犯罪被害者の法哲学

犯罪被害・刑罰・裁判員制度・いじめ・過労死などの問題について、法哲学(主に哲学)の視点から、考えたことを書いて参ります。

犯罪被害者問題ではない犯罪被害者問題

2009-04-04 22:42:51 | 実存・心理・宗教
朝日新聞 4月4日付け朝刊 「事件・追う迫る」 『多額の紹介料 医師ら次々被害』より

「高級デートクラブ」から紹介された女性だった。「わがまま交際で満足をゲット」。スポーツ新聞の広告欄で見たそんな文句にひかれて電話した。女性が退席すると、入れ替わった若い男が説明した。「女性はあなたのことを気に入ったようです」。30回会う契約で1回に8万円もらえる。正式な紹介には350万円必要だが、最後に多額のボーナスもつくので、あなたがもうかる仕組みと言われた。昨年、都内の主犯格の男(30)が逮捕された。起訴された分だけで被害者9人、計約1億3200万円。検察の論告によれば、全体で約350人、被害総額8億円にのぼる詐欺だった。交際相手を求める女性は金持ちだけ。入会してつきあった男性は小遣いまでもらえる―。そんな話に医師や経営者ら、社会的地位の高いとされる人が次々ひっかかった。

「男性が惹かれる状況をつくり上げる。そんな話が本当にあるのか怪しいものだけど、男性だって女性とつきあって金も欲しい。甘い汁を吸いたい。そういう心理を逆手にとる」。職業や収入なども聞くが、隠したがる人が大半だ。だから、さりげなく探る。車はアピールできますか? ベンツ? 女性が喜びますよ。そんな会話から、引き出せそうな金額を見積もる。女性は、つてのある風俗店などから紹介してもらう。5~10人いれば足りた。 「金持ちみたいな格好にしてきて」と注文すれば、ルイ・ヴィトンやエルメスといった高級バッグやスーツを身につけてくる。あとは簡単な口裏合わせをするだけだった。被害は全国に広がる。千万円単位の被害にあった人も珍しくない。「海外へ行った」などの理由で女性と会えなくなると、別の女性を紹介されては新たに金を求められる。

8千万円以上だましとられたある医師は「まさか自分が、と思った」と話す。「詐欺とわかり、自殺すら考えた」と憤り、声を震わせた。地裁の論告で、検事は「家族に打ち明けられずに泣き寝入りしている人が多い。後ろめたい心情を逆手にとった卑劣でこうかつな犯行」と指摘した。「被害者はみんな、怪しいとは思っていたはず。でも心のどこかできっと大丈夫だと信じてしまう。その見極めが甘い人はだまされてしまう」。男は1億円を超す分け前を得たが、結局、被害弁済ではき出した。一審判決は懲役4年6カ月。3月半ば、刑が確定する直前に記した手紙が届いた。「冷静に考えればそんなうまい話があるはずないのに、欲に目がくらんだ人は疑うこともしない。だまされる側も脇が甘いというか、つけいられる隙がありすぎる」。


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犯罪被害者救済、犯罪被害者支援という範疇を設定すれば、このような事件まで含まれてくるのは必然的である。現に検察官は、「後ろめたい心情を逆手にとった卑劣でこうかつな犯行」と指摘し、被害者感情を厳罰に結び付けて論告・求刑を行っている。しかしながら、こうした事件の被害者の言い分は、犯罪被害者の問題の本質とは似て似つかぬものである。こうした事件の存在が、「被害者の特権に名を借りた恐喝まがいの事件屋」「多くの場合には被害者側にも落ち度がある」といった余計な概念を混入させてしまうのは迷惑な話である。私自身、この8千万円以上を騙し取られた医師には、何の同情も湧かない。自殺を考えたと言われても、命の重さという概念を持ち出すのも恥ずかしく、かえって命が汚れるような気がする。ただ、その医師に診察された患者が気の毒である。