法律の周辺

核心ではなく, あくまでも物事の周辺を気楽に散策するブログです。

私費で購入したノートに記載したメモの開示について

2008-06-28 20:57:34 | Weblog
asahi.com 捜査メモも「開示対象」 最高裁,検察に提示促す

 本件で,検察側の主張するのは,問題のメモは「(同)警察官が私費で購入してだれからも指示されることなく心覚えのために使用しているノートに記載されたものであって,個人的メモ」であるということ。詰まるところ,件のメモは犯罪捜査規範第13条に基づき作成されたものではないから開示命令の対象にはならない,ということのようだ。
しかし,本判決でも引用のある最判H19.12.25には次のようにあった。

(2) 公務員がその職務の過程で作成するメモについては,専ら自己が使用するために作成したもので,他に見せたり提出することを全く想定していないものがあることは所論のとおりであり,これを証拠開示命令の対象とするのが相当でないことも所論のとおりである。しかしながら,犯罪捜査規範13条は,「警察官は,捜査を行うに当り,当該事件の公判の審理に証人として出頭する場合を考慮し,および将来の捜査に資するため,その経過その他参考となるべき事項を明細に記録しておかなければならない。」と規定しており,警察官が被疑者の取調べを行った場合には,同条により備忘録を作成し,これを保管しておくべきものとしているのであるから,取調警察官が,同条に基づき作成した備忘録であって,取調べの経過その他参考となるべき事項が記録され,捜査機関において保管されている書面は,個人的メモの域を超え,捜査関係の公文書ということができる。これに該当する備忘録については,当該事件の公判審理において,当該取調べ状況に関する証拠調べが行われる場合には,証拠開示の対象となり得るものと解するのが相当である。

犯罪捜査規範第1条には「この規則は,警察官が犯罪の捜査を行うに当つて守るべき心構え,捜査の方法,手続その他捜査に関し必要な事項を定めることを目的とする。」とある。この規定からは,捜査の過程における警察官の行動は犯罪捜査規範に裏付けられている,と見るのが無理のないところ。件のノートは私費で購入したもので,それへの記載は誰からも指示されていない → 個人的メモで捜査関係の公文書ではないから,開示対象とはならない,はちょっと形式的過ぎる。任意の提出を言うなら,心覚えなどではなく,公文書たる備忘録にきちんと記録すればよさそうなもの。検察の理屈が通るなら,開示したくないものは私費で購入したノートへ,などといった話しにもなりかねない。

本特別抗告審で第三小法廷は次のとおり判示。

 しかしながら,犯罪捜査に当たった警察官が犯罪捜査規範13条に基づき作成した備忘録であって,捜査の経過その他参考となるべき事項が記録され,捜査機関において保管されている書面は,当該事件の公判審理において,当該捜査状況に関する証拠調べが行われる場合,証拠開示の対象となり得るものと解するのが相当である(前記第三小法廷決定参照)。そして,警察官が捜査の過程で作成し保管するメモが証拠開示命令の対象となるものであるか否かの判断は,裁判所が行うべきものであるから,裁判所は,その判断をするために必要があると認めるときは,検察官に対し,同メモの提示を命ずることができるというべきである。これを本件について見るに,本件メモは,本件捜査等の過程で作成されたもので警察官によって保管されているというのであるから,証拠開示命令の対象となる備忘録に該当する可能性があることは否定することができないのであり,原々審が検察官に対し本件メモの提示を命じたことは相当である。

重要なのは,メモが如何なる過程で作成されたかということ。何に記載されたかは,開示命令の対象になるかの判断にあたってひとつの材料にはなろうが,決定的なものではない。

判例検索システム 平成20年06月25日 証拠開示決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件


犯罪捜査規範の関連条文

(この規則の目的)
第一条  この規則は,警察官が犯罪の捜査を行うに当つて守るべき心構え,捜査の方法,手続その他捜査に関し必要な事項を定めることを目的とする。

(捜査の基本)
第二条  捜査は,事案の真相を明らかにして事件を解決するとの強固な信念をもつて迅速適確に行わなければならない。
2  捜査を行うに当つては,個人の基本的人権を尊重し,かつ,公正誠実に捜査の権限を行使しなければならない。

(法令等の厳守)
第三条  捜査を行うに当たつては,警察法 (昭和二十九年法律第百六十二号),刑事訴訟法 (昭和二十三年法律第百三十一号。以下「刑訴法」という。)その他の法令および規則を厳守し,個人の自由及び権利を不当に侵害することのないように注意しなければならない。

(合理捜査)
第四条  捜査を行うに当たつては,証拠によつて事案を明らかにしなければならない。
2  捜査を行うに当たつては,先入観にとらわれず,根拠に基づかない推測を排除し,被疑者その他の関係者の供述を過信することなく,基礎的捜査を徹底し,物的証拠を始めとするあらゆる証拠の発見収集に努めるとともに,鑑識施設及び資料を十分に活用して,捜査を合理的に進めるようにしなければならない。

(総合捜査)
第五条  捜査を行うに当つては,すべての情報資料を総合して判断するとともに,広く知識技能を活用し,かつ,常に組織の力により,捜査を総合的に進めるようにしなければならない。

(着実な捜査)
第六条  捜査は,安易に成果を求めることなく,犯罪の規模,方法その他諸般の状況を冷静周密に判断し,着実に行わなければならない。

(公訴,公判への配慮)
第七条  捜査は,それが刑事手続の一環であることにかんがみ,公訴の実行及び公判の審理を念頭に置いて,行わなければならない。特に,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(平成十六年法律第六十三号)第二条第一項に規定する事件に該当する事件の捜査を行う場合は,国民の中から選任された裁判員に分かりやすい立証が可能となるよう,配慮しなければならない。

(規律と協力)
第八条  捜査を行うに当たつては,自己の能力を過信して独断に陥ることなく,上司から命ぜられた事項を忠実に実行し,常に警察規律を正しくし,協力一致して事案に臨まなければならない。

(秘密の保持等)
第九条  捜査を行うに当たつては,秘密を厳守し,捜査の遂行に支障を及ぼさないように注意するとともに,被疑者,被害者(犯罪により害を被つた者をいう。以下同じ。)その他事件の関係者の名誉を害することのないように注意しなければならない。
2  捜査を行うに当たつては,前項の規定により秘密を厳守するほか,告訴,告発,犯罪に関する申告その他犯罪捜査の端緒又は犯罪捜査の資料を提供した者(第十一条(被害者等の保護等)第二項において「資料提供者」という。)の名誉又は信用を害することのないように注意しなければならない。

(関係者に対する配慮)
第十条  捜査を行うに当つては,常に言動を慎み,関係者の利便を考慮し,必要な限度をこえて迷惑を及ぼさないように注意しなければならない。

(被害者等に対する配慮)
第十条の二  捜査を行うに当たつては,被害者又はその親族(以下この節において「被害者等」という。)の心情を理解し,その人格を尊重しなければならない。
2  捜査を行うに当たつては,被害者等の取調べにふさわしい場所の利用その他の被害者等にできる限り不安又は迷惑を覚えさせないようにするための措置を講じなければならない。

(被害者等に対する通知)
第十条の三  捜査を行うに当たつては,被害者等に対し,刑事手続の概要を説明するとともに,当該事件の捜査の経過その他被害者等の救済又は不安の解消に資すると認められる事項を通知しなければならない。ただし,捜査その他の警察の事務若しくは公判に支障を及ぼし,又は関係者の名誉その他の権利を不当に侵害するおそれのある場合は,この限りでない。

(被害者等の保護等)
第十一条  警察官は,犯罪の手口,動機及び組織的背景,被疑者と被害者等との関係,被疑者の言動その他の状況から被害者等に後難が及ぶおそれがあると認められるときは,被疑者その他の関係者に,当該被害者等の氏名又はこれらを推知させるような事項を告げないようにするほか,必要に応じ,当該被害者等の保護のための措置を講じなければならない。
2  前項の規定は,資料提供者に後難が及ぶおそれがあると認められる場合について準用する。

(研究と工夫)
第十二条  警察官は,捜査専従員であると否とを問わず,常に捜査関係法令の研究および捜査に関する知識技能の習得に努め,捜査方法の工夫改善に意を用いなければならない。

(備忘録)
第十三条  警察官は,捜査を行うに当り,当該事件の公判の審理に証人として出頭する場合を考慮し,および将来の捜査に資するため,その経過その他参考となるべき事項を明細に記録しておかなければならない。

(捜査の回避)
第十四条  警察官は,被疑者,被害者その他事件の関係者と親族その他特別の関係にあるため,その捜査について疑念をいだかれるおそれのあるときは,上司の許可を得て,その捜査を回避しなければならない。

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気分が高揚したので落書きしてしまった人達について

2008-06-26 21:13:19 | Weblog
asahi.com 京産大生もイタリアの大聖堂に落書き 3人の処分検討

 公園内の公衆便所の外壁にペンキで「反戦」等と大書した行為が建造物損壊にあたるとしたものに,最判H18.1.17がある。第三小法廷は,次のとおり判示。

1(2) その大書された文字の大きさ,形状,色彩等に照らせば,本件建物は,従前と比べて不体裁かつ異様な外観となり,美観が著しく損なわれ,その利用についても抵抗感ないし不快感を与えかねない状態となり,管理者としても,そのままの状態で一般の利用に供し続けるのは困難と判断せざるを得なかった。ところが,本件落書きは,水道水や液性洗剤では消去することが不可能であり,ラッカーシンナーによっても完全に消去することはできず,壁面の再塗装により完全に消去するためには約7万円の費用を要するものであった。
2 以上の事実関係の下では,本件落書き行為は,本件建物の外観ないし美観を著しく汚損し,原状回復に相当の困難を生じさせたものであって,その効用を減損させたものというべきであるから,刑法260条前段にいう「損壊」に当たると解するのが相当であり,これと同旨の原判断は正当である。


