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「プラド美術館展」 東京都美術館 その1 4/8

東京都美術館(台東区上野公園8-36)
「プラド美術館展 -スペインの誇り 巨匠たちの殿堂- 」
3/25-6/30

エル・グレコ、ベラスケス、ティツィアーノ、ファン・ダイク、ゴヤ。ヨーロッパ絵画史を飾った錚々たるビックネームが、今、上野に集まっています。じっくりと見れば数時間はかかるとも言えそうな、非常に見応えのある展覧会です。



展示点数は約80点ほどとそれほど多くはありませんが、ともかくどの作品も非常に優れたものばかりなので、惹かれた作品を挙げていくとキリがありません。元々大好きだったエル・グレコに惹かれつつ、ベラスケスの描写力に驚嘆し、さらには思いがけないほどに美しいムリーリョに魅入っている。気がつくとあれもこれもと名画へ入り浸っていた自分がいました。一回の鑑賞では全ての作品を味わい尽くせない。と言うことで今回のエントリでは、展覧会の前半部分、つまり第1章「スペイン絵画の黄金時代」と第2章「16、17世紀イタリア絵画」に限って感想を書いていきたいと思います。(第3章以降は、後日もう一回鑑賞する予定なのでその際に書きます。)



まず出迎えてくれたのはエル・グレコの4点でした。その中ではやはり「十字架を抱くキリスト」(1597/1607年頃)が一推しの作品でしょうか。輝く赤と青い衣に身を纏ったイエス。両手で抱えている十字架よりも、この衣の方が重厚な質感を見せています。そして彼の真っ白な手。細くサラッと伸びた指と爪はとても男性のものとは思えません。また両目はハッキリと天を捉えています。瞳の中にて、白く輝く一筋の光。そこには十字架を背負いつつも希望を見出すイエスの意思が感じられます。まるでイエスを包み込む柔らかいマントのような美しい背景も魅力的でした。



ベラスケスは5点展示されています。ここで挙げたいのは「道化ディエゴ・デ・アセド、"エル・プリモ"」(1635-44年頃)です。まるで哲学者のように思慮深い表情をしている一人の道化。この人物の描写にも惹かれますが、まずは彼が手にしている巨大な書籍に目が奪われます。手前に置かれているのはペン入れでしょうか。分厚い書籍をめくりながら何かを執筆している。そんなイメージも湧いてきます。また彼の纏う、まるで喪服のような衣装。非常に重厚な味わいです。自分で着たのではなく誰かに着せられた。彼がどこか人形のように見えてくるのは、この服の奇妙な質感によるのかもしれません。



第1章では、未知の画家ながらも思いがけないほどに魅力的な作品に出会えました。それはバルトロメ・エステバン・ムリーリョです。上にアップした作品は、その中でも特に目立っていた「エル・エスコリアルの無原罪の御宿り」(1660-1665年頃)。大きな瞳とくっきりとした鼻筋。まずは否応無しにその端正な顔立ちへと目がいってしまいます。白と青のハッキリとした衣装のコントラスト、そしてまさに後光のように美しく照っている背後の描写。天使たちが朧げに集ってさらに彼女を引き立てている。また胸の前で合わせている両手も必見です。ここだけ絵から飛び出してきそうな存在感を見せています。(他の部分は靄がかかったように霞んでいます。)心打たれる作品とはまさにこのようなものを言うのでしょうか。彼女の祈りがひしひしと伝わってくる作品でした。



第2章では、パンフレットにも掲載されている作品、テッツィアーノの「アモールと音楽にくつろぐヴィーナス」(1555年頃)がとても印象的です。当たり前の話ではありますが、この作品の実物の質感はパンフレットの印刷物と全く異なっています。印刷物ではヴィーナスの質感が荒く、肌には老いすら感じさせる部分がありますが、実物にそのようなことは全くありません。やや紅潮した顔、豊満な腕と体、そしてだらりと伸ばした両足。その全てが細かいタッチにて生き生きと描かれています。そしてベットに広げられた高貴な紫色のシーツ。折り目にあたった光が美しく反射しています。また、端に施された細かい刺繍はまるで電飾のように輝いていました。ヴィーナスの耳に光るピアスの立体的な描写とともに、彼女の美しさを引き出す演出が随所に凝らされています。

第2章の最後を飾るのは、この展覧会でも一際力強い作品、ジョルダーノの「サムソンとライオン」(1695-1696年頃)です。(作品画像と解説は「Megurigami Nikki」のNikkiさんのブログをご参照下さい。)後景を吹き飛ばすほどに大きく、また威圧的に描かれたサムソンの姿。隆々とした肉体と神々しいマスクはその主題からして当然かもしれませんが、ライオンの口を素手で切り裂く様子はともかく目に焼き付きます。なす術もないライオンはただサムソンの前に横たわるだけ。しかしよく見ると、サムソンに負けないほどに太く逞しいライオンの足が画面の前方へ突き出していることが分かります。力と力のぶつかり合い。陽を受けて白く輝くサムソンと、まるで地獄からの使者(本来は聖人の象徴であるようですが。)のような闇を纏ったライオン。そのコントラストも見事でした。

この先は、フランドルやオランダのバロック絵画が展示された第3章へと続きますが、その感想は次回見た際にまた書きたいと思います。東京都美術館の展示室があまりにも手狭に見えてしまうほどの大作ぞろい。確かに名画揃いの展覧会です。6月末までの開催です。

*関連エントリ
「プラド美術館展」 東京都美術館 その2 5/14
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