女性に多い

海外ではコホートデータの中でリスクや頻度を比較できるところも。

デンマークとスウェーデンの99万7千人の女性でのデータ



厚生労働省の科学研究費は、テーマや扱う部署がことなっていますが、もともと慢性的な痛みについて研究をしていたグループに協力を依頼しています。

「慢性の痛み対策研究事業」という枠で7つの研究が採択されています。
このうち信州大学の池田教授(平成24年度 867万円)と、愛知医科大学の牛田教授(同4110万円)の研究グループがHPVワクチン接種後の有害事象のいくつかについての検討を依頼されて協力をしています。

どのような分野を扱っているのか、過去にどのような成果があるのかは、NPO法人いたみ医学研究情報センターのホームページに掲載されています。



信州大学医学部内科学第三講座

2013年10月11日 「子宮頸がん予防ワクチン(HPV ワクチン)接種後の痛みの診療について」
厚生労働省慢性の痛み対策研究事業「難治性神経因性疼痛の基礎疾患の解明と 診断・治療精度を向上させるための研究」

● 信州大学医学部附属病院 脳神経内科(統括機関)
● 北海道大学医学部附属病院 整形外科
● 名古屋大学医学部附属病院 手の外科
● 愛媛大学医学部附属病院 ペインクリニック
● 山口大学医学部附属病院 神経内科
● 鹿児島大学医学部附属病院 神経内科

池田先生の資料には「慢性の痛み診療の 基盤となる情報の集約とより高度な診療の為の医療システム構築に関する研究班」(代表者愛知医科大学牛田享 宏教授)とも協調とあります。

牛田先生、、、ですが、愛知医科大学には、他の医療機関にない多様な専門バックグラウンドのあるメンバーで構成された「学際的痛みセンター」があり、「慢性痛は臨床的な面から,身体的な問題,精神心理的問題,社会問題が複雑に合わさっており,今後の対応策として,多角的・集学的な研究・チーム医療体制の構築と同時に,医療従事者に対する痛みの教育,正しい情報の発信」をしているとのことです。

現代医療は高度に専門的なことに詳しい人たちの経験や知識が細切れ(縦割り)になりやすいので統合する目的でチームをつくるというのは患者さんにとっても利益が大きいアプローチだと思います。(あちこち受診をしたりその都度その分野の先生からきいたことを説明するのもたいへんです・・・)

HPVワクチン関連での痛みの相談先の紹介は、上記の牛田先生と池田先生の研究班が加わっているNPO法人いたみ医学研究情報センターのホームページに紹介があります。
牛田研究班 11施設、池田研究班 6施設。合計17施設が7月9日時点で掲載されています。

2014年7月9日のTBSの記事には「子宮頸がんワクチン、厚労省の新たな体制案に批判も」とあります。

7月4日の会議では、牛田先生のグループ(慢性の痛み診療の基盤となる情報の集約とより高度な診療の為の医療システム構築に関する研究班) では対応施設を8つ増やしますということが紹介されました。

TBSの記事にある池田先生の資料は昨年提出されたものを読むことができます。

2013年12月25日 会議の参考資料2 池田参考人提出資料


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信州大学の32例を含む49例。
信州大学を受診した32例のうち2例はSLE、1例は麻疹ワクチン接種後小脳炎うたがい、1例は統合失調症疑い。
28例のうち確定診断がついた症例:起立性調節障害6例、関節炎2例、筋膜炎2例、CRPS1例。

スライド25【HPVワクチンの副反応:現時点でどう考えるか】
1.関節炎、筋膜炎:ワクチンが誘因となりうる。頻度は低い。短期間で自然治癒しうる。
2.起立性調節障害:この年代で頻度が高い。ワクチンが誘因となりうるか不明(偶発合併?)
3.手足の難治性疼痛:CRPSに近い慢性疼痛の病態。末梢交感神経機能の異常が関与。ワクチンとの因果関係は不明。
4. 無月経を含む生理不順:成因もワクチンとの因果関係も不明、更なる調査が必要。

スライド26【治療反応性】
高度な歩行障害:PGE1の点滴で5名中3名が改善
関節炎、筋膜炎:各2例中、1例ずつが軽快
起立性調節障害に伴う頭痛・全身倦怠感:薬物療法6名中3名で改善
CRPS様症状を呈する14名→経過観察中:末梢交感神経障害ならば改善するはず

スライド27
多彩な病態への対応に担当医は連日、四苦八苦している。
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12月の会議の詳細はすでにある議事録から知ることができます。

1月の会議の詳細はすでにある議事録から知ることができます。


2014年1月20日の会議では、12月に提示された起立性調節障害について、関連データが参考資料2として配布されていました
「起立性調節障害症状について」

中高生の起立性調節障害の頻度 中学生女子 25.6%(男子16.9%) 高校生女子 27.4%(男子21.7%)
(日本学校保健会:平成22年度児童生徒の健康状態サーベイランス)

女子の症状 身体の「だるさ」や「疲れやすさ」を感じることがある 62.6%
      「たちくらみ」やめまいを感じることがある。または、立ち上がるときにそっと立つことがある 42.9%
      頭が痛くなることがある 34.8%

低血圧症の頻度(厚生労働省 平成23年患者調査) 10~14歳女子 1000人あたり2人、15~19歳女子 1000人あたり1人。

このように会議で疑義があることは次回までに事務局が調べて整理する、あるいは参考人が説明をするというような形で展開されています。


2014年4月 共同通信 子宮頸がんワクチン副作用 患者の1割に頻脈症候群

記事だと1割の分母がわかりませんが、その機序についてさらなる検討がおこなわれているようです。


2月の会議の詳細はすでにある議事録から知ることができます。


2014年2月26日の会議では 筑波大学 宮本先生が参考人として情報提供をされ、資料「機能性身体症状への対応」も配布されています。

宮本先生は筑波大学の先生で小児科医師です。

スライドにある不安や疑心暗鬼による解釈の不一致の指摘は参考になります。

「疑心暗鬼」。
それは誰がつくっているのか。そういった陰性感情を悪化させる要因は何か。
医療や社会において醸造されているとしたら、改善のため工夫はどうあるべきなのか。

支援のつもりが真逆だったり。クロノロジーで発言をおっていくと興味深い傾向をみることができます。

もちろん医療そのものにむけられている視線、相次ぐ製薬会社関連の不信ニュースも無関係とは言えません。

慢性疼痛: 「こじれた痛み」の不思議 (ちくま新書)
筑摩書房



上記の本は作家の夏樹静子さんの治療を担当された先生がおかきになった本で、夏樹静子さんの苦痛の日々は下記の文庫に紹介されています。

腰痛放浪記 椅子がこわい (新潮文庫)
新潮社


臨床でよく出合う痛みの診療アトラス
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