犯罪被害者の法哲学

犯罪被害・刑罰・裁判員制度・いじめ・過労死などの問題について、法哲学(主に哲学)の視点から、考えたことを書いて参ります。

過労障害損害賠償訴訟・鹿児島地裁判決

2010-02-23 23:54:37 | 国家・政治・刑罰
2月17日 読売新聞より

 支配人とは名ばかりで管理職の待遇もなく、早朝から深夜まで働いた末に倒れた元ファミリーレストラン支配人が会社側に損害賠償を求めた訴訟で、鹿児島地裁は16日、原告の主張をほぼ認め、経営側の都合で結果的に強いられた長時間労働を厳しく批判した。訴えたのは鹿屋市王子町の元ファミリーレストラン支配人の松元洋人さん(35)と両親。松元さんは2004年11月に倒れてから、約5年にわたって、意識が戻らず、寝たきりの状態が続いている。

 今回、地裁は松元さんが勤務していた康正産業(鹿児島市)に約1億9000万円の支払いを命じた。過労死弁護団全国連絡会議によると、賠償額は、過労による脳内出血で後遺症が残った大阪市内の男性(当時26歳)が勤め先の精密機器製造会社を訴えた裁判で、大阪地裁が08年4月に会社側に命じた約1億9800万円に次ぐ金額という。松丸正弁護士は「全面勝訴という形になり、画期的な判決となった。過労は、働いている人たちにとって今そこにある危機なので、会社や労働者自身が労働環境を見直すきっかけになってほしい」と話す。

 判決後、松元さんの父親の美幸さん(66)と母親の紀子さん(60)は県庁で記者会見を開き、「精神的な重みが一つ取れました」「息子に今すぐ伝えてあげたい」と述べ、目に涙を浮かべた。松元さんは現在、自宅で療養しているが、両親がたんの吸引や食事の注入など、付きっきりで介護をしている。今回の判決では、会社側に松元さんの両親に対しても、慰謝料として315万円ずつの支払いを命じた。両親の心身への負担を考慮した司法判断で、これまで認められたケースは少ないという。


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 この事件に限らず、裁判を終えた弁護士からは、「画期的な判決」とのコメントが聞かれることがよくあります。これに対し、原告当事者本人からは、そのようなコメントが聞かれることはまずありません。そして、この両者の微妙な差異には、愕然とするほどの懸隔があるように感じられます。
 事件に巻き込まれた当事者本人の中には、「画期的な判決」を心底から喜ぶ人もおられるでしょうし、「画期的」などという言葉は聞きたくない人もいらっしゃるでしょう。他方、弁護団にしてみれば、「画期的な判決」を求めて戦うことは絶対的な正義だと思われます。華々しく活躍する渉外系弁護士を横目に、儲からない仕事を地道に続けるには、「画期的な判決」を得る喜びなくしてはやってられないという部分もあるのだと思います。

 例えば、息子を過労死・過労自殺で失った両親が、「画期的な判決」を目の前にして、「私は社会の改善のために息子を生んだのではない」と述べることは、法的には理解不能だと思われます。そして、「画期的な判決」を得るために尽力した弁護団に対して、理解できない文句を言っていると捉えるのが世間の常識です。そして、最後は、両親は感情的な混乱で正常な判断ができないということで片付けられ、同情の視線を向けられて終わりだと思います。
 また、両親が息子を守れなかった自責の念を表明するや否や、周囲は反射的に慰めにかかるのが通常のことです。こうなってくると、「画期的な判決」を求める善意に対しては、両親は決して反対の念を述べることができず、多くを語れなくなるものと思います。

 私は、ニュース番組(報道ステーション)で松元さんの両親が付きっきりで洋人さんの介護をしている姿を見て、ただただ圧倒され、最敬礼をするのみでした。そして、このような無償の介護を前にしてしまうと、賠償額の1億9000万円の多寡に関する法的議論は無意味に思われました。
 もちろん、私の考えは非常に幼稚であり、経済社会では全く通用しないものと思います。「下手に生きているよりも死んでしまったほうがいい」という考えが経済効率の上では正しく、「たとえ障害が残っても生きていてくれるだけでいい」という考えでは経済は回らないからです。そして、世界の片隅で息子を介護している両親の存在は忘れられ、1億9000万円という数字が判例集の輝かしい1ページを飾るものと思われます。

 原告側の松丸弁護士は、「できるだけ安い労働者を使おうとする企業の体質が根本的に変わらないと、この種の問題はなくならない」と訴えていました。その通りだと思います。そして、長期の裁判で全面勝訴の判決を勝ち取った同弁護士に敬意を表したいという気持ちになりました。しかしながら、松元さんの両親に対する敬意には遠く及びませんでした。
 また、過労死・過労障害の原因が企業の営利体質にあり、それが人間の金銭欲の集まりでしかないならば、判決を画期的たらしめるものは賠償額や法理論ではなく、息子を介護する両親の無償の愛以外にはないと感じました。「会社の営利の追求」と「両親の痰の吸引」を比較し続けるのでなければ、この種の人災はなくなるはずがないとも思います。

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1 コメント

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虚偽は正当な弁護士業務だ ! (月光)
2010-12-03 21:40:08
 日弁連・会長:宇都宮健児は、「虚偽(詐害行為)は正当な弁護士業務だ」と主張(議決)して、懲戒対象弁護士を擁護し、これを撤回せずに、裁判で争っております。

 弁護士を指導・監督する立場にある宇都宮健児のこの行為は、不法行為を教唆するものであり、国民への背任です。

 表向きは、社会正義の実現(弁護士法1条)を強調しながらも、裏陰では、「虚偽(詐害行為)は正当だ」と指導しているのですから.弁護士トラブルが急増するは当然です。
 
 日弁連・会長:宇都宮健児らは、提訴し、勝訴するための「虚偽は正当だ」との理念を抱き、当然のように実践する人間たちだということでしょう。
 

 そして、組織的な権力を得ている日弁連・会長:宇都宮健児らのこの裏影での卑劣な行為を国民は知ることができず、それをとがめる手段もないのです。

 国民は、日弁連・会長:宇都宮健児らのこの卑劣な事実を知るべきであり、この元凶者たちを排除すべきです。

法曹界に正義はありません。
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