さて,油性ペンで世界遺産に落書きとか。仮に,平等院で同じことをしたらどうなるだろう。写真などからして,さすがに「損壊」と認定されることはないとは思うが,「き棄」として文化財保護法違反に問われる可能性は十分あり得る。もっとも,地元で大学名を書いて落書きでもないか。
なお,建造物損壊罪については,属人主義がとられておらず,日本国民が国外でこれを犯しても日本刑法の適用はない(刑法第3条)。この点,「世界遺産については世界主義を採用し,国外犯も処罰すべき。語呂もいいし。」という声があるかどうかについては,管理人は知らない。

判例検索システム 平成18年01月17日 建造物損壊被告事件


刑法の関連条文

(国内犯)
第一条  この法律は,日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。
2  日本国外にある日本船舶又は日本航空機内において罪を犯した者についても,前項と同様とする。

(すべての者の国外犯)
第二条  この法律は,日本国外において次に掲げる罪を犯したすべての者に適用する。
一  削除
二  第七十七条から第七十九条まで(内乱,予備及び陰謀,内乱等幇助)の罪
三  第八十一条(外患誘致),第八十二条(外患援助),第八十七条(未遂罪)及び第八十八条(予備及び陰謀)の罪
四  第百四十八条(通貨偽造及び行使等)の罪及びその未遂罪
五  第百五十四条(詔書偽造等),第百五十五条(公文書偽造等),第百五十七条(公正証書原本不実記載等),第百五十八条(偽造公文書行使等)及び公務所又は公務員によって作られるべき電磁的記録に係る第百六十一条の二(電磁的記録不正作出及び供用)の罪
六  第百六十二条(有価証券偽造等)及び第百六十三条(偽造有価証券行使等)の罪
七  第百六十三条の二から第百六十三条の五まで(支払用カード電磁的記録不正作出等,不正電磁的記録カード所持,支払用カード電磁的記録不正作出準備,未遂罪)の罪
八  第百六十四条から第百六十六条まで(御璽偽造及び不正使用等,公印偽造及び不正使用等,公記号偽造及び不正使用等)の罪並びに第百六十四条第二項,第百六十五条第二項及び第百六十六条第二項の罪の未遂罪

(国民の国外犯)
第三条  この法律は,日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国民に適用する。
一  第百八条(現住建造物等放火)及び第百九条第一項(非現住建造物等放火)の罪,これらの規定の例により処断すべき罪並びにこれらの罪の未遂罪
二  第百十九条(現住建造物等浸害)の罪
三  第百五十九条から第百六十一条まで(私文書偽造等,虚偽診断書等作成,偽造私文書等行使)及び前条第五号に規定する電磁的記録以外の電磁的記録に係る第百六十一条の二の罪
四  第百六十七条(私印偽造及び不正使用等)の罪及び同条第二項の罪の未遂罪
五  第百七十六条から第百七十九条まで(強制わいせつ,強姦,準強制わいせつ及び準強姦,集団強姦等,未遂罪),第百八十一条(強制わいせつ等致死傷)及び第百八十四条(重婚)の罪
六  第百九十九条(殺人)の罪及びその未遂罪
七  第二百四条(傷害)及び第二百五条(傷害致死)の罪
八  第二百十四条から第二百十六条まで(業務上堕胎及び同致死傷,不同意堕胎,不同意堕胎致死傷)の罪
九  第二百十八条(保護責任者遺棄等)の罪及び同条の罪に係る第二百十九条(遺棄等致死傷)の罪
十  第二百二十条(逮捕及び監禁)及び第二百二十一条(逮捕等致死傷)の罪
十一  第二百二十四条から第二百二十八条まで(未成年者略取及び誘拐,営利目的等略取及び誘拐,身の代金目的略取等,所在国外移送目的略取及び誘拐,人身売買,被略取者等所在国外移送,被略取者引渡し等,未遂罪)の罪
十二  第二百三十条(名誉毀損)の罪
十三  第二百三十五条から第二百三十六条まで(窃盗,不動産侵奪,強盗),第二百三十八条から第二百四十一条まで(事後強盗,昏酔強盗,強盗致死傷,強盗強姦及び同致死)及び第二百四十三条(未遂罪)の罪
十四  第二百四十六条から第二百五十条まで(詐欺,電子計算機使用詐欺,背任,準詐欺,恐喝,未遂罪)の罪
十五  第二百五十三条(業務上横領)の罪
十六  第二百五十六条第二項(盗品譲受け等)の罪

(国民以外の者の国外犯)
第三条の二  この法律は,日本国外において日本国民に対して次に掲げる罪を犯した日本国民以外の者に適用する。
一  第百七十六条から第百七十九条まで(強制わいせつ,強姦,準強制わいせつ及び準強姦,集団強姦等,未遂罪)及び第百八十一条(強制わいせつ等致死傷)の罪
二  第百九十九条(殺人)の罪及びその未遂罪
三  第二百四条(傷害)及び第二百五条(傷害致死)の罪
四  第二百二十条(逮捕及び監禁)及び第二百二十一条(逮捕等致死傷)の罪
五  第二百二十四条から第二百二十八条まで(未成年者略取及び誘拐,営利目的等略取及び誘拐,身の代金目的略取等,所在国外移送目的略取及び誘拐,人身売買,被略取者等所在国外移送,被略取者引渡し等,未遂罪)の罪
六  第二百三十六条(強盗)及び第二百三十八条から第二百四十一条まで(事後強盗,昏酔強盗,強盗致死傷,強盗強姦及び同致死)の罪並びにこれらの罪の未遂罪

(公務員の国外犯)
第四条  この法律は,日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国の公務員に適用する。
一  第百一条(看守者等による逃走援助)の罪及びその未遂罪
二  第百五十六条(虚偽公文書作成等)の罪
三  第百九十三条(公務員職権濫用),第百九十五条第二項(特別公務員暴行陵虐)及び第百九十七条から第百九十七条の四まで(収賄,受託収賄及び事前収賄,第三者供賄,加重収賄及び事後収賄,あっせん収賄)の罪並びに第百九十五条第二項の罪に係る第百九十六条(特別公務員職権濫用等致死傷)の罪

(条約による国外犯)
第四条の二  第二条から前条までに規定するもののほか,この法律は,日本国外において,第二編の罪であって条約により日本国外において犯したときであっても罰すべきものとされているものを犯したすべての者に適用する。

(建造物等損壊及び同致死傷)
第二百六十条  他人の建造物又は艦船を損壊した者は,五年以下の懲役に処する。よって人を死傷させた者は,傷害の罪と比較して,重い刑により処断する。

(器物損壊等)
第二百六十一条  前三条に規定するもののほか,他人の物を損壊し,又は傷害した者は,三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

文化財保護法の関連条文

(指定)
第二十七条  文部科学大臣は,有形文化財のうち重要なものを重要文化財に指定することができる。
2  文部科学大臣は,重要文化財のうち世界文化の見地から価値の高いもので,たぐいない国民の宝たるものを国宝に指定することができる。

第百九十五条  重要文化財を損壊し,き棄し,又は隠匿した者は,五年以下の懲役若しくは禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。
2  前項に規定する者が当該重要文化財の所有者であるときは,二年以下の懲役若しくは禁錮又は二十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

第百九十六条  史跡名勝天然記念物の現状を変更し,又はその保存に影響を及ぼす行為をして,これを滅失し,き損し,又は衰亡するに至らしめた者は,五年以下の懲役若しくは禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。
2  前項に規定する者が当該史跡名勝天然記念物の所有者であるときは,二年以下の懲役若しくは禁錮又は二十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

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取引停止の本当の理由について

2008-06-25 21:37:33 | Weblog
毎日jp 奈良トヨタ:修理会社が提訴「自動車購入強制された」

 下請法第4条第1項には,親事業者がしてはならない行為として「下請事業者の給付の内容を均質にし又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き,自己の指定する物を強制して購入させ,又は役務を強制して利用させること。」(第6号)とある。
強制の意義に関しては,公取委HPの『下請取引適正化推進講習会テキスト』に次のようにあり,参考になる。

● 強制自己の指定する「物」又は「役務」を「強制して購入・利用させる」ことが禁止されているのであるから,「強制して」ではなく任意に購入等を依頼する場合は購入・利用強制に該当しないが,下請取引においては,親事業者が任意に購入等を依頼したと思っても下請事業者にとっては,その依頼を拒否できない場合もあり得るので,事実上,下請事業者に購入等を余儀なくさせていると認められるか否かが判断の基準となる。

なお,下請法第7条第2項には「公正取引委員会は,親事業者が第四条第一項第三号から第六号までに掲げる行為をしたと認めるときは,その親事業者に対し,速やかにその減じた額を支払い,その下請事業者の給付に係る物を再び引き取り,その下請代金の額を引き上げ,又はその購入させた物を引き取るべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告するものとする。」とある。
公取委,下請法第4条第1項第6号違反の別事案では,「その他必要な措置」として,概略,①物品の購入強制をさせない旨の取締役会決議による確認,②下請法の研修等の社内体制の整備や役員・従業員に対する周知徹底,③公取委の勧告に応じて採った措置の取引先下請事業者への周知連絡,などを勧告している。


下請代金支払遅延等防止法の関連条文

(目的)
第一条  この法律は,下請代金の支払遅延等を防止することによつて,親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめるとともに,下請事業者の利益を保護し,もつて国民経済の健全な発達に寄与することを目的とする。

