法律の周辺

核心ではなく, あくまでも物事の周辺を気楽に散策するブログです。

年内最終営業日に送達された仮差押命令について

2006-07-20 19:19:18 | Weblog
振り込み依頼後の退職金,仮差し押さえ「有効」・最高裁 NIKKEI NET

 仮差押えの効力は,第三債務者に当該仮差押命令が送達された時に生じ(民保法第50条第5項,民執法第145条第4項),第三債務者及び債務者は当該仮差押債権についての処分制限の効力を受ける。
この効力,典型的には,第三債務者に対し不作為を命じるものを想起するが,事案によっては,作為が求められる場合もあろう。債務者の財産保全に資するのであれば,作為も不作為もない。同価値であれば,別異に解する必要はないわけだ。

 本ケース,送達が年内最終営業日で,しかも,業務終了の約1時間前とのこと。このあたりは,確かに,宥恕すべき事情といえる。しかし,仮差押命令が送達された時点で,退職金の振り込みが現に完了しているわけではない。
振り込み依頼の撤回が可能であることを知りつつ,「仮差押命令に係る債権は存在しない」と裁判所に回答したあたりは,少し安易に過ぎたようだ。
本判決の,「送達を受けた時点において,その第三債務者に人的又は時間的な余裕がなく,振込依頼を撤回することが著しく困難であるなどの特段の事情がある場合に限り,上記振込みによる弁済を仮差押債権者に対抗することができるにすぎないものと解するのが相当である。」からは,保全制度の維持に係る最高裁の強い調子が伝わってくる。

判例検索システムHP 差押債権取立請求事件


民法の関連条文

(支払の差止めを受けた第三債務者の弁済)
第四百八十一条  支払の差止めを受けた第三債務者が自己の債権者に弁済をしたときは,差押債権者は,その受けた損害の限度において更に弁済をすべき旨を第三債務者に請求することができる。
2  前項の規定は,第三債務者からその債権者に対する求償権の行使を妨げない。

民事保全法の関連条文

(債権及びその他の財産権に対する仮差押えの執行)
第五十条  民事執行法第百四十三条 に規定する債権に対する仮差押えの執行は,保全執行裁判所が第三債務者に対し債務者への弁済を禁止する命令を発する方法により行う。
2  前項の仮差押えの執行については,仮差押命令を発した裁判所が,保全執行裁判所として管轄する。
3  第三債務者が仮差押えの執行がされた金銭の支払を目的とする債権の額に相当する金銭を供託した場合には,債務者が第二十二条第一項の規定により定められた金銭の額に相当する金銭を供託したものとみなす。ただし,その金銭の額を超える部分については,この限りでない。
4  第一項及び第二項の規定は,その他の財産権に対する仮差押えの執行について準用する。
5  民事執行法第百四十五条第二項 から第五項 まで,第百四十六条から第百五十三条まで,第百五十六条,第百六十四条第五項及び第六項並びに第百六十七条の規定は,第一項の債権及びその他の財産権に対する仮差押えの執行について準用する。

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NPO法人に係る看板の掛け替えについて

2006-07-20 17:58:43 | Weblog
asahi.com 「NPO法人」の名消える? 「市民活動」に法改正検討

 NPO法人,公益法人とも,「不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与する」点は同じ。
NPO法第2条第1号と「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(以下,認定法という)第2条第4号の別表は,それぞれ以下に示すとおり。同じではないが,記事のいうとおり,相当程度重なる。

NPO法の別表
一 保健,医療又は福祉の増進を図る活動
二 社会教育の推進を図る活動
三 まちづくりの推進を図る活動
四 学術,文化,芸術又はスポーツの振興を図る活動
五 環境の保全を図る活動
六 災害救援活動
七 地域安全活動
八 人権の擁護又は平和の推進を図る活動
九 国際協力の活動
十 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
十一 子どもの健全育成を図る活動
十二 情報化社会の発展を図る活動
十三 科学技術の振興を図る活動
十四 経済活動の活性化を図る活動
十五 職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動
十六 消費者の保護を図る活動
十七 前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡,助言又は援助の活動

認定法の別表
一 学術及び科学技術の振興を目的とする事業
二 文化及び芸術の振興を目的とする事業
三 障害者若しくは生活困窮者又は事故,災害若しくは犯罪による被害者の支援を目的とする事業
四 高齢者の福祉の増進を目的とする事業
五 勤労意欲のある者に対する就労の支援を目的とする事業
六 公衆衛生の向上を目的とする事業
七 児童又は青少年の健全な育成を目的とする事業
八 勤労者の福祉の向上を目的とする事業
九 教育,スポーツ等を通じて国民の心身の健全な発達に寄与し,又は豊かな人間性を涵養することを目的とする事業
十 犯罪の防止又は治安の維持を目的とする事業
十一 事故又は災害の防止を目的とする事業
十二 人種,性別その他の事由による不当な差別又は偏見の防止及び根絶を目的とする事業
十三 思想及び良心の自由,信教の自由又は表現の自由の尊重又は擁護を目的とする事業
十四 男女共同参画社会の形成その他のより良い社会の形成の推進を目的とする事業
十五 国際相互理解の促進及び開発途上にある海外の地域に対する経済協力を目的とする事業
十六 地球環境の保全又は自然環境の保護及び整備を目的とする事業
十七 国土の利用,整備又は保全を目的とする事業
十八 国政の健全な運営の確保に資することを目的とする事業
十九 地域社会の健全な発展を目的とする事業
二十 公正かつ自由な経済活動の機会の確保及び促進並びにその活性化による国民生活の安定向上を目的とする事業
二十一 国民生活に不可欠な物資,エネルギー等の安定供給の確保を目的とする事業
二十二 一般消費者の利益の擁護又は増進を目的とする事業
二十三 前各号に掲げるもののほか,公益に関する事業として政令で定めるもの


