先週、『キッチン・ストーリー』という映画を観た。スウェーデンの学者たちが、独身男のキッチンにおける動線を調べようとして、調査団をノルウェーに送るところから始まるストーリー。舞台設定は50年代初頭。簡素なセットの中にミッドセンチュリーの家具が登場するところも魅力だ。
この作品はいわゆるスロー・ライフのお手本とも評価されている。スロー・ライフといえば、真っ先に思い浮かぶものが食文化だ。昨今のファースト・フードの対義語としてのスロー・フード。のんびりとシチューを作る。調理の時間を楽しんで過ごす。生活の基盤は食、そこから全体を見直そうというものだ。
しかし『キッチン・ストーリー』では、時間をかけて調理をするようなシーンは一カ所も出てこない。缶詰のソーセージと酢漬けのニシンをそのまま食べる。手弁当はライ麦パンにチーズを挟んで一個のゆで卵を添えただけ。そんな質素を極めた食事の描写ばかりだが、ことさら美味そうに見えてくるから面白い。
スロー・ライフには「シンプル」という言葉が重要な関わりを持ってくるようだ。そしてミニマリズム。もともとは美術用語だが、昨今はライフスタイルを語るときにも頻繁に登場する。「余計な装飾を一切省いたもの」「最低限のものだけで」という意味だ(過去記事『スロー・スロー・クイック・クイック』も参照されたし)。
新鮮なアスパラを買ってくる。産地を見ると信州だ。R141、清里、信濃平、燃えるような糸杉の紅葉、そんな光景を思い浮かべながら湯がく。あざやかなグリーンになったところでその残り湯を使って卵を一つ茹でる。どうせ固茹でにするのだから気を遣うことはない。お気に入りの大きな器を出しておく。音楽は何にするか暫く真剣に迷う。久しぶりにスリー・テノールズの日本公演を聴こうと決める。安い赤ワインを一口飲んで、ゆで卵を細かく刻む。水分をしっかりととったアスパラを器に並べ、上から刻んだゆで卵をバラまく。塩、胡椒を振ってエキストラ・バージン・オリーブオイルを垂らせば立派なイタリアンの一品である。
カルロスが、ドミンゴが、パヴァロッティが、「川の流れのように」を歌っている。ゆっくりと信州産のアスパラを味わう。紙パック入りのカリフォルニア産ワインを飲む。オリーブオイルはトスカーナ産。調理はほんの十数分で済んでしまった。その間に心は信州、霞ヶ関、カリフォルニア、トスカーナと各地を巡る。充実した、ごくありふれた日常の生活。これ以上望むものをあえてあげれば、隣に落ち着きと優しさに溢れた女性が一人というところ。無論そちらはあまりスローに構えていられないのだが。
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しかし、アスパラのサラダ、目に浮かびます。
アスパラのサラダ、なんかとてもスタンダードなメニューだそうです。そして殿方の力の源になると信じられているらしい・・・。試してみますか?
といいつつ、明日のお昼は、じゃんがらラーメンを食べに行くのだ!
最近、野菜や豆腐は近くの商店で買うようになって(特に野菜は)路地ものが多くなりました。売ってる人を通して作ってる人の顔も見えてきそうで。それになんといっても安いですし(笑)
それを一緒に楽しんでくれる人がいれば云う事ナシと云うところもハヤトさんに賛同(笑)
にしかはさんがコーヒーを淹れるために水を汲みにいくのもやっぱりスロー・ライフですよね~。
でもですねぇ、実はスローフードってなんのことか知らないのですよ。流行とか言いますが、意味は昔から良いとされてることを名前をつけて再確認したと言うことでしょうか?
アスパラは大好きだから安いとたくさん買いますが、アメリカで買った時は「おぉうアスパララヴァーだね^-^!」って
レジのおじちゃんに言われました。(笑)おじちゃんも好きだったみたいですが、食べ過ぎると口がにおっちゃうとかなんとか、ベラベラしゃべってましたがそんなことないですよね~。(笑)北海道のアスパラも美味しいですよん☆
お口が匂うというのは僕も初耳でっす。お野菜のいい匂いになるのか知らん。