「ルオー 大回顧展」 出光美術館

出光美術館千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階)
「没後50年 ルオー 大回顧展」
6/14-8/17



没後50年に相応しい展覧会です。世界最高規模を誇るという出光のルオーコレクションを総覧します。出光美術館で開催中の「ルオー大回顧展」を見てきました。



ルオーの回顧展と言えば、同じく出光コレクションの出品されたMOTのそれを思い出しますが、今回も彼の画業を時系列に辿りながら、「ミセレーレ」や「受難」シリーズなどの核心をも提示する、質量ともに充実した正統派の展示に仕上がっていました。やや手狭な出光の空間で見るルオーは、どこかいつも以上に濃厚です。私にとってルオーとはいつも向き合うと言うより、少し時間をあけながらも定期的に見ていきたい画家の一人ですが、ちょうどMOTより3年の時をあけての観賞は、また彼への新たなるシンパシーを感じる切っ掛けにもなりました。ステンドグラスというよりも、石細工を見るかのような分厚く、また輝かしいマチエールと、信仰に裏打ちされた慈愛に満ちたキリスト主題、もしくは曲馬師や道化師らをモチーフとした、愉し気なようでもどこか夢見心地の儚さを醸し出している作品群は、何度接してもルオーを見た時だけに得られるような安らぎを感じます。決してルオーは最愛の画家ではありませんが、絵を見て与えられる充足感という点においては、他に並ぶ者の少ない画家であることは間違いありません。



あまりにも個性的なため、全てが一緒にされてしまうようなルオーの画風ですが、こうして年代別に丹念に追うと、またそれぞれの差異にも注視して楽しむことが可能です。例えば比較的初期の「三人のヌード」(1907)におけるセザンヌを思わせるような瑞々しい青みは、中期に入るとさらに輝かしさと力強さを増し、「シエールの思い出」(1930)のような、もっと底抜けに深い青を用いた、色面だけ見れば殆ど抽象のような特異なスタイルへと転化していきます。またこれら『スクレイパー』(絵具を削り取りながら、またその上に塗っていく方法。)と呼ばれる技法は、後に代表作「受難」を描く際、その制作スピードをあげる観点から徐々に放棄され、今度は『オート・パート』と呼ばれる厚塗りへと変化する様も興味深く思えました。ちなみにその「受難」の下絵を油彩に改めることを勧めたのは、ルオーと関係の深いかの有名画商、アンブロワーズ・ヴォラールです。ルオーの多作な、それでいて彼を特徴付けるマチエールが、ヴォラールという画家の外にある要因より形付けられていたと思うと、またその印象も変わってくるのではないでしょうか。

静かに絵と向き合うにはこの上ない展覧会です。今月17日まで開催されています。
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