法律の周辺

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違憲立法審査権の限界について

2008-06-06 19:13:51 | Weblog
最高裁が国籍法規定で違憲判決「両親の婚姻要件は不合理」 YOMIURI ONLINE

 大法廷は,国籍法第3条第1項の我が国と密接な結び付きを有する者に限り日本国籍を付与するという立法目的には合理的な根拠があるとしたうえで,昭和59年の国籍法改正時には,準正を国籍の取得要件としたことと立法目的との間には合理的関連性はあったが,その後,①家族関係や親子関係の実態の多様化,②日本も批准している国際人権規約B規約及び児童の権利に関する条約と国籍法第3条第1項との齟齬,③認知だけで国籍取得を認めるという世界的傾向,といった状況の変化が生じたため,遅くとも,法相に国籍取得届を提出した当時においては,前記の合理的関連性があったとは認め難いと判断。
国籍法第3条第1項の準正要件については,平成14年11月22日最判の梶谷・滝井補足意見の中でも,憲法第14条第1項に反する疑いが濃厚とされていた。

 さて,本訴訟では,国籍法第3条第1項が違憲となる範囲との関係で,違憲立法審査権の限界がひとつの争点となった。大法廷判決には次のようにある。

5 本件区別による違憲の状態を前提として上告人らに日本国籍の取得を認めることの可否
(1) 以上のとおり,国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは,遅くとも上記時点以降において憲法14条1項に違反するといわざるを得ないが,国籍法3条1項が日本国籍の取得について過剰な要件を課したことにより本件区別が生じたからといって,本件区別による違憲の状態を解消するために同項の規定自体を全部無効として,準正のあった子(以下「準正子」という。)の届出による日本国籍の取得をもすべて否定することは,血統主義を補完するために出生後の国籍取得の制度を設けた同法の趣旨を没却するものであり,立法者の合理的意思として想定し難いものであって,採り得ない解釈であるといわざるを得ない。そうすると,準正子について届出による日本国籍の取得を認める同項の存在を前提として,本件区別により不合理な差別的取扱いを受けている者の救済を図り,本件区別による違憲の状態を是正する必要があることになる。
(2) このような見地に立って是正の方法を検討すると,憲法14条1項に基づく平等取扱いの要請と国籍法の採用した基本的な原則である父母両系血統主義とを踏まえれば,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知されたにとどまる子についても,血統主義を基調として出生後における日本国籍の取得を認めた同法3条1項の規定の趣旨・内容を等しく及ぼすほかはない。すなわち,このような子についても,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したことという部分を除いた同項所定の要件が満たされる場合に,届出により日本国籍を取得することが認められるものとすることによって,同項及び同法の合憲的で合理的な解釈が可能となるものということができ,この解釈は,本件区別による不合理な差別的取扱いを受けている者に対して直接的な救済のみちを開くという観点からも,相当性を有するものというべきである。
 そして,上記の解釈は,本件区別に係る違憲の瑕疵を是正するため,国籍法3条1項につき,同項を全体として無効とすることなく,過剰な要件を設けることにより本件区別を生じさせている部分のみを除いて合理的に解釈したものであって,その結果も,準正子と同様の要件による日本国籍の取得を認めるにとどまるものである。この解釈は,日本国民との法律上の親子関係の存在という血統主義の要請を満たすとともに,父が現に日本国民であることなど我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を満たす場合に出生後における日本国籍の取得を認めるものとして,同項の規定の趣旨及び目的に沿うものであり,この解釈をもって,裁判所が法律にない新たな国籍取得の要件を創設するものであって国会の本来的な機能である立法作用を行うものとして許されないと評価することは,国籍取得の要件に関する他の立法上の合理的な選択肢の存在の可能性を考慮したとしても,当を得ないものというべきである。


この点,甲斐中,堀籠両裁判官は,反対意見の中で,次のように述べる。

5 多数意見は,「本件区別により不合理な差別的取扱いを受けている者の救済を図り,本件区別による違憲状態を是正する必要がある」との前提に立っており,このような前提に立つのであれば,多数意見のような結論とならざるを得ないであろう。しかし,このような前提に立つこと自体が相当ではない。なぜなら,司法の使命は,中立の立場から客観的に法を解釈し適用することであり,本件における司法判断は,「本件区別により不合理な差別的取扱を受けている者の救済を図り,本件区別による違憲の状態を是正することが国籍法3条1項の解釈・適用により可能か」との観点から行うべきものであるからである。
6 日本国民たる要件は,法律により創設的・授権的に定められるものである。本件で問題となっている非準正子の届出による国籍取得については立法不存在の状態にあるから,これが違憲状態にあるとして,それを是正するためには,法の解釈・適用により行うことが可能でなければ,国会の立法措置により行うことが憲法の原則である(憲法10条,41条,99条)。また,立法上複数の合理的な選択肢がある場合,そのどれを選択するかは,国会の権限と責任において決められるべきであるが,本件においては,非準正子の届出による国籍取得の要件について,多数意見のような解釈により示された要件以外に「他の立法上の合理的な選択肢の存在の可能性」があるのであるから,その意味においても違憲状態の解消は国会にゆだねるべきであると考える。
7 そうすると,多数意見は,国籍法3条1項の規定自体が違憲であるとの同法の性質に反した法解釈に基づき,相当性を欠く前提を立てた上,上告人らの請求を認容するものであり,結局,法律にない新たな国籍取得の要件を創設するものであって,実質的に司法による立法に等しいといわざるを得ず,賛成することはできない。


最後になったが,本判決を受け,法相が参議院法務委員会で国籍法を改正する方向で検討する旨,答弁している。この点に関しては,藤田裁判官の意見の中に次のようにある。

(前略)なお,いうまでもないことながら,国籍法3条1項についての本件におけるこのような解釈が一般的法規範として定着することに,国家公益上の見地から著しい不都合が存するというのであれば,立法府としては,当裁判所が行う違憲判断に抵触しない範囲内で,これを修正する立法に直ちに着手することが可能なのであって,立法府と司法府との間での権能及び責務の合理的配分については,こういった総合的な視野の下に考察されるべきものと考える。

判例検索システム 平成20年06月04日 国籍確認請求事件


日本国憲法の関連条文

第十条  日本国民たる要件は,法律でこれを定める。

第十四条  すべて国民は,法の下に平等であつて,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない。
2  華族その他の貴族の制度は,これを認めない。
3  栄誉,勲章その他の栄典の授与は,いかなる特権も伴はない。栄典の授与は,現にこれを有し,又は将来これを受ける者の一代に限り,その効力を有する。

第八十一条  最高裁判所は,一切の法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

国籍法の関連条文

(この法律の目的)
第一条  日本国民たる要件は,この法律の定めるところによる。

(出生による国籍の取得)
第二条  子は,次の場合には,日本国民とする。
一  出生の時に父又は母が日本国民であるとき。
二  出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき。
三  日本で生まれた場合において,父母がともに知れないとき,又は国籍を有しないとき。

(準正による国籍の取得)
第三条  父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子で二十歳未満のもの(日本国民であつた者を除く。)は,認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であつた場合において,その父又は母が現に日本国民であるとき,又はその死亡の時に日本国民であつたときは,法務大臣に届け出ることによつて,日本の国籍を取得することができる。
2  前項の規定による届出をした者は,その届出の時に日本の国籍を取得する。

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1 コメント

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Unknown (hanbo)
2008-07-23 08:22:41
 生後認知とは別に要件を設けることはしないようだ。

国籍法,結婚要件を削除 婚外子03年以降救済で素案
http://www.asahi.com/politics/update/0722/TKY200807220316.html
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