犯罪被害者の法哲学

犯罪被害・刑罰・裁判員制度・いじめ・過労死などの問題について、法哲学(主に哲学)の視点から、考えたことを書いて参ります。

私の大学時代の「刑事政策」の答案

2010-04-13 23:34:11 | 国家・政治・刑罰
問:死刑について述べよ

 死刑とは、受刑者の生命を何らかの方法によって奪う刑罰であり、その社会的存在を抹殺する刑罰である。我が国の刑法では殺人罪をはじめとして11の罪に規定があるほか、5つの特別法にも死刑の定めがある。
 20世紀後半になり、欧州諸国が死刑制度を廃止し、1989年には国連総会が死刑廃止条約を採択し、現在の国際社会は死刑廃止の潮流にある。先進国と呼称される国の多くは死刑制度を廃止し、または執行停止をしているが、日本は現在でも死刑制度を維持しており、国際世論の風当たりは強まっている。

 死刑存置論と死刑廃止論をめぐっては、激しい対立が続いている。この点については、日本国憲法の原則から考えなければならず、ひいては近代憲法の人権尊重主義から考える必要がある。
 思うに、近代立憲主義の人権尊重は、その対象から犯罪者を除くものではなく、更生の可能性を否定するものではない。また、誤判の中でも死刑は取り返しがつかないものであり、他の刑罰とは本質を異にしている。さらに、死刑制度による威嚇力・犯罪抑止力は、科学的な因果関係が論証されていない。しかも、死刑を執行する職員の精神的負担は大きく、死刑は終身刑に比べ経費が安く済むともいえない。従って、死刑は廃止すべきである。

 それでは、死刑に替わる刑罰として、いかなる刑罰を創設すべきであろうか。思うに、仮釈放を厳格にした無期懲役刑を採用すべきものと解する。この点、仮釈放のない終身刑制度は、死ぬまで釈放されない絶望感を受刑者に与えるものであり、憲法の禁止する残虐なる刑罰であり許されない。
 他方、被害者遺族は、家族を殺害されたという直接的被害にとどまらず、報道機関や司法関係者などから心ない干渉を受けるなど二次的被害を受けることが多い。よって、カウンセリングなどの施策を充実させるべきことも我々は決して忘れてはならないであろう。


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 これは、中間試験の前に出回っていた「模範答案」の骨格です。先輩から後輩へ、同級生相互間で、脈々と受け継がれていました。私を含め多数の同級生は、自分の本音としては死刑は必要であると考えていても、答案では死刑廃止が妥当であると書いていました。なぜなら、刑事政策学においては死刑廃止論が「正解」であり、それを前提として代替刑の内容が論じられており、終身刑の可否という論点に大きな配点があったからです。

 法律学を学ぶとは、その実証主義のパラダイムを学ぶことです。そして、刑事政策学では7段階の定式(定義・意義・現状・特徴・原因・問題点・対策)が決まっており、そのルールを守らない答案は、法律論になっていない素人の作文として酷評されていました。そもそも刑事政策学とは、犯罪者の更生・社会復帰を論じる学問ですので、死刑の肯定は学問の存在意義において背理を生じます。実務家や学者になるための試験も、この動かし難いパラダイムの延長線上にあるように思われます。