(定義)
第二条  この法律で「製造委託」とは,事業者が業として行う販売若しくは業として請け負う製造(加工を含む。以下同じ。)の目的物たる物品若しくはその半製品,部品,附属品若しくは原材料若しくはこれらの製造に用いる金型又は業として行う物品の修理に必要な部品若しくは原材料の製造を他の事業者に委託すること及び事業者がその使用し又は消費する物品の製造を業として行う場合にその物品若しくはその半製品,部品,附属品若しくは原材料又はこれらの製造に用いる金型の製造を他の事業者に委託することをいう。
2  この法律で「修理委託」とは,事業者が業として請け負う物品の修理の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること及び事業者がその使用する物品の修理を業として行う場合にその修理の行為の一部を他の事業者に委託することをいう。
3  この法律で「情報成果物作成委託」とは,事業者が業として行う提供若しくは業として請け負う作成の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること及び事業者がその使用する情報成果物の作成を業として行う場合にその情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託することをいう。
4  この法律で「役務提供委託」とは,事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること(建設業(建設業法 (昭和二十四年法律第百号)第二条第二項 に規定する建設業をいう。以下この項において同じ。)を営む者が業として請け負う建設工事(同条第一項 に規定する建設工事をいう。)の全部又は一部を他の建設業を営む者に請け負わせることを除く。)をいう。
5  この法律で「製造委託等」とは,製造委託,修理委託,情報成果物作成委託及び役務提供委託をいう。
6  この法律で「情報成果物」とは,次に掲げるものをいう。
一  プログラム(電子計算機に対する指令であつて,一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。)
二  映画,放送番組その他影像又は音声その他の音響により構成されるもの
三  文字,図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合により構成されるもの
四  前三号に掲げるもののほか,これらに類するもので政令で定めるもの
7  この法律で「親事業者」とは,次の各号のいずれかに該当する者をいう。
一  資本金の額又は出資の総額が三億円を超える法人たる事業者(政府契約の支払遅延防止等に関する法律 (昭和二十四年法律第二百五十六号)第十四条 に規定する者を除く。)であつて,個人又は資本金の額若しくは出資の総額が三億円以下の法人たる事業者に対し製造委託等(情報成果物作成委託及び役務提供委託にあつては,それぞれ政令で定める情報成果物及び役務に係るものに限る。次号並びに次項第一号及び第二号において同じ。)をするもの
二  資本金の額又は出資の総額が千万円を超え三億円以下の法人たる事業者(政府契約の支払遅延防止等に関する法律第十四条 に規定する者を除く。)であつて,個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者に対し製造委託等をするもの三  資本金の額又は出資の総額が五千万円を超える法人たる事業者(政府契約の支払遅延防止等に関する法律第十四条 に規定する者を除く。)であつて,個人又は資本金の額若しくは出資の総額が五千万円以下の法人たる事業者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託(それぞれ第一号の政令で定める情報成果物又は役務に係るものを除く。次号並びに次項第三号及び第四号において同じ。)をするもの
四  資本金の額又は出資の総額が千万円を超え五千万円以下の法人たる事業者(政府契約の支払遅延防止等に関する法律第十四条 に規定する者を除く。)であつて,個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託をするもの
8  この法律で「下請事業者」とは,次の各号のいずれかに該当する者をいう。
一  個人又は資本金の額若しくは出資の総額が三億円以下の法人たる事業者であつて,前項第一号に規定する親事業者から製造委託等を受けるもの
二  個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者であつて,前項第二号に規定する親事業者から製造委託等を受けるもの
三  個人又は資本金の額若しくは出資の総額が五千万円以下の法人たる事業者であつて,前項第三号に規定する親事業者から情報成果物作成委託又は役務提供委託を受けるもの
四  個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者であつて,前項第四号に規定する親事業者から情報成果物作成委託又は役務提供委託を受けるもの
9  資本金の額又は出資の総額が千万円を超える法人たる事業者から役員の任免,業務の執行又は存立について支配を受け,かつ,その事業者から製造委託等を受ける法人たる事業者が,その製造委託等に係る製造,修理,作成又は提供の行為の全部又は相当部分について再委託をする場合(第七項第一号又は第二号に該当する者がそれぞれ前項第一号又は第二号に該当する者に対し製造委託等をする場合及び第七項第三号又は第四号に該当する者がそれぞれ前項第三号又は第四号に該当する者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託をする場合を除く。)において,再委託を受ける事業者が,役員の任免,業務の執行又は存立について支配をし,かつ,製造委託等をする当該事業者から直接製造委託等を受けるものとすれば前項各号のいずれかに該当することとなる事業者であるときは,この法律の適用については,再委託をする事業者は親事業者と,再委託を受ける事業者は下請事業者とみなす。
10  この法律で「下請代金」とは,親事業者が製造委託等をした場合に下請事業者の給付(役務提供委託をした場合にあつては,役務の提供。以下同じ。)に対し支払うべき代金をいう。

(親事業者の遵守事項)
第四条  親事業者は,下請事業者に対し製造委託等をした場合は,次の各号(役務提供委託をした場合にあつては,第一号及び第四号を除く。)に掲げる行為をしてはならない。
一  下請事業者の責に帰すべき理由がないのに,下請事業者の給付の受領を拒むこと。
二  下請代金をその支払期日の経過後なお支払わないこと。
三  下請事業者の責に帰すべき理由がないのに,下請代金の額を減ずること。
四  下請事業者の責に帰すべき理由がないのに,下請事業者の給付を受領した後,下請事業者にその給付に係る物を引き取らせること。
五  下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること。
六  下請事業者の給付の内容を均質にし又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き,自己の指定する物を強制して購入させ,又は役務を強制して利用させること。
七  親事業者が第一号若しくは第二号に掲げる行為をしている場合若しくは第三号から前号までに掲げる行為をした場合又は親事業者について次項各号の一に該当する事実があると認められる場合に下請事業者が公正取引委員会又は中小企業庁長官に対しその事実を知らせたことを理由として,取引の数量を減じ,取引を停止し,その他不利益な取扱いをすること。
2  親事業者は,下請事業者に対し製造委託等をした場合は,次の各号(役務提供委託をした場合にあつては,第一号を除く。)に掲げる行為をすることによつて,下請事業者の利益を不当に害してはならない。
一  自己に対する給付に必要な半製品,部品,附属品又は原材料(以下「原材料等」という。)を自己から購入させた場合に,下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに,当該原材料等を用いる給付に対する下請代金の支払期日より早い時期に,支払うべき下請代金の額から当該原材料等の対価の全部若しくは一部を控除し,又は当該原材料等の対価の全部若しくは一部を支払わせること。
二  下請代金の支払につき,当該下請代金の支払期日までに一般の金融機関(預金又は貯金の受入れ及び資金の融通を業とする者をいう。)による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。
三  自己のために金銭,役務その他の経済上の利益を提供させること。
四  下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに,下請事業者の給付の内容を変更させ,又は下請事業者の給付を受領した後に(役務提供委託の場合は,下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした後に)給付をやり直させること。

(勧告)
第七条  公正取引委員会は,親事業者が第四条第一項第一号,第二号又は第七号に掲げる行為をしていると認めるときは,その親事業者に対し,速やかにその下請事業者の給付を受領し,その下請代金若しくはその下請代金及び第四条の二の規定による遅延利息を支払い,又はその不利益な取扱いをやめるべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告するものとする。
2  公正取引委員会は,親事業者が第四条第一項第三号から第六号までに掲げる行為をしたと認めるときは,その親事業者に対し,速やかにその減じた額を支払い,その下請事業者の給付に係る物を再び引き取り,その下請代金の額を引き上げ,又はその購入させた物を引き取るべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告するものとする。
3  公正取引委員会は,親事業者について第四条第二項各号のいずれかに該当する事実があると認めるときは,その親事業者に対し,速やかにその下請事業者の利益を保護するため必要な措置をとるべきことを勧告するものとする。

(報告及び検査)
第九条  公正取引委員会は,親事業者の下請事業者に対する製造委託等に関する取引(以下単に「取引」という。)を公正ならしめるため必要があると認めるときは,親事業者若しくは下請事業者に対しその取引に関する報告をさせ,又はその職員に親事業者若しくは下請事業者の事務所若しくは事業所に立ち入り,帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
2  中小企業庁長官は,下請事業者の利益を保護するため特に必要があると認めるときは,親事業者若しくは下請事業者に対しその取引に関する報告をさせ,又はその職員に親事業者若しくは下請事業者の事務所若しくは事業所に立ち入り,帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
3  親事業者又は下請事業者の営む事業を所管する主務大臣は,中小企業庁長官の第六条の規定による調査に協力するため特に必要があると認めるときは,所管事業を営む親事業者若しくは下請事業者に対しその取引に関する報告をさせ,又はその職員にこれらの者の事務所若しくは事業所に立ち入り,帳簿書類その他の物件を検査させることができる。4  前三項の規定により職員が立ち入るときは,その身分を示す証明書を携帯し,関係人に提示しなければならない。
5  第一項から第三項までの規定による立入検査の権限は,犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。

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音・におい・動きの商標化について

2008-06-24 20:40:14 | Weblog
音・においを商標に,特許庁検討 2010年の法改正目指す NIKKEI NET

 「標」という字自体,「目じるし」といった意を含んでいる。「におい」「音」で商標というのは,ちょっと違和感がある。

さて,商標法第2条第1項柱書には「この法律で「商標」とは,文字,図形,記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合(以下「標章」という。)であつて,次に掲げるものをいう。」とあり,また,現在,特許庁のHPにも次のようにある。

<商標法の保護対象>
 商標法第2条に規定する商標,すなわち,文字,図形,記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合であって,業として商品を生産し,証明し若しくは譲渡する者がその商品について使用するもの,又は業として役務を提供し若しくは証明する者がその役務について使用するものを保護の対象とします。したがって,においや味,テーマソングのような音は保護の対象とはなりません。


