「光の賛歌 印象派展」 東京富士美術館

東京富士美術館
「光の賛歌 印象派展ーパリ、セーヌ、ノルマンディの水辺をたどる旅」
2013/10/22-2014/1/5



東京富士美術館で開催中の「光の賛歌 印象派展ーパリ、セーヌ、ノルマンディの水辺をたどる旅」を見てきました。

今年も数多く開催された印象派関連の展覧会。例えば都内では西洋美術館の「モネ、風景をみる眼」に国立新美術館の「点描の画家」など。いずれも大規模。それぞれに個性があり、また見応えがあった。さて一方で「光の賛歌」。会場は都心から離れた八王子の東京富士美術館です。ともすると埋没してしまう感があるかもしれません。

しかしながら実際に足を運んで驚くばかり。まさかこれほど充実していたとは思いもよらない。それこそ上記の展覧会と比べても遜色ない内容となっていました。


アルフレッド・シスレー「モレの橋」1893年 オルセー美術館

さて充実の「光の賛歌」、まず際立つ個性とは何か。それはシスレーです。本展はサブタイトルにもあるようにセーヌやノルマンディの景色、つまり印象派画家の描いた「水辺」に着目していますが、その中でも重要なのがシスレーの扱い。全80点弱中、シスレーが17点を占めている。近年の印象派展においてこれほどまとまって出ているのを見たことがありません。

しかも作品は粒揃い。所蔵はテート、フィラデルフィア、オルセー、ボストン、オランジュリー美術館など。また申し遅れましたが、本展出品の絵画の大半は海外の美術館のものです。

何も常に海外館の作品が良いと言うわけではありませんが、やはりここはポイントではないかと。私が印象派で一番好きな画家はシスレー。次から次へと続くシスレーの作品群。それを前にしただけでも感無量でした。


アルフレッド・シスレー「春の小さな草地」1880年 テート

いくつか簡単に例を挙げましょう。まずはテート所蔵の「春の小さな草地」(1880)。シスレー一流の明るい色遣いが目に染みる一枚。セーヌの川沿いの小路。軽やかな筆致による樹木がリズミカルに並ぶ。青い服の少女は画家の娘ジャンヌ。11歳の頃の姿だと言われています。

またシスレーといえばモチーフに洪水を取り込んだ画家でもありますが、中でも一推しは「モレの洪水」(1879)。ブルックリン美術館の作品です。色を散らすかのような動きのある筆致が全体を象っている。オルセー所蔵の傑作「ポール=マルリーの洪水と小舟」とはまた異なった印象を与えます。

さらには晩年に描かれた作品も。富士美術館の「レディース・コーヴ」(1897)です。岩のゴロゴロした海岸線。海辺には水と戯れる人々の姿。シスレーが実際に南イングランドを訪れ、現地で制作したという作品。時は死の2年前。既に病に冒されていたそうです。それでも意外なほどに筆致は力強い。エメラルドグリーンに染まる海の色が際立っていました。

ボストン美術館からやって来た「サン=マメスのロワン川」に惹かれました。鱗雲の靡く大きな空に縦へとのびる樹木。そして手前へと蛇行して流れる河。水面には小舟も。また木々の緑と空の青みが写り込んでいる。彼方には鉄道のアーチ橋を見て取ることも出来る。あくまでも穏やかでかつ趣き深い水辺の景色。これぞシスレーの醍醐味とも言えるような作品でした。

さてシスレーと並び主役を構えるのがモネです。こちらは点数としてはシスレーを上回る26点。睡蓮にアルジャントゥイユ。またプールヴィルやディエップを描いた作品は複数枚展示。見比べることが可能です。


クロード・モネ「荒天のエトルタ」1883年 ビクトリア美術館

あえて挙げるとしたらビクトリア美術館の「荒天のエトルタ」(1883)でしょうか。ノルマンディの岸壁を襲う大波。波濤は割れて白く輝く。時に靄のようにも見える表現はモネらしい。手前の海岸線に立つのは二人の人物。海を前にするとあまりにも小さい。自然の力強さ、雄大さを表しています。


