嘘の吐き方(うそのつきかた)

人はみんな嘘をついていると思います。僕もそうです。このページが嘘を吐き突き続ける人達のヒントになれば幸いです。

ピエロモニカファンタジー(電車が止まるまで)

2004年08月16日 20時42分53秒 | 旅行記
時間がない、時間がない。
東京駅の乗り換えの時間が一分しかない。

俺は焦った気持ちのままで開く予定の扉の前に立つ。
階段が俺の車両の位置を通過する。
俺は別の扉に向かって逆走する。

扉が開いた!
人の隙間を縫ってエスカレーターに飛び乗る、そのまま駆け上がる、
あたりをチャチャっと見回す、
次のエスカレーターを駆け上がる、
地下通路をダッシュする、
動く歩道の上もダッシュ!
動かない通路に足が接地した途端、急に加速したような錯覚が起きる。
そんな気持ちも無視してダッシュ!
次の動く歩道を走り抜ける、
東海道線を探して色を確認する、
オレンジ色の路線だーっとととにかくオレンジ色の案内看板に従って走り続ける、
ホームの番号が見えた、10番だ!
最後の階段を駆け上がり、列車の行き先電光掲示板を見る。
「ムーンライトながら号!」
扉はまだ開いているっしゃあああ乗り込む!

目の前の空席に座る。
(やった!俺の勝ちだ!)
ハァハァ言いながら汗だくで呼吸する。
隣の人が声をかけてきてくれた。
「大慌てで走って来たんですか?」
その顔はさわやかに笑っている。
俺はしどろもどろで説明する。
放送のアナウンスが聞こえる。
「この列車は23時49分発のムーンライトながら号です。」
(あれ?49分?おかしい。俺の記憶では43分発のハズだ。)
さっきの人に話しかける。
「この電車、遅れてますよね?」
「なんか六分くらい遅れてるらしいですよ。」
アナウンスの続きが聞こえてくる。
「…まもなく発車します。この列車は予定時刻より六分遅れで運行しております。」
(あぶねえ!ギリギリじゃねぇか。どうりで1分しか無かったのに乗り換えが成功したわけだ。
ラッキーだったのか、わどさんに言わせると運命ってやつか?)
そんな事を考えながら汗を拭う。

ああ、やたらと喉が渇く。
おかしい、なんだか寒気がするような──うぐっ、何かを吐きそうだ。
何も出す物なんか無いはずなのに…俺、何か食ったっけ?…耐える!

眠るか?
無理だ、これは絶対に寝れない。
気持ち悪い、空気が苦い、そうだトイレ…、だ、駄目だ身体が重くて動かない。
このままだとやばい。
なんとか動かせるもの―─手を、動かす。
さっき話した人の膝に触れる。
うなっっっこの人、寝てるよ!
膝をノックする。

こっちに気付いた。
俺はなんとか必死に声を出す。
「すいません、気持ち悪い…(息継ぎ)…車掌さんを…(呼んで下さい、までは言えなかった)」
「あ、じゃあトイレに!」とその人はトイレに誘導する。
(無理だ、トイレに行く力が無くて声をかけたんだぁぁぁ。
でも確かにそうする意外に無いのか。)
僕は気合いを入れて無理矢理立ち上がる。
その人は脇や背中を支えてくれる。
ありがたい。
ふらつきながらトイレを目指す。
ヤバイ!
視界が暗くなり、狭くなった。
それでも俺は進む。
前がわからなくなってきた。
うすぼんやり黄色っぽく見えるこの道か?
ものすごい胸の圧迫感。
世界の色が消えていく。
視界はCGのようにギザギザしてモヤモヤした
いい加減な宇宙色に変わっていく。
夢で見た、あの灰色に似ている。
だがそれも小さく消えていく。胸が、心臓が。
マズイ!俺は消える?嫌だ、止まれ、いや、進め。
そうだ、手探りで…進む、進む。
もう前は見えない。
俺はこのまま盲目になるのか!?

イヤダ!進む、進む!前に行く!
目が見えない。
ここはどこなんだ!?

「トイレ、右がトイレ。」
声が聞こえた。
(何言ってる?右なんてどこに…?俺は…?ここが…?着いた…?)
一瞬ドアが見えたような気がしたが
俺はドサリと倒れた。
身体が動かない。
妙に眠い。
まぶたが閉じれない。いっそこのまま…?
視線が泳ぐ。
もはや眼球も制御できない。

「大丈夫ですか?」
(聞こえてるよ、うるせぇなぁ…今、そっちを見…俺の目ン球、上しか見れないのか?)

「どうされましたか?」
「あ、すいません。この人が急に気持ち悪いって…」
「今、救急車呼びますね。」
落ち着いた調子の声が聞こえる。

「大丈夫ですか?意識ありますか?」
「…はい…。(聞こえてるよ…当然だろ…声が…出ねぇんだよチクショウ)」

「どうしましたか?大丈夫ですか?」
「あ、さっき別の車掌さんが救急車呼びに行きましたよ。(隣人が答える)」

「大丈夫ですか?」
「…はい…(喉が…?)水…水もらえますか?(眠いよ…俺に水をくれ!)」

「降りますか?」
「…。」

「あ、じゃあこれをどうぞ。(親切な人がドリンクをくれた)」
俺はそれを飲んだ。
急に視界が開けて曖昧だが見えるようになった。
俺は起きあがってまた飲んだ。
ちょっと回復した。
(降ろされるのは困る。これは最後の電車だ、帰れなくなる。)
「お客さん、どこへ行かれるんですか?」
「…名古屋…」

周りに人が集まってきている。
「大丈夫です、飲んだらちょっと落ち着きました。」
と、言いながらも何故か全身が痺れて立てない。

「お客さん、降りますか?」
「いえ、どこか、寝れるところとか、無いですか?」

電車が駅に止まった。
「でもまた気分が悪くなったら困りますよね?」と車掌さんが。
「そうしなさいよ。みんな心配してるし、電車が今、止まっちゃっとるし。」
と、どこぞの中年のオバハンが。
(あんたのせいで電車が遅れるのは困る、迷惑だ!)
という無言の声が周り中から聞こえる。

そしてアナウンスが聞こえる。
「ただいま急病人搬送の為に停車中です。」

「救急車呼びますよ?いいですね?」
「はい…。」
僕は全体の圧力に負けた。
グッタリしたままで良いから名古屋まで行きたかった。

JRを十数分止めてしまって大船で途中下車。
迷惑かけまくり。

両腕が痺れてほとんど動かないし
顔面蒼白脂汗で吐き気がして気持ち悪くて
ホントに何もかも最悪だった。

初めての過呼吸症候群だった。