商標を出願する場合,特許電子図書館の商標検索サービスなどで先行商標の有無を調査するのが通例。「におい」「香り」の事前調査では,このサービス,使えないなぁ・・・。

特許庁 商標権に関して 商標とは


商標法の関連条文

(目的)
第一条  この法律は,商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もつて産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。

(定義等)
第二条  この法律で「商標」とは,文字,図形,記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合(以下「標章」という。)であつて,次に掲げるものをいう。
一  業として商品を生産し,証明し,又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二  業として役務を提供し,又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)
2  前項第二号の役務には,小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供が含まれるものとする。
3  この法律で標章について「使用」とは,次に掲げる行為をいう。
一  商品又は商品の包装に標章を付する行為
二  商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,輸入し,又は電気通信回線を通じて提供する行為
三  役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し,又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為
四  役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為
五  役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為
六  役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為
七  電磁的方法(電子的方法,磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。次号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為
八  商品若しくは役務に関する広告,価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し,若しくは頒布し,又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
4  前項において,商品その他の物に標章を付することには,商品若しくは商品の包装,役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告を標章の形状とすることが含まれるものとする。
5  この法律で「登録商標」とは,商標登録を受けている商標をいう。
6  この法律において,商品に類似するものの範囲には役務が含まれることがあるものとし,役務に類似するものの範囲には商品が含まれることがあるものとする。

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手形や売掛債権の電子化について

2008-06-23 20:56:47 | Weblog
電子手形を来年6月開始へ 三菱UFJ,企業決済で - さきがけ on the Web

 三菱東京UFJ銀行が設立しようとしているのは電子債権記録機関。電子債権記録業を営むには主務大臣の指定を受ける必要がある(電子記録債権法第2条第2項,51条,52条参照)。

さて,電子記録債権法第2条第1項には「この法律において「電子記録債権」とは,その発生又は譲渡についてこの法律の規定による電子記録(以下単に「電子記録」という。)を要件とする金銭債権をいう。」とある。記事のタイトルに「電子手形」とあるが,上記法文からも明らかなように,電子記録債権は「電子化した手形」ではない。
例えば,『一問一答 電子記録債権法』(商事法務)には次のようにある。

Q5 電子記録債権は,手形とも指名債権とも異なる債権と説明されていますが,手形や指名債権を電子化しなかったのはなぜですか。

A 1 手形とは,手形法に基づき発行された証券をいいますが,電子記録債権には証券が存在しませんから手形とは異なっており,また,手形法は,ジュネーブ統一手形条約に基づいて制定されたものですから,手形の無券面化は,同条約を廃棄しない限り困難であると考えられます。
 そこで,手形の電子化という方法は,採用しませんでした。
2 指名債権については,譲渡の方式に制限はなく,確定日付のある通知もしくは承諾または債権譲渡登記をすることが第三者対抗要件とされていますが,二重譲渡を回避するには電子記録を譲渡の効力要件とする必要があります。また,電子記録債権には,善意取得や人的抗弁の切断等の指名債権譲渡には認められない効力を認めることが要請されていました。
 そこで,指名債権の電子化という方法は採用せず,電子記録債権は指名債権とも異なるものとして整理しました。

Q8 電子記録債権制度の導入により,現在の手形実務や債権譲渡の実務にどのような影響がありますか。

A 1 電子記録債権は,手形とも指名債権とも異なる類型の債権として創設するものであって,手形や指名債権については,何らの変更を行うものではありません。したがって,電子記録債権を利用するかどうかは当事者の自由であり,電子記録債権を利用せずに,従前どおり,手形や指名債権を利用することもできます。
2 (省略)


他方,お隣韓国の電子手形や電子債権の制度は,既存の手形や指名債権譲渡の対抗要件を電子化したもの。日本の制度とは異なる。

法務省 電子記録債権法の概要


電子記録債権法の関連条文

(趣旨)
第一条  この法律は,電子記録債権の発生,譲渡等について定めるとともに,電子記録債権に係る電子記録を行う電子債権記録機関の業務,監督等について必要な事項を定めるものとする。

(定義)
第二条  この法律において「電子記録債権」とは,その発生又は譲渡についてこの法律の規定による電子記録(以下単に「電子記録」という。)を要件とする金銭債権をいう。
2  この法律において「電子債権記録機関」とは,第五十一条第一項の規定により主務大臣の指定を受けた株式会社をいう。
3  この法律において「記録原簿」とは,債権記録が記録される帳簿であって,磁気ディスク(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録することができる物として主務省令で定めるものを含む。)をもって電子債権記録機関が調製するものをいう。
4  この法律において「債権記録」とは,発生記録により発生する電子記録債権又は電子記録債権から第四十三条第一項に規定する分割をする電子記録債権ごとに作成される電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)をいう。
5  この法律において「記録事項」とは,この法律の規定に基づき債権記録に記録すべき事項をいう。
6  この法律において「電子記録名義人」とは,債権記録に電子記録債権の債権者又は質権者として記録されている者をいう。
7  この法律において「電子記録権利者」とは,電子記録をすることにより,電子記録上,直接に利益を受ける者をいい,間接に利益を受ける者を除く。
8  この法律において「電子記録義務者」とは,電子記録をすることにより,電子記録上,直接に不利益を受ける者をいい,間接に不利益を受ける者を除く。
9  この法律において「電子記録保証」とは,電子記録債権に係る債務を主たる債務とする保証であって,保証記録をしたものをいう。

(電子記録の方法)
第三条  電子記録は,電子債権記録機関が記録原簿に記録事項を記録することによって行う。

(当事者の請求又は官公署の嘱託による電子記録)
第四条  電子記録は,法令に別段の定めがある場合を除き,当事者の請求又は官庁若しくは公署の嘱託がなければ,することができない。
2  請求による電子記録の手続に関するこの法律の規定は,法令に別段の定めがある場合を除き,官庁又は公署の嘱託による電子記録の手続について準用する。

(請求の当事者)
第五条  電子記録の請求は,法令に別段の定めがある場合を除き,電子記録権利者及び電子記録義務者(これらの者について相続その他の一般承継があったときは,その相続人その他の一般承継人。第三項において同じ。)双方がしなければならない。
2  電子記録権利者又は電子記録義務者(これらの者について相続その他の一般承継があったときは,その相続人その他の一般承継人。以下この項において同じ。)に電子記録の請求をすべきことを命ずる確定判決による電子記録は,当該請求をしなければならない他の電子記録権利者又は電子記録義務者だけで請求することができる。
3  電子記録権利者及び電子記録義務者が電子記録の請求を共同してしない場合における電子記録の請求は,これらの者のすべてが電子記録の請求をした時に,その効力を生ずる。

(請求の方法)
第六条  電子記録の請求は,請求者の氏名又は名称及び住所その他の電子記録の請求に必要な情報として政令で定めるものを電子債権記録機関に提供してしなければならない。

(電子債権記録機関による電子記録)
第七条  電子債権記録機関は,この法律又はこの法律に基づく命令の規定による電子記録の請求があったときは,遅滞なく,当該請求に係る電子記録をしなければならない。
2  電子債権記録機関は,第五十一条第一項第五号に規定する業務規程(以下この章において単に「業務規程」という。)の定めるところにより,保証記録,質権設定記録若しくは分割記録をしないこととし,又はこれらの電子記録若しくは譲渡記録について回数の制限その他の制限をすることができる。この場合において,電子債権記録機関が第十六条第二項第十五号に掲げる事項を債権記録に記録していないときは,何人も,当該業務規程の定めの効力を主張することができない。

(電子記録の順序)
第八条  電子債権記録機関は,同一の電子記録債権に関し二以上の電子記録の請求があったときは,当該請求の順序に従って電子記録をしなければならない。
2  同一の電子記録債権に関し同時に二以上の電子記録が請求された場合において,請求に係る電子記録の内容が相互に矛盾するときは,前条第一項の規定にかかわらず,電子債権記録機関は,いずれの請求に基づく電子記録もしてはならない。
3  同一の電子記録債権に関し二以上の電子記録が請求された場合において,その前後が明らかでないときは,これらの請求は,同時にされたものとみなす。

(電子記録の効力)
第九条  電子記録債権の内容は,債権記録の記録により定まるものとする。
2  電子記録名義人は,電子記録に係る電子記録債権についての権利を適法に有するものと推定する。

(電子記録の訂正等)
第十条  電子債権記録機関は,次に掲げる場合には,電子記録の訂正をしなければならない。ただし,電子記録上の利害関係を有する第三者がある場合にあっては,当該第三者の承諾があるときに限る。
一  電子記録の請求に当たって電子債権記録機関に提供された情報の内容と異なる内容の記録がされている場合
二  請求がなければすることができない電子記録が,請求がないのにされている場合
三  電子債権記録機関が自らの権限により記録すべき記録事項について,記録すべき内容と異なる内容の記録がされている場合
四  電子債権記録機関が自らの権限により記録すべき記録事項について,その記録がされていない場合(一の電子記録の記録事項の全部が記録されていないときを除く。)
2  電子債権記録機関は,第八十六条各号に掲げる期間のうちのいずれかが経過する日までに電子記録が消去されたときは,当該電子記録の回復をしなければならない。この場合においては,前項ただし書の規定を準用する。
3  電子債権記録機関は,前二項の規定により電子記録の訂正又は回復をするときは,当該訂正又は回復後の電子記録の内容と矛盾する電子記録について,電子記録の訂正をしなければならない。
4  電子債権記録機関が第一項又は第二項の規定により電子記録の訂正又は回復をしたときは,その内容を電子記録権利者及び電子記録義務者(電子記録権利者及び電子記録義務者がない場合にあっては,電子記録名義人)に通知しなければならない。
5  前項の規定による通知は,民法(明治二十九年法律第八十九号)第四百二十三条その他の法令の規定により他人に代わって電子記録の請求をした者にもしなければならない。ただし,その者が二人以上あるときは,その一人に対し通知すれば足りる。

