嘘の吐き方(うそのつきかた)

人はみんな嘘をついていると思います。僕もそうです。このページが嘘を吐き突き続ける人達のヒントになれば幸いです。

記憶の牢獄。そしてエクトプラズム。

2002年01月30日 01時46分55秒 | 駄文(詩とは呼べない)
男は本を読むことが大好きだった。
来る日も来る日も読書にあけくれた。
また、男は知識欲が旺盛であった。
好奇心旺盛な目がいつも光っていた。
「生き甲斐とは何か?」
そんなことをぼんやりと考えるような暇も余裕も男には無かった。
毎日が変化の連続であったし、
知識と情報の大河を泳ぐことが
人生でもっとも大事で素晴らしい事であるように思えたからだ。

男は毎日むしゃむしゃと貪るように知識を増やした。
人が毎日食事をしないと生きられないように、
その男にとっては知識を吸収することが生きることそのものであったからだ。

外から見ればその姿は滑稽に見えたかもしれない。
「異形の者」という呼び名がふさわしいかもしれない。

男は多分、幸せであった。
そして長い時が流れた。

そしてまた幾日か過ぎて、
男は図書館にある本を全部読んでしまい、
新しい本を求めて建物の外へ出た。
生まれて初めて外へ出て自分の足で歩いた。

建物の外は荒野が広がり、
見渡す限り本のありそうな建物はどこにも無かった。

それでも男は新しい本を求めて歩いた。
真っ直ぐに歩き続けた。
そのうち景色は段々と変貌していき、
周り中が砂漠になった。

そしてその砂漠は一人で歩くにはあまりにも広すぎた。
歩けば歩くほど、方向感覚が狂ってきた。
いつのまにか男は行く先を見失い、
元来た方向に向かってしまった。

男がその砂漠から抜け出て荒野にさしかかり、
自分が元来た場所に戻ってしまったと気付いた時―――

時の稲妻が天空をよぎった。
時間が停止し、未来と過去は激しい稲妻の中で消滅した。

目の前が真っ暗になった。
頭痛と吐き気がしてきた。
男は何がなんだかわけがわからなくなってきた。
そこで男は目の前の闇を見て、愕然とした。

知ってはいけない事を知ってしまったのだ。

知識をいくら増やしても
世界を知ることは出来ない。
同じように、いくら経験を積んでも
世界を知ることは出来ない。
何故なら男が知識を得る事に一生懸命なその時も、
男が好奇心旺盛に活動しているその時も、
男の行動とはなんら関係なく、
男に見えない世界は確実に動いていたからだ。

頭の中で大事な何かが崩れ始めた。
バラバラになり、見えないほど細かくなり、
砂漠の砂に溶け込んでいった。

今、目の前に広がっているものこそが世界なのだ。
知識が世界でもなく、
経験が世界でもなく、
目の前の真っ暗闇が世界なのだ。

男は生まれて初めて心の底から疲れたと思った。
癒しの女神が現れ、微笑みと共にキスをくれるのを願った。
涙が次から次へと流れた。
最後に大きな涙が一滴流れた。

涙は鏡となり世界ではなく男を映した。

世界は再び動き始めたが、
男の時間は1秒も進まなかった。
男は記憶を失っていたからだ。

それから男は何も記憶することが出来なくなった。
悲しい過去も無くなったが、素晴らしい未来もまた来なかった。

長い人生のようでもあり、
全てが死ぬ寸前の走馬燈のようでもあった。

ただ一つ言えることは男は前よりも幸せになれた。
有り余る役立たずの知識と引き替えに、たった一つの真実を手に入れたからだ。
純粋で完全なる知性。

今、現在、ここに生きているという事。
男は世界の欠片だという事。
生まれる事の素晴らしさでも無く、死ぬことの悲しさでも無い、
ここに確実に存在しているというたった一つの確信。

その変化の流れの中に漂う自分こそが
知識と情報の大河よりも大きな世界の海の大きなうねりの中に居た。
男は世界になり、世界の知性に融けていった。

2002年01月14日 01時20分27秒 | 駄文(詩とは呼べない)
人はみな影を見て考える。
影を見て泣いたり笑ったり怒ったり喜んだり。
それはいつも影でしかないのに、人は影を見る。
人の数だけ影があり、影の数だけ虚構がある。
人は影を見ずにはいられない。
この世界はただただ生きていくには退屈すぎる。
この自由の牢獄から抜け出せはしない。
目に映る真実はくだらない。
真実よりも影を見つめる方が心に優しい。
何も無い世界でも影を見つめれば何かを見い出せる。
真っ白な世界に孤独な影がうつろうように。
人は影をゆっくり見つめる。

世界が真っ暗闇であったなら、ココに影は映らない。
影があるなら光もあるだろう。
影に厚みは無いけれど、それは光とて同じ事。
この世界に確かな何かを見い出せない限り、人は影を見つめるだろう。
この世界に大事な正しさを見つけるまでは、人は影と共に踊るだろう。
影はいつも僕の側に居る。
僕はいつも影を見つめる。
いつまでも、いつまでも。