それでは,中身の見直しかと思いきや,記事には,「検討委はNPOの性格をより明確にするため,法律名に「市民活動」か「社会貢献」を入れる案を示す。」とある。
この辺り,制度の有り様(よう)としては,きちんと棲み分けをおこなうというのが望ましい姿のように思えるのだが・・・。

行政改革HP 公益法人の改革について


特定非営利活動促進法の関連条文

(目的)
第一条  この法律は,特定非営利活動を行う団体に法人格を付与すること等により,ボランティア活動をはじめとする市民が行う自由な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促進し,もって公益の増進に寄与することを目的とする。

(定義)
第二条  この法律において「特定非営利活動」とは,別表に掲げる活動に該当する活動であって,不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与することを目的とするものをいう。
2  この法律において「特定非営利活動法人」とは,特定非営利活動を行うことを主たる目的とし,次の各号のいずれにも該当する団体であって,この法律の定めるところにより設立された法人をいう。
一  次のいずれにも該当する団体であって,営利を目的としないものであること。
イ  社員の資格の得喪に関して,不当な条件を付さないこと。
ロ  役員のうち報酬を受ける者の数が,役員総数の三分の一以下であること。
二  その行う活動が次のいずれにも該当する団体であること。
イ  宗教の教義を広め,儀式行事を行い,及び信者を教化育成することを主たる目的とするものでないこと。
ロ  政治上の主義を推進し,支持し,又はこれに反対することを主たる目的とするものでないこと。
ハ  特定の公職(公職選挙法 (昭和二十五年法律第百号)第三条 に規定する公職をいう。以下同じ。)の候補者(当該候補者になろうとする者を含む。)若しくは公職にある者又は政党を推薦し,支持し,又はこれらに反対することを目的とするものでないこと。

「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」の関連条文

(目的)
第一条 この法律は,内外の社会経済情勢の変化に伴い,民間の団体が自発的に行う公益を目的とする事業の実施が公益の増進のために重要となっていることにかんがみ,当該事業を適正に実施し得る公益法人を認定する制度を設けるとともに,公益法人による当該事業の適正な実施を確保するための措置等を定め,もって公益の増進及び活力ある社会の実現に資することを目的とする。

(定義)
第二条 この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる。
一 公益社団法人 第四条の認定を受けた一般社団法人をいう。
二 公益財団法人 第四条の認定を受けた一般財団法人をいう。
三 公益法人 公益社団法人又は公益財団法人をいう。
四 公益目的事業 学術,技芸,慈善その他の公益に関する別表各号に掲げる種類の事業であって,不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものをいう。

(公益認定)
第四条 公益目的事業を行う一般社団法人又は一般財団法人は,行政庁の認定を受けることができる。

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警察幹部による出版物の内容に関する公式見解の表明について

2006-07-20 07:24:23 | Weblog
世田谷一家殺人の本「事実と違う」と警視庁捜査1課長 YOMIURI ONLINE

 記事には,「警視庁捜査1課の光真章課長は19日,「内容がことごとく事実と異なっており,捜査に悪影響を及ぼす」などとするコメントを発表した。」とある。
件の出版物に係る出版社並びに執筆者が警察当局の捜査に対する偽計業務妨害罪(刑法第233条)に問われる可能性はあるだろうか。

 公務が業務に含まれるかについては様々な見解があり複雑な様相を呈しているが,少なくとも判例は,いわゆる権力的公務のうち強制力を行使するものは,そもそも,業務としては扱っていないようだ。この立場からは,偽計業務妨害罪の成立はないということになりそう。
因みに,公務はすべて業務に含まれるという立場では,危険犯か侵害犯かといった問題はあるものの,偽計業務妨害罪の成立はあり得る。ただ,記事には,主観面に関する話しとして,「連名で「著者が取材で知り得た情報をありのままにまとめたもの。捜査を妨げる意図はない」とコメントしている。」とある。これを言葉どおり受け取れば,偽計業務妨害罪の故意はないということになるか。

いずれにしても,表現の自由と絡む部分。判例が動かない限り,偽計業務妨害罪の成立はなさそうだが,「捜査への悪影響」といったコメントにしても,言論に対する影響としては決して小さくはない。警察当局には慎重な対応をお願いしたいもの。


日本国憲法の関連条文

第二十一条  集会,結社及び言論,出版その他一切の表現の自由は,これを保障する。
2  検閲は,これをしてはならない。通信の秘密は,これを侵してはならない。

刑法の関連条文

(公務執行妨害及び職務強要)
第九十五条  公務員が職務を執行するに当たり,これに対して暴行又は脅迫を加えた者は,三年以下の懲役又は禁錮に処する。
2  公務員に,ある処分をさせ,若しくはさせないため,又はその職を辞させるために,暴行又は脅迫を加えた者も,前項と同様とする。

(信用毀損及び業務妨害)
第二百三十三条  虚偽の風説を流布し,又は偽計を用いて,人の信用を毀損し,又はその業務を妨害した者は,三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

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