(不実の電子記録等についての電子債権記録機関の責任)
第十一条  電子債権記録機関は,前条第一項各号に掲げる場合又は同条第二項に規定するときは,これらの規定に規定する事由によって当該電子記録の請求をした者その他の第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。ただし,電子債権記録機関の代表者及び使用人その他の従業者がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したときは,この限りでない。

(電子記録債権の発生)
第十五条  電子記録債権(保証記録に係るもの及び電子記録保証をした者(以下「電子記録保証人」という。)が第三十五条第一項(同条第二項及び第三項において準用する場合を含む。)の規定により取得する電子記録債権(以下「特別求償権」という。)を除く。次条において同じ。)は,発生記録をすることによって生ずる。

(発生記録)
第十六条  発生記録においては,次に掲げる事項を記録しなければならない。
一  債務者が一定の金額を支払う旨
二  支払期日(確定日に限るものとし,分割払の方法により債務を支払う場合にあっては,各支払期日とする。)
三  債権者の氏名又は名称及び住所
四  債権者が二人以上ある場合において,その債権が不可分債権であるときはその旨,可分債権であるときは債権者ごとの債権の金額
五  債務者の氏名又は名称及び住所
六  債務者が二人以上ある場合において,その債務が不可分債務又は連帯債務であるときはその旨,可分債務であるときは債務者ごとの債務の金額
七  記録番号(発生記録又は分割記録をする際に一の債権記録ごとに付す番号をいう。以下同じ。)
八  電子記録の年月日
2  発生記録においては,次に掲げる事項を記録することができる。
一  第六十二条第一項に規定する口座間送金決済に関する契約に係る支払をするときは,その旨並びに債務者の預金又は貯金の口座(以下「債務者口座」という。)及び債権者の預金又は貯金の口座(以下「債権者口座」という。)
二  第六十四条に規定する契約に係る支払をするときは,その旨
三  前二号に規定するもののほか,支払方法についての定めをするときは,その定め(分割払の方法により債務を支払う場合にあっては,各支払期日ごとに支払うべき金額を含む。)
四  利息,遅延損害金又は違約金についての定めをするときは,その定め
五  期限の利益の喪失についての定めをするときは,その定め
六  相殺又は代物弁済についての定めをするときは,その定め
七  弁済の充当の指定についての定めをするときは,その定め
八  第十九条第一項(第三十八条において読み替えて準用する場合を含む。)の規定を適用しない旨の定めをするときは,その定め
九  債権者又は債務者が個人事業者であるときは,その旨
十  債務者が法人又は個人事業者(その旨の記録がされる者に限る。)である場合において,第二十条第一項(第三十八条において読み替えて準用する場合を含む。)の規定を適用しない旨の定めをするときは,その定め
十一  債務者が法人又は個人事業者(その旨の記録がされる者に限る。)であって前号に掲げる定めが記録されない場合において,債務者が債権者(譲渡記録における譲受人を含む。以下この項において同じ。)に対抗することができる抗弁についての定めをするときは,その定め
十二  譲渡記録,保証記録,質権設定記録若しくは分割記録をすることができないこととし,又はこれらの電子記録について回数の制限その他の制限をする旨の定めをするときは,その定め
十三  債権者と債務者との間の通知の方法についての定めをするときは,その定め
十四  債権者と債務者との間の紛争の解決の方法についての定めをするときは,その定め
十五  電子債権記録機関が第七条第二項の規定により保証記録,質権設定記録若しくは分割記録をしないこととし,又はこれらの電子記録若しくは譲渡記録について回数の制限その他の制限をしたときは,その定め
十六  前各号に掲げるもののほか,電子記録債権の内容となるものとして政令で定める事項
3  第一項第一号から第六号までに掲げる事項のいずれかの記録が欠けているときは,電子記録債権は,発生しない。
4  消費者契約法第二条第一項に規定する消費者(以下単に「消費者」という。)についてされた第二項第九号に掲げる事項の記録は,その効力を有しない。
5  第一項及び第二項の規定にかかわらず,電子債権記録機関は,業務規程の定めるところにより,第一項第二号(分割払の方法により債務を支払う場合における各支払期日の部分に限る。)及び第二項各号(第一号,第二号及び第九号を除く。)に掲げる事項について,その記録をしないこととし,又はその記録を制限することができる。

(電子債権記録業を営む者の指定)
第五十一条  主務大臣は,次に掲げる要件を備える者を,その申請により,第五十六条に規定する業務(以下「電子債権記録業」という。)を営む者として,指定することができる。
一  次に掲げる機関を置く株式会社であること。
イ 取締役会
ロ 監査役会又は委員会(会社法(平成十七年法律第八十六号)第二条第十二号に規定する委員会をいう。)
ハ 会計監査人
二  第七十五条第一項の規定によりこの項の指定を取り消された日から五年を経過しない者でないこと。
三  この法律又はこれに相当する外国の法令の規定に違反し,罰金の刑(これに相当する外国の法令による刑を含む。)に処せられ,その刑の執行を終わり,又はその刑の執行を受けることがなくなった日から五年を経過しない者でないこと。
四  取締役,会計参与,監査役又は執行役のうちに次のいずれかに該当する者がないこと。
イ 成年被後見人若しくは被保佐人又は外国の法令上これらに相当する者
ロ 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者又は外国の法令上これに相当する者
ハ 禁錮以上の刑(これに相当する外国の法令による刑を含む。)に処せられ,その刑の執行を終わり,又はその刑の執行を受けることがなくなった日から五年を経過しない者
ニ 第七十五条第一項の規定によりこの項の指定を取り消された場合又はこの法律に相当する外国の法令の規定により当該外国において受けているこの項の指定に類する行政処分を取り消された場合において,その取消しの日前三十日以内にその会社の取締役,会計参与,監査役又は執行役(外国会社における外国の法令上これらに相当する者を含む。ホにおいて同じ。)であった者でその取消しの日から五年を経過しない者
ホ 第七十五条第一項の規定又はこの法律に相当する外国の法令の規定により解任を命ぜられた取締役,会計参与,監査役又は執行役でその処分を受けた日から五年を経過しない者
ヘ この法律,会社法若しくはこれらに相当する外国の法令の規定に違反し,又は刑法(明治四十年法律第四十五号)第二百四条,第二百六条,第二百八条,第二百八条の三,第二百二十二条若しくは第二百四十七条の罪,暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)の罪若しくは暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)第四十六条,第四十七条,第四十九条若しくは第五十条の罪を犯し,罰金の刑(これに相当する外国の法令による刑を含む。)に処せられ,その刑の執行を終わり,又はその刑の執行を受けることがなくなった日から五年を経過しない者
五  定款及び電子債権記録業の実施に関する規程(以下「業務規程」という。)が,法令に適合し,かつ,この法律の定めるところにより電子債権記録業を適正かつ確実に遂行するために十分であると認められること。
六  電子債権記録業を健全に遂行するに足りる財産的基礎を有し,かつ,電子債権記録業に係る収支の見込みが良好であると認められること。
七  その人的構成に照らして,電子債権記録業を適正かつ確実に遂行することができる知識及び経験を有し,かつ,十分な社会的信用を有すると認められること。
2  主務大臣は,前項の指定をしたときは,その指定した電子債権記録機関の商号及び本店の所在地を官報で公示しなければならない。

(指定の申請)
第五十二条  前条第一項の指定を受けようとする者は,次に掲げる事項を記載した指定申請書を主務大臣に提出しなければならない。
一  商号
二  資本金の額及び純資産額
三  本店その他の営業所の名称及び所在地
四  取締役及び監査役(委員会設置会社にあっては,取締役及び執行役)の氏名
五  会計参与設置会社にあっては,会計参与の氏名又は名称
2  指定申請書には,次に掲げる書類を添付しなければならない。
一  前条第一項第三号及び第四号に掲げる要件に該当する旨を誓約する書面
二  定款
三  会社の登記事項証明書
四  業務規程
五  貸借対照表及び損益計算書
六  収支の見込みを記載した書類
七  前各号に掲げるもののほか,主務省令で定める書類
3  前項の場合において,定款,貸借対照表又は損益計算書が電磁的記録で作成されているときは,書類に代えて電磁的記録(主務省令で定めるものに限る。)を添付することができる。

(資本金の額等)
第五十三条  電子債権記録機関の資本金の額は,政令で定める金額以上でなければならない。
2  前項の政令で定める金額は,五億円を下回ってはならない。
3  電子債権記録機関の純資産額は,第一項の政令で定める金額以上でなければならない。

(秘密保持義務)
第五十五条  電子債権記録機関の取締役,会計参与(会計参与が法人であるときは,その職務を行うべき社員),監査役,執行役若しくは職員又はこれらの職にあった者は,電子債権記録業に関して知り得た秘密を漏らし,又は盗用してはならない。

(電子債権記録機関の業務)
第五十六条  電子債権記録機関は,この法律及び業務規程の定めるところにより,電子記録債権に係る電子記録に関する業務を行うものとする。

(兼業の禁止)
第五十七条  電子債権記録機関は,電子債権記録業及びこれに附帯する業務のほか,他の業務を営むことができない。

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利用が好調な遺言信託について

2008-06-22 17:46:55 | Weblog
asahi.com あなたの遺言,預かります 信託ビジネス好調

 信託法第3条には,信託の方法として,「特定の者に対し財産の譲渡,担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法」(第2号)とある。講学上,「遺言信託」という場合は,上記の「遺言の方法による信託」のことを指す。
記事の「遺言信託」,はっきりしないが,信託銀行が遺言を保管したり,遺言執行者になるものとして使われているようにも読める。これは上記講学上のそれとは似て非なるものである。してみると,好調なのは,「遺言作成サポートビジネス」や「遺言保管ビジネス」ということになるか・・・。


