「変り兜:戦国のCOOL DESIGN」 とんぼの本(新潮社)

新潮社とんぼの本、「変り兜:戦国のCOOL DESIGN」を読んでみました。

「変り兜/橋本麻里/とんぼの本」

「鉄黒漆塗十二間筋鉢兜」に「金箔押唐草透風折烏帽子形兜鉢」に「大輪貫鳥毛頭形兜」。

何やら厳めしいまでの漢字がずらずら。実はこれ、いずれも戦国時代の武将の冠った「兜」の名称。しかしながらこれでは兜のイメージが浮かび上がってこないのも事実。その魅力までを伝えるのは難しいかもしれません。



では素直にビジュアルとして捉えた時はどうなのか。例えば一番目の「鉄黒漆塗十二間筋鉢兜」(上写真)はご覧の通り。凄まじくデコラティブな造形美です。渦を巻き、さながら大樹がそびえるように立つ二本の角。まさに勇壮。一度見たら忘れないほどに強烈なインパクトではありませんか。

ずばり本書は戦国期の兜におけるビジュアル面から読み解いていく。その上で何故にこうした「変り兜」が戦国期に生まれたのか。往時の時代背景や文化的素地を探る内容となっています。

著者はお馴染みの橋本麻里(@hashimoto_tokyo)さん。学術研究書ではありません。(兜の基本的知識については不足なく記されています。)聞き慣れない専門的用語で解説することなく、軽快でかつノリの良いテキストで、変り兜の美意識を引き出す。これが面白いのです。



中を見ましょう。まず目次から。いくつかのキーワードにて変り兜を分類していますが、そこからして個性的。例えば「マジンガー」に「タワー」に「ウサミミ」。ぐっと惹き付けられはしないでしょうか。



「タワー」は一目瞭然、鉢から上へ長い烏帽子が伸びているのが特徴。では「マジンガー」はどうでしょうか。ようはロボット、メカ風です。今のSFに連なるようなデザイン。実際に「マジンガー系一の美のシルエット」と名付けられた「黒漆塗錆尾形兜」(上写真右)では、永野護作のコミック「ファイブスター物語」までを引用します。



またマジンガー系の真打ちという「黒漆塗雁金形兜」(上写真)では橋本さんのテキストも最高潮に。もう興奮されたのか「キターーー(゜∀゜)ーーーー!!」というAAまで登場。確かに惚れ惚れするほど切れ味の鋭い曲線美です。とんぼの本らしかぬテンションの高い語り口でぐいぐいと攻め込んでいました。



私が驚いたのは「五輪塔六字名号頭立兜」(上写真右)です。鉢の上にのるのは五輪塔。そして南無阿弥陀仏の文言。まるで墓のようなデザインを何故に兜にしたのかと思いきや、元は密教における五大要素を組み込んだものだとか。またその隣のページにある「黒漆塗執金剛杵形兜鉢」(上写真左)も凄い。橋本さん曰く全掲載中最も「ドヤ感が強い」とのことですが、ぐっと伸びた腕が天高らかに金剛の杵を掲げる。肉感的。ロダンの彫刻を思い出しました。



もはや過剰なまでの装飾性。敵に己の姿をあえて示す武人の心意気。「かっこよくなきゃ戦う意味がない」とは橋本さんの言葉です。しかしながら意表を突くとでもいうのか、思いの外に地味でかつシンプルな兜も。それが「銀白壇塗合子形兜」(上写真)です。お椀を逆さに載せたような山型デザイン。それ以外の飾りは一切なし。秀吉の軍師、黒田官兵衛所用の兜だそうです。

ともかくこうした変り兜が次々と登場。その数60点。いずれも鮮明なカラー図版付きです。パラパラとめくりながらテキストを追う。思わず笑ってしまうほど面白いものも少なくありませんでした。

さて一方で言わば『読ませる』箇所があるのも本書の大きな魅力です。それが「変わり兜とその時代」と題した4つのコラム。うち3つは橋本さん。戦国時代や洛中洛外図における都市の様相、また戦場での武士の戦い方(これが一番面白い。)などについて書かれています。



そして最後の4つ目は「変り兜はこうして生まれた」。歴史研究者である藤本正行氏の解説です。南北朝時代にまで遡り、変り兜の登場過程や特徴についてまとめている。論功行賞と兜の関係。目立つ兜は敵を威嚇しただけでなく、味方の士気も高めた。また図説「日本の甲冑ヒストリー」も。時代において意匠も変化した甲冑。室町と安土桃山。それぞれの甲冑の特徴の違いを知る方がどれほどいるでしょうか。実に参考になりました。

変り兜。例えば東博常設の甲冑の展示でもいくつか見ることが出来ます。しかしながらこれまでは不思議とそう足を止めることはありませんでした。しかしながら本書を読んだ後は別です。時にヘンテコな造形。それが如何に面白いか。むしろもっと見たいという欲求にかられました。

さて最後に一つ、兜に関する展示の情報です。年明け早々、三島の佐野美術館にて「戦国アバンギャルドとその昇華 兜 KABUTO」展が開催されます。



「戦国アバンギャルドとその昇華 兜 KABUTO」@佐野美術館(2014/1/7~2/11)

主に戦国時代の兜や鎧、約40点の他、兜などの描かれた屏風絵や武具まで、約150点ほどが展示されるそうです。同館サイトのリリースを見ると、この著作に出てくる変り兜の図版もあります。会期は一ヶ月ほどと短めですが、とんぼの本を片手に出かけたいものです。(残念ながら橋本さんのトークはないようです。)

新潮社とんぼの本シリーズから「変り兜:戦国のCOOL DESIGN」。おそらくこれほど今の感覚に引き付けて兜を紹介した本は他にありません。是非ともおすすめしたいと思います。

「変り兜:戦国のCOOL DESIGN/橋本麻里/とんぼの本」

「変り兜:戦国のCOOL DESIGN」 とんぼの本(新潮社
内容:戦場のオシャレは命懸け。兜は見た目が9割?戦国の武将たちが競いあうように作らせた「変り兜」60点を一挙公開。虫愛づる殿やカニ将軍、ウサミミ男子にSFマジンガー系など、キッチュでバサラな造形はなぜ生れたのか。そもそも「戦国時代」とは何か。合戦のリアルな真実とは?ワビ、サビ、イキだけではない、「B面」の日本美が明らかに。
著者:橋本麻里。ライター。編集者。明治学院大学非常勤講師(日本美術史)。1972年神奈川県生れ。国際基督教大学教養学部卒業。
価格:1680円
刊行:2013年9月
仕様:125頁
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )