都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「町田久美 - 日本画の線描」 高崎市タワー美術館
高崎市タワー美術館(群馬県高崎市栄町3-23 高崎タワー21)
「町田久美 - 日本画の線描」
6/28-8/24

近代日本画の系譜に関連付けられた町田久美の世界は、いつものコンテンポラリーな様相とはいささか異なって見えます。国内の美術館では初めてとなるという、町田久美の個展です。館蔵の近代日本画の展観を第一部(18点)に置き、その後に全37点の町田作品(第二部)が続く構成となっていました。
町田久美の半ば前座をつとめているのは、深水や松園、それに古径らと言った、名だたる近代日本画家です。出品は計18点と多くはありませんが、それこそ線描では他の追従を許さない松園が二点も出ているのには感心させられました。松園お得意の涼し気な簾越しに、さながら涼をとるかのようにして身を乗り出す「京美人之図」の美しさと言ったら比類がありません。また松園のような緊張感のある線とは対照的な、例えば力の抜けた緩みの線描で見る者を楽しませる、小川芋銭の「山村春遍・秋浦魚楽」も必見の一枚と言えるでしょう。4面に分かれたような長閑な山水の光景を、南画を思わせるタッチにて牧歌的に表しています。ついこの前の茨城県美の名品展で芋銭に惹かれていた私にとって、高崎でこのような大作を見られたことは嬉しいサプライズでした。
日本画の一角を過ぎると登場するのが、今回の展観の真打ち、町田久美の全37点に及ぶ近作群です。彼女の作品は西村の個展でも相応に出ていたので、その記憶も新しいところではありましたが、さすがにこれほどのボリュームをもってすると、またさらに印象を深めるものがあります。スプーンのそれこそ成分が変化したのか、先がにゅっと手のひらへ突き刺さる「成分」をはじめ、何やら皮膚の表面を箸でぐいっとつまみ出すかのような「対処法」、そしてつり革部分と手が溶け合って一体化した「帰宅」など、簡素なモチーフながらも、意外な組み合わせの生む世界観はまさしく痛快です。艶やかな線に見惚れながらも、それとは対照的なおどろおどろしさがまたたまらない魅力をたたえています。その辺のギャップもまた彼女の面白さの一つです。
展示は決して時系列に続くものではありませんが、過去作よりも近作の方がより一層、線描に揺るぎない自信の表れとも言えるかのような、ようは艶の中に見え隠れする力強さが発露されているようにも感じられます。またより簡素な展開を指向するモチーフは、とりわけ近作において人や事物同士の関係、しかも各々がすれ違いながらも、どこかまたくっ付きそうな緊張感をもっているという、緩やかな繋がりが意識されてきているようにも思えました。「画家のことば」という、町田自身の言葉が集められた解説シート(非常に良く出来ています。)によれば、和やかな様相を見せる「ごっこ」や「優しいひとたち」も決して繋がっているわけではありませんが、それでもそこには恥じらいながらも関係を望む意識が滲み出ているように見えてなりません。冷ややかな線描とアイロニカルな世界の中から、他者への思いや温かさが確実にわきあがっているようです。
今月24日までの開催です。なお同美術館は、高崎駅東口のロータリーを挟んだ真向かいに位置しますが、駅よりのデッキがまだ直結していないため、一度階段を降り、地上より若干迂回するかたちでしか入場出来ません。ご注意下さい。
*関連エントリ
「町田久美 Snow Day」 西村画廊
「町田久美 - 日本画の線描」
6/28-8/24

近代日本画の系譜に関連付けられた町田久美の世界は、いつものコンテンポラリーな様相とはいささか異なって見えます。国内の美術館では初めてとなるという、町田久美の個展です。館蔵の近代日本画の展観を第一部(18点)に置き、その後に全37点の町田作品(第二部)が続く構成となっていました。
町田久美の半ば前座をつとめているのは、深水や松園、それに古径らと言った、名だたる近代日本画家です。出品は計18点と多くはありませんが、それこそ線描では他の追従を許さない松園が二点も出ているのには感心させられました。松園お得意の涼し気な簾越しに、さながら涼をとるかのようにして身を乗り出す「京美人之図」の美しさと言ったら比類がありません。また松園のような緊張感のある線とは対照的な、例えば力の抜けた緩みの線描で見る者を楽しませる、小川芋銭の「山村春遍・秋浦魚楽」も必見の一枚と言えるでしょう。4面に分かれたような長閑な山水の光景を、南画を思わせるタッチにて牧歌的に表しています。ついこの前の茨城県美の名品展で芋銭に惹かれていた私にとって、高崎でこのような大作を見られたことは嬉しいサプライズでした。
日本画の一角を過ぎると登場するのが、今回の展観の真打ち、町田久美の全37点に及ぶ近作群です。彼女の作品は西村の個展でも相応に出ていたので、その記憶も新しいところではありましたが、さすがにこれほどのボリュームをもってすると、またさらに印象を深めるものがあります。スプーンのそれこそ成分が変化したのか、先がにゅっと手のひらへ突き刺さる「成分」をはじめ、何やら皮膚の表面を箸でぐいっとつまみ出すかのような「対処法」、そしてつり革部分と手が溶け合って一体化した「帰宅」など、簡素なモチーフながらも、意外な組み合わせの生む世界観はまさしく痛快です。艶やかな線に見惚れながらも、それとは対照的なおどろおどろしさがまたたまらない魅力をたたえています。その辺のギャップもまた彼女の面白さの一つです。
展示は決して時系列に続くものではありませんが、過去作よりも近作の方がより一層、線描に揺るぎない自信の表れとも言えるかのような、ようは艶の中に見え隠れする力強さが発露されているようにも感じられます。またより簡素な展開を指向するモチーフは、とりわけ近作において人や事物同士の関係、しかも各々がすれ違いながらも、どこかまたくっ付きそうな緊張感をもっているという、緩やかな繋がりが意識されてきているようにも思えました。「画家のことば」という、町田自身の言葉が集められた解説シート(非常に良く出来ています。)によれば、和やかな様相を見せる「ごっこ」や「優しいひとたち」も決して繋がっているわけではありませんが、それでもそこには恥じらいながらも関係を望む意識が滲み出ているように見えてなりません。冷ややかな線描とアイロニカルな世界の中から、他者への思いや温かさが確実にわきあがっているようです。
今月24日までの開催です。なお同美術館は、高崎駅東口のロータリーを挟んだ真向かいに位置しますが、駅よりのデッキがまだ直結していないため、一度階段を降り、地上より若干迂回するかたちでしか入場出来ません。ご注意下さい。
*関連エントリ
「町田久美 Snow Day」 西村画廊
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