信託法の関連条文

(趣旨)
第一条  信託の要件,効力等については,他の法令に定めるもののほか,この法律の定めるところによる。

(定義)
第二条  この法律において「信託」とは,次条各号に掲げる方法のいずれかにより,特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう。
2  この法律において「信託行為」とは,次の各号に掲げる信託の区分に応じ,当該各号に定めるものをいう。
一  次条第一号に掲げる方法による信託 同号の信託契約
二  次条第二号に掲げる方法による信託 同号の遺言
三  次条第三号に掲げる方法による信託 同号の書面又は電磁的記録(同号に規定する電磁的記録をいう。)によってする意思表示
3  この法律において「信託財産」とは,受託者に属する財産であって,信託により管理又は処分をすべき一切の財産をいう。
4  この法律において「委託者」とは,次条各号に掲げる方法により信託をする者をいう。
5  この法律において「受託者」とは,信託行為の定めに従い,信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をすべき義務を負う者をいう。
6  この法律において「受益者」とは,受益権を有する者をいう。
7  この法律において「受益権」とは,信託行為に基づいて受託者が受益者に対し負う債務であって信託財産に属する財産の引渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権(以下「受益債権」という。)及びこれを確保するためにこの法律の規定に基づいて受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利をいう。
8  この法律において「固有財産」とは,受託者に属する財産であって,信託財産に属する財産でない一切の財産をいう。
9  この法律において「信託財産責任負担債務」とは,受託者が信託財産に属する財産をもって履行する責任を負う債務をいう。
10  この法律において「信託の併合」とは,受託者を同一とする二以上の信託の信託財産の全部を一の新たな信託の信託財産とすることをいう。
11  この法律において「吸収信託分割」とは,ある信託の信託財産の一部を受託者を同一とする他の信託の信託財産として移転することをいい,「新規信託分割」とは,ある信託の信託財産の一部を受託者を同一とする新たな信託の信託財産として移転することをいい,「信託の分割」とは,吸収信託分割又は新規信託分割をいう。
12  この法律において「限定責任信託」とは,受託者が当該信託のすべての信託財産責任負担債務について信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う信託をいう。

(信託の方法)
第三条  信託は,次に掲げる方法のいずれかによってする。
一  特定の者との間で,当該特定の者に対し財産の譲渡,担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約(以下「信託契約」という。)を締結する方法
二  特定の者に対し財産の譲渡,担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法
三  特定の者が一定の目的に従い自己の有する一定の財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為を自らすべき旨の意思表示を公正証書その他の書面又は電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)で当該目的,当該財産の特定に必要な事項その他の法務省令で定める事項を記載し又は記録したものによってする方法

(信託の効力の発生)
第四条  前条第一号に掲げる方法によってされる信託は,委託者となるべき者と受託者となるべき者との間の信託契約の締結によってその効力を生ずる。
2  前条第二号に掲げる方法によってされる信託は,当該遺言の効力の発生によってその効力を生ずる。
3  前条第三号に掲げる方法によってされる信託は,次の各号に掲げる場合の区分に応じ,当該各号に定めるものによってその効力を生ずる。
一  公正証書又は公証人の認証を受けた書面若しくは電磁的記録(以下この号及び次号において「公正証書等」と総称する。)によってされる場合 当該公正証書等の作成
二  公正証書等以外の書面又は電磁的記録によってされる場合 受益者となるべき者として指定された第三者(当該第三者が二人以上ある場合にあっては,その一人)に対する確定日付のある証書による当該信託がされた旨及びその内容の通知
4  前三項の規定にかかわらず,信託は,信託行為に停止条件又は始期が付されているときは,当該停止条件の成就又は当該始期の到来によってその効力を生ずる。

(遺言信託における信託の引受けの催告)
第五条  第三条第二号に掲げる方法によって信託がされた場合において,当該遺言に受託者となるべき者を指定する定めがあるときは,利害関係人は,受託者となるべき者として指定された者に対し,相当の期間を定めて,その期間内に信託の引受けをするかどうかを確答すべき旨を催告することができる。ただし,当該定めに停止条件又は始期が付されているときは,当該停止条件が成就し,又は当該始期が到来した後に限る。
2  前項の規定による催告があった場合において,受託者となるべき者として指定された者は,同項の期間内に委託者の相続人に対し確答をしないときは,信託の引受けをしなかったものとみなす。
3  委託者の相続人が現に存しない場合における前項の規定の適用については,同項中「委託者の相続人」とあるのは,「受益者(二人以上の受益者が現に存する場合にあってはその一人,信託管理人が現に存する場合にあっては信託管理人)」とする。

(遺言信託における裁判所による受託者の選任)
第六条  第三条第二号に掲げる方法によって信託がされた場合において,当該遺言に受託者の指定に関する定めがないとき,又は受託者となるべき者として指定された者が信託の引受けをせず,若しくはこれをすることができないときは,裁判所は,利害関係人の申立てにより,受託者を選任することができる。
2  前項の申立てについての裁判には,理由を付さなければならない。
3  第一項の規定による受託者の選任の裁判に対しては,受益者又は既に存する受託者は,即時抗告をすることができる。
4  前項の即時抗告は,執行停止の効力を有する。

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戸籍のない子どもたちの実父に対する一斉認知調停申立てについて

2008-06-20 18:24:27 | Weblog
「無戸籍」一斉申し立てへ 実父に認知求め調停 - さきがけ on the Web

 形式的には民法第772条により嫡出性が推定されるが,長期間別居状態が続いていたなど,事実上嫡出の推定が及ばない無戸籍(出生届未了)の子どもが,母親の前夫との親子関係を否定するにあたっては,これまで,親子関係不存在確認に係る調停申立てなどによるとされてきた(家事審判法第23条第2項参照)。
記事にある最高裁の回答は,上記の方法によらず,実父に対する認知調停申立ても可能とするもの。母親の前夫との間で法律上の嫡出推定が働くケースにもかかわらず,これを棚上げして,いきなり,例えば,母親の現夫などに対して認知調停申立てをおこなう,というのだから,イレギュラーの感は否めない。
記事には,前夫の子どもではないとの立証を求められる可能性があるとあるが,身分関係の安定等の要請を考えれば,これは致し方ない面もある。戸籍を得るための本認知調停申立ては,言い方は適当ではないかもしれないが,「出来レース」の色合いが濃厚。調停の結果を当事者の言い分にのみ委ねた場合は問題も出てこよう(民法第786条。なお,家事審判法第23条参照)。
申立てにあたっては,この方法に拠らざるを得ないことを明らかにする意味で,前夫の協力が得られない事情・交渉経過などを厚く記載することが求められると思われる。
なお,家事審判法第27条には「家庭裁判所又は調停委員会の呼出を受けた事件の関係人が正当な事由がなく出頭しないときは,家庭裁判所は,これを五万円以下の過料に処する。」とある。

追記  『解説実務書式体系23』(三省堂)の「認知申立事件」の項に次の解説がある。

 親子関係不存在確認との関係
 嫡出の推定が及ばない子について,その子の戸籍上の父が死亡している場合,所在不明の場合,父が親子関係不存在確認の調停に応じない場合に,子から実父を相手方とする認知請求の調停を認める取扱もある。


子の実父に対する認知調停申立て,一部では認められていたようだが,書きぶりからして,例外的だったのは間違いなさそうだ。


民法の関連条文

(嫡出の推定)
第七百七十二条  妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定する。
2  婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定する。

(父を定めることを目的とする訴え)
第七百七十三条  第七百三十三条第一項の規定に違反して再婚をした女が出産した場合において,前条の規定によりその子の父を定めることができないときは,裁判所が,これを定める。

(嫡出の否認)
第七百七十四条  第七百七十二条の場合において,夫は,子が嫡出であることを否認することができる。

(嫡出否認の訴え)
第七百七十五条  前条の規定による否認権は,子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。親権を行う母がないときは,家庭裁判所は,特別代理人を選任しなければならない。

(嫡出の承認)
第七百七十六条  夫は,子の出生後において,その嫡出であることを承認したときは,その否認権を失う。

(嫡出否認の訴えの出訴期間)
第七百七十七条  嫡出否認の訴えは,夫が子の出生を知った時から一年以内に提起しなければならない。

第七百七十八条  夫が成年被後見人であるときは,前条の期間は,後見開始の審判の取消しがあった後夫が子の出生を知った時から起算する。

(認知)
第七百七十九条  嫡出でない子は,その父又は母がこれを認知することができる。

(認知能力)
第七百八十条  認知をするには,父又は母が未成年者又は成年被後見人であるときであっても,その法定代理人の同意を要しない。

(認知の方式)
第七百八十一条  認知は,戸籍法 の定めるところにより届け出ることによってする。
2  認知は,遺言によっても,することができる。

(成年の子の認知)
第七百八十二条  成年の子は,その承諾がなければ,これを認知することができない。

(認知の効力)
第七百八十四条  認知は,出生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし,第三者が既に取得した権利を害することはできない。

(認知に対する反対の事実の主張)
第七百八十六条  子その他の利害関係人は,認知に対して反対の事実を主張することができる。

家事審判法の関連条文

第一条  この法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等を基本として,家庭の平和と健全な親族共同生活の維持を図ることを目的とする。

第二条  家庭裁判所において,この法律に定める事項を取り扱う裁判官は,これを家事審判官とする。

第三条  審判は,特別の定がある場合を除いては,家事審判官が,参与員を立ち合わせ,又はその意見を聴いて,これを行う。但し,家庭裁判所は,相当と認めるときは,家事審判官だけで審判を行うことができる。
2  調停は,家事審判官及び家事調停委員をもつて組織する調停委員会がこれを行う。前項ただし書の規定は,調停にこれを準用する。
3  家庭裁判所は,当事者の申立があるときは,前項後段の規定にかかわらず,調停委員会で調停を行わなければならない。