ギュスターヴ・カイユボット「トルーヴィルのレガッタ」1884年 トリード美術館

その他で目につくのはピサロ、ブータン。ともに8点と6点。またカイユボットの「トルーヴィルのレガッタ」(1884)も印象的です。紫色に染まる空。彼の別荘の奥に広がる海にはカイユボットの愛したボートが多数浮かんでいます。

展示はこのように殆どが風景画。人物画は僅かですが、その中ではチラシ表紙を飾るルノワールの「プージヴァルのダンス」(1883)が傑作です。ボストン美術館からの作品。縦1.8m。縦長の構図感でカップルの全身を捉えて背景にはおそらくは酒を交わす人の様子も。地面に落ちたタバコの吸い殻がカフェの雑踏をも示しています。


クロード・モネ「アルジャントゥイユのセーヌ川」1873年 グルノーブル美術館

ともかく感想を連ねていくとキリがありません。シスレーを筆頭に印象派の魅力を伝える展覧会。実のところ、諸々の事情もあって、行くかどうか迷っていたのですが、見終えた後は大変な充足感を得ることが出来ました。

さて印象派展。これだけでも十分に満足し得るものですが、もう一つ嬉しいのは常設の西洋絵画コレクションも観覧出来ること。そもそも順路からして先に常設、次に印象派展です。ルネサンス、バロック、ロココに新古典主義、そしてアカデミスム絵画から印象派まで。あわせて63点の西洋絵画が展示されています。


アンリ・ル・シダネル「森の小憩、ジェルブロワ」1925年 東京富士美術館

同美術館のコレクション。例えば西美ラトゥール展に出ていた「煙草を吸う男」や、埼近美のシダネル展での「森の小憩」など、他館の企画展で目にすることもありますが、当然ながらまとまって見る機会はないもの。これがまた充実しています。

例えばクロード・ロランの「小川のある森の風景」。雄大な自然の景色の中で戯れる人々。何でも古代ギリシア神話のモチーフを取り込んでいるとか。筆致も実に繊細です。またブリューゲル(子)の「農民の結婚式」やロイスダールの「宿の前での休息」、そしてターナーの「ヘレヴーツリュイスから出航するユトレヒトシティ64号」も魅力的でした。


カミーユ・ピサロ「ルーアンのボワエルデュー橋、日没」1896年 バーミンガム美術館

バロックから西洋絵画の系譜を辿りながら印象派へと至る。実際に「光の讃歌」展の冒頭においてもターナーが出ているなど、言わばコレクション展と連動するような形がとられています。コレクション展から企画展への流れも効果的でした。

東京富士美術館へは初めて行きました。最寄り駅はJR線、及び京王線の八王子駅です。ともに駅前から出ている西東京バスの「創価大正門東京富士美術館」行きに乗車して約15~20分ほど。土日は毎時4本程度の運行。なおJRの八王子駅からは直行バス(土日には臨時バスも)も出ています。

現地はちょうど創価大学の正門の真ん前、大学構内ではなく別の施設です。それにしても立派な建物。館内にはカフェの他、広々とした休憩スペースなどもあります。ファミリーで来られている方も目立ちました。

また無料の駐車場もあります。車なら村内美術館もすぐです。そちらとハシゴするのも面白いかもしれません。

「シスレー (アート・ライブラリー)/リチャード ショーン/西村書店」

2014年1月5日までの開催です。ずばりおすすめします。

*東京展終了後、福岡(福岡市博物館:2014/1/15~3/2)と京都(京都文化博物館:2014/3/11~5/11)へ巡回します。

「光の賛歌 印象派展ーパリ、セーヌ、ノルマンディの水辺をたどる旅」 東京富士美術館
会期:2013年10月22日(火)~2014年1月5日(日)
休館:毎週月曜日(祝日の場合は開館。翌火曜日休館。)。及び年末年始(12/27~1/1)。
時間:10:00~17:00(入館は閉館の30分前まで。)
料金:一般1200円(1000円)、大学・高校生800円(700円)、中学・小学生400円(300円)
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *毎週土曜日は小中生無料。
 *誕生日当日に来館すると無料。
住所:八王子市谷野町492-1
交通:京王線八王子駅西東京バス4番のりば、及びJR八王子駅北口西東京バス12番のりばより創価大正門東京富士美術館行、もしくは創価大学循環にて約15~20分。無料駐車場あり。
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