三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「LION」(邦題「ライオン 25年目のただいま」)

2017年04月28日 | 映画・舞台・コンサート

 映画「LION」(邦題「ライオン 25年目のただいま」)を観た。
http://gaga.ne.jp/lion/

 ♪あーだから今夜だけは~♪で始まる「心の旅」という歌がある。チューリップというバンドが歌っていた。何故か映画の途中でその歌を思い出した。
 映画のタイトルや作品紹介からだと、ありがちなロードムービーのような、あるいはGoogleアースをはじめとしたIT技術の紹介みたいな映画かと先入観を抱く人もいるかもしれない。
 しかし、さにあらず。作品を観ていくと、抱いていた先入観とのギャップが新しい感動を呼ぶ。これは、厳しい環境の中でも失われなかった愛の物語なのだ。
 テーマはさらに人類の歴史にまで及ぶ。無自覚に産み出されるインドの子供たち。様々な理由で孤児となる彼らは時に幼児性愛の対象として人身売買され、多くは救われずに死んでゆく。インドだけではない。世界中のどこでも、同じことが起きている。今我々は子供を生むべきなのか。
 人類のすべての不幸をその細い肩に背負って涙を流すニコル・キッドマンの演技は本当に素晴らしい。
 主演のデヴ・パテルは「奇蹟がくれた数式」で天才数学者のラマヌジャンという難しい役を見事に演じていたが、本作品でも微妙な立場で育った子供の感情を上手く表情にしていて、幸福に秘められた悲しみの心に、感情移入せずにはいられない。
 ルーニー・マーラは「ドラゴンタトゥーの女」が印象的だが、「キャロル」では名女優のケイト・ブランシェットに見劣りしない堂々とした演技に魅了された。この作品では悩む主人公に寄り添う、思慮深くて愛情に溢れる女性を好演。
 現実の空間の移動も勿論旅に違いないが、心の中での移動も旅だ。そして、生まれてきてから今までの時間の経過も、やはり旅なのだ。言い古された決まり文句ではあるが、さもない日常を生きる我々には、人が皆旅人であり人生は旅そのものだという言葉に心を揺さぶられるものがある。
 見ている最中に涙を流すことはないが、見終わってから思い出すひとつひとつのシーンに、言い知れぬ感動を覚える。この映画を観たことをいつまでも大切にしたいと思わせるような、味わい深い見事な作品である。


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