第十七条  家庭裁判所は,人事に関する訴訟事件その他一般に家庭に関する事件について調停を行う。但し,第九条第一項甲類に規定する審判事件については,この限りでない。

第二十三条  婚姻又は養子縁組の無効又は取消しに関する事件の調停委員会の調停において,当事者間に合意が成立し無効又は取消しの原因の有無について争いがない場合には,家庭裁判所は,必要な事実を調査した上,当該調停委員会を組織する家事調停委員の意見を聴き,正当と認めるときは,婚姻又は縁組の無効又は取消しに関し,当該合意に相当する審判をすることができる。
2  前項の規定は,協議上の離婚若しくは離縁の無効若しくは取消し,認知,認知の無効若しくは取消し,民法第七百七十三条 の規定により父を定めること,嫡出否認又は身分関係の存否の確定に関する事件の調停委員会の調停について準用する。

第二十七条  家庭裁判所又は調停委員会の呼出を受けた事件の関係人が正当な事由がなく出頭しないときは,家庭裁判所は,これを五万円以下の過料に処する。

第二十九条  前二条の過料の審判は,家事審判官の命令でこれを執行する。この命令は,執行力のある債務名義と同一の効力を有する。
2  過料の審判の執行は,民事執行法 (昭和五十四年法律第四号)その他強制執行の手続に関する法令の規定に従つてこれをする。ただし,執行前に審判の送達をすることを要しない。
3  前二項に規定するもののほか,過料についての審判に関しては,非訟事件手続法第五編 の規定を準用する。ただし,同法第百六十二条 及び第百六十四条 中検察官に関する規定は,この限りでない。

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生活保護費不正受給を理由とする告訴について

2008-06-19 21:22:25 | Weblog
生活保護費795万円不正受給の男を告訴 鹿角市 - さきがけ on the Web

 生活保護については,不正受給が後を絶たず,これが,新たな受給者の抑制に繋がるという悪循環を生んでいるとの指摘もなされている。
因みに,秋田市では,2年前,生活保護を申請したところ,就労可能として2回にわたり申請を却下された男性が,市役所駐車場に止めていた車の中で練炭自殺するという衝撃的な事件が起きている。

さて,生活保護法第78条には「不実の申請その他不正な手段により保護を受け,又は他人をして受けさせた者があるときは,保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は,その費用の全部又は一部を,その者から徴収することができる。」とあり,同第85条には「不実の申請その他不正な手段により保護を受け,又は他人をして受けさせた者は,三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。ただし,刑法 (明治四十年法律第四十五号)に正条があるときは,刑法 による。」とある。本事案では,詐欺罪(刑法第246条)が「正条」ということなのだろう。
地方公共団体に虚偽の申立等をおこなって何らかの給付を受けた場合,詐欺罪が成立するかについては,詐欺罪の保護法益との関係で考え方が分かれるが,生活保護費の不正受給に詐欺罪を適用したものとしては高松高判S46.9.9がある。

なお,本件とは関係ないが,重度障害者が,入院した場合の費用のことなどを考え,生活保護費を原資に貯蓄したところ,福祉事務所長がこれを収入と認定し,生活保護費を減額したため,この処分の違法性が争われたものに秋田地判H5.4.23がある。当時,定時のローカルニュースでも取り上げられるなど,話題になった。

厚労省 生活保護制度の概要


日本国憲法の関連条文

第二十五条  すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2  国は,すべての生活部面について,社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

生活保護法の関連条文

(この法律の目的)
第一条  この法律は,日本国憲法第二十五条 に規定する理念に基き,国が生活に困窮するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,その自立を助長することを目的とする。

(無差別平等)
第二条  すべて国民は,この法律の定める要件を満たす限り,この法律による保護(以下「保護」という。)を,無差別平等に受けることができる。

(最低生活)
第三条  この法律により保障される最低限度の生活は,健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない。

(保護の補足性)
第四条  保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
2  民法 (明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
3  前二項の規定は,急迫した事由がある場合に,必要な保護を行うことを妨げるものではない。

(この法律の解釈及び運用)
第五条  前四条に規定するところは,この法律の基本原理であつて,この法律の解釈及び運用は,すべてこの原理に基いてされなければならない。

(用語の定義)
第六条  この法律において「被保護者」とは,現に保護を受けている者をいう。
2  この法律において「要保護者」とは,現に保護を受けているといないとにかかわらず,保護を必要とする状態にある者をいう。
3  この法律において「保護金品」とは,保護として給与し,又は貸与される金銭及び物品をいう。
4  この法律において「金銭給付」とは,金銭の給与又は貸与によつて,保護を行うことをいう。
5  この法律において「現物給付」とは,物品の給与又は貸与,医療の給付,役務の提供その他金銭給付以外の方法で保護を行うことをいう。

(必要即応の原則)
第九条  保護は,要保護者の年齢別,性別,健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して,有効且つ適切に行うものとする。

(種類)
第十一条  保護の種類は,次のとおりとする。
一  生活扶助
二  教育扶助
三  住宅扶助
四  医療扶助
五  介護扶助
六  出産扶助
七  生業扶助
八  葬祭扶助
2  前項各号の扶助は,要保護者の必要に応じ,単給又は併給として行われる。

(民生委員の協力)
第二十二条  民生委員法 (昭和二十三年法律第百九十八号)に定める民生委員は,この法律の施行について,市町村長,福祉事務所長又は社会福祉主事の事務の執行に協力するものとする。

(指導及び指示)
第二十七条  保護の実施機関は,被保護者に対して,生活の維持,向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる。
2  前項の指導又は指示は,被保護者の自由を尊重し,必要の最少限度に止めなければならない。
3  第一項の規定は,被保護者の意に反して,指導又は指示を強制し得るものと解釈してはならない。

(相談及び助言)
第二十七条の二  保護の実施機関は,要保護者から求めがあつたときは,要保護者の自立を助長するために,要保護者からの相談に応じ,必要な助言をすることができる。

(調査及び検診)
第二十八条  保護の実施機関は,保護の決定又は実施のため必要があるときは,要保護者の資産状況,健康状態その他の事項を調査するために,要保護者について,当該職員に,その居住の場所に立ち入り,これらの事項を調査させ,又は当該要保護者に対して,保護の実施機関の指定する医師若しくは歯科医師の検診を受けるべき旨を命ずることができる。
2  前項の規定によつて立入調査を行う当該職員は,厚生労働省令の定めるところにより,その身分を示す証票を携帯し,且つ,関係人の請求があるときは,これを呈示しなければならない。
3  第一項の規定による立入調査の権限は,犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。
4  保護の実施機関は,要保護者が第一項の規定による立入調査を拒み,妨げ,若しくは忌避し,又は医師若しくは歯科医師の検診を受けるべき旨の命令に従わないときは,保護の開始若しくは変更の申請を却下し,又は保護の変更,停止若しくは廃止をすることができる。

(調査の嘱託及び報告の請求)
第二十九条  保護の実施機関及び福祉事務所長は,保護の決定又は実施のために必要があるときは,要保護者又はその扶養義務者の資産及び収入の状況につき,官公署に調査を嘱託し,又は銀行,信託会社,要保護者若しくはその扶養義務者の雇主その他の関係人に,報告を求めることができる。

(譲渡禁止)
第五十九条  被保護者は,保護を受ける権利を譲り渡すことができない。

(生活上の義務)
第六十条  被保護者は,常に,能力に応じて勤労に励み,支出の節約を図り,その他生活の維持,向上に努めなければならない。

(届出の義務)
第六十一条  被保護者は,収入,支出その他生計の状況について変動があつたとき,又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは,すみやかに,保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。

(指示等に従う義務)
第六十二条  被保護者は,保護の実施機関が,第三十条第一項ただし書の規定により,被保護者を救護施設,更生施設若しくはその他の適当な施設に入所させ,若しくはこれらの施設に入所を委託し,若しくは私人の家庭に養護を委託して保護を行うことを決定したとき,又は第二十七条の規定により,被保護者に対し,必要な指導又は指示をしたときは,これに従わなければならない。
2  保護施設を利用する被保護者は,第四十六条の規定により定められたその保護施設の管理規程に従わなければならない。
3  保護の実施機関は,被保護者が前二項の規定による義務に違反したときは,保護の変更,停止又は廃止をすることができる。
4  保護の実施機関は,前項の規定により保護の変更,停止又は廃止の処分をする場合には,当該被保護者に対して弁明の機会を与えなければならない。この場合においては,あらかじめ,当該処分をしようとする理由,弁明をすべき日時及び場所を通知しなければならない。
5  第三項の規定による処分については,行政手続法第三章 (第十二条及び第十四条を除く。)の規定は,適用しない。

(費用返還義務)
第六十三条  被保護者が,急迫の場合等において資力があるにもかかわらず,保護を受けたときは,保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して,すみやかに,その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。

第七十八条  不実の申請その他不正な手段により保護を受け,又は他人をして受けさせた者があるときは,保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は,その費用の全部又は一部を,その者から徴収することができる。

(罰則)
第八十五条  不実の申請その他不正な手段により保護を受け,又は他人をして受けさせた者は,三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。ただし,刑法 (明治四十年法律第四十五号)に正条があるときは,刑法 による。

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平成20年岩手・宮城内陸地震について

2008-06-15 21:44:32 | Weblog
防災担当相に激甚災害指定を要請 岩手・宮城内陸地震 NIKKEI NET

 被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。

地震直後,仙台の知り合いに電話をしたところ,「凄い揺れ。怖かった」と話していた。無理もない。報道によれば,今回の地震,阪神淡路大震災級の規模だったようだ。
秋田市は震度4。もちろん揺れたが,それでも,20秒とは続かなかったような気がする。

