Dr. WAKASAGI at HEI-RIVER(閉伊川ワカサギ博士)

森川海をつなぐ学び合いの活動を紹介します

フィヨルドクルーズ船にて「自然の見せかた」を学ぶ

2012-07-08 | 水圏環境教育
閉伊川大学校のエデュケーターと,自然ガイドに関する調査をかね,Sewardのみなとから出航する氷河クルーズ船に乗り込む。12時出航で17時寄港5時間のツアーである。

(閉伊川大学校のエデュケーターの方々)
Sewardはフィヨルドの切り立った山々の間に出来た小さな港町である。フィヨルドは氷河によって削られた山々がそびえたちちょうど宮古湾を巨大化した様な形状である。

船はゆっくりとSewardの港を出る。最初に船長から,そしてクルーから注意事項の説明と,National Marine Centerのレンジャーが乗り込んでいるとのアナウンスがあった。

(船から陸を望む,海沿いの平地には白い大型のキャンパーが軒を連ねている)

港を出るとレンジャーからクルーズ船による観察のポイントが説明された。ここの氷河は国立公園であり連邦政府によって管理されている。国立公園内は原則として人々は生活することができない。

レンジャーの存在によって,自然に対する価値付けが確かなものとなりより自然観察が楽しくなる。今回のレンジャーの説明の中で,特に印象的であったことは,雪解け水の説明,氷河の説明,そして説明の順序である。

雪解け水については,「氷河が解けることによって豊かな栄養を含んだ水が海水と交わり植物プランクトンを発生させる。この植物プランクトンは地球上の二酸化炭素の約半分を吸収している。二酸化炭素だけではなく,動物プランクトンの餌となり,数多くの生物を支えるものとなっている。氷河があることによって,オヒョウやクジラ,イルカ,ラッコ,アザラシ等が生活できるのである。」と説明していた。自然を間近に観察することによって,森川海のつながりと生物の関わりについてより深く理解できる。


(氷河によって半円状に削られた跡)

また,氷河については,氷河活動により山が削られているところを紹介しつつ,「年々氷河が薄くなっている。1年間に厚さ42mの氷河が失われている。100年前に比較して極端に大きな変化が見られる。このままでは,海面の上昇が危惧される。」と地球温暖化の現象について説明を受けた。島国の日本では緊迫感を持って海面上昇を捉えていないが,氷河が確実に減っている事実を目の当たりにすると人ごとではないことが理解できる。

(1909年のベアー氷河)

(2005年のベアー氷河)
確かに,アンカレッジでも日中は気温が25度を超え,最低気温も10度を下らない。氷河の厚さの変化を目の当たりにして海面上昇を危惧することは当然であろう。実際にフロリダではある都市は水没が予想されており,海面上昇に対するアダプテーションについて議論がなされている。一方,日本はどうであろうか。海面上昇に対して政府はどのように対応するのであろうか。

3つ目は,説明の順序である。氷河クルーズであり,目的は氷河であるが氷河だけではない。氷河についての説明の後,寄港しながらほ乳類の説明が始まる。楽しみはこれからである。氷河だけでも圧巻であるが,ほ乳類,鳥類の観察が始まる。これら大型生物も当然氷河の恩恵を受けているのである。ラッコ,アザラシが悠々と泳いでいだり岩の上で休んでいる光景を見ることができた。豊かな水が生物を育んでいるのである。

(アザラシの日光浴)

寄港まであと2時間という穏やかな内湾に移動後,船内から「おー」という歓声が上がる。ザトウクジラが姿を現したのである。一瞬だけ,尾を見せる。人々の視線が一点に注がれた。しかし,なかなか,姿を見せてくれない。船内の観光客は5分後のブリーズを見ようと海面に神経が注がれた。確かに,食用としての見方もあるが,ザトウクジラは食用としてよりもむしろ観察の対象としての価値が高い。

氷河が織りなす大自然の営みは人々の心を釘付けにする。最後のザトウクジラの勇姿を見て,「あ,そうか,氷河はこれだけ生命を育む偉大な自然なのだ」と確信にいたる。国内の遊覧船に比較すると5時間という長いクルーズであるが,あっという間であった。船もゆっくりと進み観察ポイントでは停止してくれる。日本の日帰りクルーズももう少し工夫を凝らすことによって,豊かな自然環境をさらに価値あるものに転換できるであろう。