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「国宝 鑑真和上展」 静岡県立美術館

静岡県立美術館静岡市駿河区谷田53-2
「唐招提寺金堂平成大修理記念 国宝 鑑真和上展」
7/12-8/31



約10年にも及ぶという金堂の解体修理を兼ね、全国を津々浦々と廻ってきた一連の鑑真展もそろそろ終わりを迎えています。巡回最後の地は静岡です。「鑑真和上展」へ行ってきました。

美術に関心を持つ前の2001年の鑑真展(都美)はおろか、まだ仏像に興味の無かった2005年の展示(唐招提寺展@東博)を見逃していた私にとって、静岡開催の今展観はこの上ない機会であったのかもしれません。(これまでの巡回先一例。)もちろんあしかけ10年にも渡る展示と言うことで、その内容については異なる部分もあるそうですが、お馴染みの「鑑真和上像」をはじめ「四天王像 - 広目天、多聞天」、または黄金の眩い「金亀舎利塔」、さらには鑑真の来日への苦難を伝える「東征伝絵巻」など、この機会だからこそ公開され得るような貴重な寺宝、約140点(国宝9件、重文34件)の響宴はさすがに見応え十分でした。最近の薬師寺展、及び法隆寺金堂展などに見られるような一種の演出こそありませんが、(360度拝見出来る仏様は一体のみ。)鑑真の世界に浸るのに申し分はないでしょう。たっぷり2時間近くかけて楽しんできました。



身の引き締まるような厳格な書体にて唐招提寺と書かれた、孝謙天皇直筆という「勅額」を過ぎると見えてくるのは、横一列に並んだ四体の仏像、つまりは四天王より「広目天」と「多聞天」、及び「梵天立像」と「帝釈天立像」(いずれも奈良時代)です。(講堂所在の「持国天」と「増長天」も別コーナーにて展示。)どれも比較的端正で、あまり動きの少ない仏様ですが、晦渋に満ちた面持ちで前を見据える「多聞天」、そしてどっしりと立つ「広目天」は貫禄十分でした。残念ながらこれらの仏様の後ろには衝立てがあり、後方よりのお姿を拝見することは叶いませんでしたが、横から見るとその重々しい体躯が意外と引き締まっていることが分かります。また「広目天」の頭部、そして四天王二体の袖下の衣のうねるような立体的な表現も力強いものがありました。正面と横からでは、随分と表情の違って見える仏像と言えるかもしれません。



私が挙げたい展示のハイライトは、5度の難破、そして失明と、苦難の12年の末に来日した鑑真の生き様を表した「東征伝絵巻」(鎌倉時代)です。そこには陸より小舟にのり、日本へ向かった鑑真一行の旅が鮮やかな色彩感にて描かれていますが、このように視覚的な形にて、例えば一度海南島まで流された後、当地に教えを伝えたというエピソードの他、弟子を失い、さらには失明しても日本を目指したという様子に接すると、謂れの有名な来日行における鑑真の強靭な意思と行動力を改めてリアルに感じ取ることが出来ます。これは必見です。



そのような「東征伝絵巻」での鑑真の生き様を体感した後にて、かの有名な「鑑真和上像」を拝むと、また格別の重みがあるようにも感じられます。ここはやや照明が暗く、また仏像を安置するガラスケースも若干遠いので、手に取るようにとまではいきませんが、なだらかな肩から膝にかけてのライン、そして一部に残る彩色などをじっくり確認することが出来ました。そしてもちろん素晴らしいのは、迫真のリアリズムにて残されたお顔の表現です。一見すると、その閉じた目から口元にかけて、どこか険しい表情をしているようにも思えますが、しばらく眺めていると慈愛の面持ちをしているようにも感じられます。全てを達観した後の、澄み渡る内面が示されていました。



彫像がかなり多く出ているのもこの展覧会の特徴の一つですが、その中では唯一、周囲よりぐるっと見ることの可能な「如来形立像」が印象的です。この仏像はいわゆる唐招提寺のトルソーとして名高いものだそうですが、その欠落した部分にどこか神秘的な様相を感じさせるのは、例えばミロのヴィーナスやサテュロス像などを挙げるまでもないでしょう。すらりとのびるお体に、流麗な着衣と、まるで天女を見るかのような美感をたたえています。見事です。



その他には、亀の上に舎利がのっている金色の「金亀舎利塔」(唐時代)、または書跡として、光明子が父不比等と母三千代のために発願した経典、「老母六英経」(奈良時代)なども見応えがありました。それに最後に紹介されている、江戸時代の授戒会を再現した一角がなかなか秀逸です。また全て国宝指定を受けている、奈良より江戸時代にかけての瓦なども紹介されています。ご本尊のお出ましこそ叶いませんが、まさに唐招提寺の全貌を詳らかにする展覧会としても過言ではないかもしれません。

静岡県美名物ロダン館はもちろんのこと、出品数こそ少ないものの、壮観な「武蔵野図屏風」(江戸時代)や、かつてこちらのムック本でも紹介された江戸時代の鬼才、原在正の「富士山図巻」(1796)などの並ぶ常設展、「富士山の絵画」も相応に充実しています。(上記作品の展示は10日まで。12日以降展示替え。詳細はこちらのリストまで。)お見逃しなきようおすすめします。

解体修理を終えた唐招提寺のお披露目も待ち遠しくなってきました。展覧会は今月末、31日までの開催です。
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