さて,激甚災害法第2条第1項には「国民経済に著しい影響を及ぼし,かつ,当該災害による地方財政の負担を緩和し,又は被災者に対する特別の助成を行なうことが特に必要と認められる災害が発生した場合には,当該災害を激甚災害として政令で指定するものとする。」,同第2項には「前項の指定を行なう場合には,次章以下に定める措置のうち,当該激甚災害に対して適用すべき措置を当該政令で指定しなければならない。」とある。
被害の状況からして,近いうちに,中央防災会議の意見聴取 → 閣議決定 → 政令で激甚災害及び適用措置の指定,ということになると思われる。

気象庁

内閣府 防災情報のページ

内閣府 中央防災会議


「激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律」の関連条文

(趣旨)
第一条  この法律は,災害対策基本法 (昭和三十六年法律第二百二十三号)に規定する著しく激甚である災害が発生した場合における国の地方公共団体に対する特別の財政援助又は被災者に対する特別の助成措置について規定するものとする。

(激甚災害及びこれに対し適用すべき措置の指定)
第二条  国民経済に著しい影響を及ぼし,かつ,当該災害による地方財政の負担を緩和し,又は被災者に対する特別の助成を行なうことが特に必要と認められる災害が発生した場合には,当該災害を激甚災害として政令で指定するものとする。
2  前項の指定を行なう場合には,次章以下に定める措置のうち,当該激甚災害に対して適用すべき措置を当該政令で指定しなければならない。
3  前二項の政令の制定又は改正の立案については,内閣総理大臣は,あらかじめ中央防災会議の意見をきかなければならない。

災害対策基本法の関連条文

(中央防災会議の設置及び所掌事務)
第十一条  内閣府に,中央防災会議を置く。
2  中央防災会議は,次に掲げる事務をつかさどる。
一  防災基本計画を作成し,及びその実施を推進すること。
二  非常災害に際し,緊急措置に関する計画を作成し,及びその実施を推進すること。
三  内閣総理大臣の諮問に応じて防災に関する重要事項を審議すること。
四  前号に規定する重要事項に関し,内閣総理大臣に意見を述べること。
五  内閣府設置法第九条第一項 に規定する特命担当大臣(同項 の規定により命を受けて同法第四条第一項第七号 又は第八号 に掲げる事項に関する事務及びこれに関連する同条第三項 に規定する事務を掌理するものに限る。以下「防災担当大臣」という。)がその掌理する事務について行う諮問に応じて防災に関する重要事項を審議すること。
六  防災担当大臣が命を受けて掌理する事務に係る前号の重要事項に関し,当該防災担当大臣に意見を述べること。
七  前各号に掲げるもののほか,法令の規定によりその権限に属する事務
3  前項第五号の防災担当大臣の諮問に応じて中央防災会議が行う答申は,当該諮問事項に係る事務を掌理する防災担当大臣に対し行うものとし,当該防災担当大臣が置かれていないときは,内閣総理大臣に対し行うものとする。
4  内閣総理大臣は,次に掲げる事項については,中央防災会議に諮問しなければならない。
一  防災の基本方針
二  防災に関する施策の総合調整で重要なもの
三  非常災害に際し一時的に必要とする緊急措置の大綱
四  災害緊急事態の布告
五  その他内閣総理大臣が必要と認める防災に関する重要事項

(中央防災会議の組織)
第十二条  中央防災会議は,会長及び委員をもつて組織する。
2  会長は,内閣総理大臣をもつて充てる。
3  会長は,会務を総理する。
4  会長に事故があるときは,あらかじめその指名する委員がその職務を代理する。
5  委員は,次に掲げる者をもつて充てる。
一  防災担当大臣
二  防災担当大臣以外の国務大臣,指定公共機関の代表者及び学識経験のある者のうちから,内閣総理大臣が任命する者
6  中央防災会議に,専門の事項を調査させるため,専門委員を置くことができる。
7  専門委員は,関係行政機関及び指定公共機関の職員並びに学識経験のある者のうちから,内閣総理大臣が任命する。
8  中央防災会議に,幹事を置き,内閣官房の職員又は指定行政機関の長(国務大臣を除く。)若しくはその職員のうちから,内閣総理大臣が任命する。
9  幹事は,中央防災会議の所掌事務について,会長及び委員を助ける。
10  前各項に定めるもののほか,中央防災会議の組織及び運営に関し必要な事項は,政令で定める。

(関係行政機関等に対する協力要求等)
第十三条  中央防災会議は,その所掌事務に関し,関係行政機関の長及び関係地方行政機関の長,地方公共団体の長その他の執行機関,指定公共機関及び指定地方公共機関並びにその他の関係者に対し,資料の提出,意見の開陳その他必要な協力を求めることができる。
2  中央防災会議は,その所掌事務の遂行について,地方防災会議(都道府県防災会議又は市町村防災会議をいう。以下同じ。)又は地方防災会議の協議会(都道府県防災会議の協議会又は市町村防災会議の協議会をいう。以下同じ。)に対し,必要な勧告をすることができる。

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株主名簿の閲覧・謄写請求の拒否について

2008-06-14 17:22:45 | Weblog
東京高裁,日本ハウズに株主名簿の開示命じる NIKKEI NET

 会社法第125条第3項第3号には,株式会社が株主からの株主名簿閲覧・謄写請求を拒否できる場合として「請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み,又はこれに従事するものであるとき。」とある。
日本ハウズイングと株主名簿閲覧・謄写請求をした原弘産は競争関係にある。日本ハウズイングもこれを主な理由に請求を拒否したが,今般,東京高裁は地裁決定を取り消し,日本ハウズイングに株主名簿の閲覧・謄写を命じる決定をした。

株主名簿の閲覧・謄写請求の拒否に関しては,関俊彦著『会社法概論[全訂版]』P87に次のような記述がある。

 株主および債権者は,株式会社の営業時間内は,いつでも,請求の理由を明らかにして,①書面で作成された株主名簿の閲覧・謄写の請求,②電磁的記録で記録された株主名簿事項を表示したものの閲覧・謄写の請求をすることができる(125条2項)。閲覧・謄写の請求があったとき会社は,所定の拒否事由に該当する場合を除き,これを拒むことができない(同条3項)(注1)(注2)。
 株主名簿の閲覧・謄写を請求するについてはその目的が正当なものであることが必要である(注3)。条文に明記されているわけではないが,権利の濫用は許されないという民法の一般原則(民1条3項)からもこのように解釈することができる(注4)。
 しかし,閲覧・謄写を請求する株主は請求目的を正確に申し立てるとは限らない。そこで目的の正当性をだれが立証ないし疎明するかが問題になるが,請求を拒否する会社側にその不当性を疎明する責任があると解される(注5)。


注書きを覗いてみると,株主が総会で自己の主張に同調してくれる株主を探そうと閲覧・謄写を請求することは肯定される,とある。この記述自体は,競争関係がある場合にまで言及するものではないが,競争関係の一事をもって,いかなる場合も請求を拒否できるとなれば,企業の成長発展という意味ではかえって不都合がありそうだ。
しかし,この件の詳細はわからないが,仮に,会社法第125条第3項第3号に該当 → 請求拒否可,がストレートに出てこないとなると,第3号の存在意義とは・・・。
因みに,「会社法制の現代化に関する要綱」段階では,株主名簿の閲覧請求権については以下のようにあるだけで,競争関係云々の記述はなかった。

(5) 株主名簿の閲覧請求権
株主名簿,社債原簿及び新株予約権原簿の閲覧・謄写請求権については,次に掲げる拒絶事由を定めるものとする。
① 株主の権利の確保又は行使のための請求ではないとき。
② 株主が書類の閲覧・謄写によって知り得た事実を利益を得て他人に通報するために請求をしたとき。
③ 請求の日の前2年内においてその会社又は他の会社の書類の閲覧・謄写によって知り得た事実を利益を得て他人に通報した者が請求をしたとき。


経産省 「企業価値報告書2006~企業社会における公正なルールの定着に向けて~」【報告書】


会社法の関連条文

(株主名簿)
第百二十一条  株式会社は,株主名簿を作成し,これに次に掲げる事項(以下「株主名簿記載事項」という。)を記載し,又は記録しなければならない。
一  株主の氏名又は名称及び住所
二  前号の株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては,株式の種類及び種類ごとの数)
三  第一号の株主が株式を取得した日
四  株式会社が株券発行会社である場合には,第二号の株式(株券が発行されているものに限る。)に係る株券の番号

(株主名簿の備置き及び閲覧等)
第百二十五条  株式会社は,株主名簿をその本店(株主名簿管理人がある場合にあっては,その営業所)に備え置かなければならない。
2  株主及び債権者は,株式会社の営業時間内は,いつでも,次に掲げる請求をすることができる。この場合においては,当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。
一  株主名簿が書面をもって作成されているときは,当該書面の閲覧又は謄写の請求
二  株主名簿が電磁的記録をもって作成されているときは,当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
3  株式会社は,前項の請求があったときは,次のいずれかに該当する場合を除き,これを拒むことができない。
一  当該請求を行う株主又は債権者(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
二  請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ,又は株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
三  請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み,又はこれに従事するものであるとき。
四  請求者が株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき。
五  請求者が,過去二年以内において,株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。
4  株式会社の親会社社員は,その権利を行使するため必要があるときは,裁判所の許可を得て,当該株式会社の株主名簿について第二項各号に掲げる請求をすることができる。この場合においては,当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。
5  前項の親会社社員について第三項各号のいずれかに規定する事由があるときは,裁判所は,前項の許可をすることができない。

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