法律の周辺

核心ではなく, あくまでも物事の周辺を気楽に散策するブログです。

会社法下の清算株式会社の権利能力について

2005-09-27 08:15:05 | Weblog
 25日に弥永会社法を読み終えた。脚注は読み飛ばし,条文も引かず,という具合いなので,読み流したというのが正確か。
誤植も散見されるが,実質的には改訂初版といってよいから,これはやむを得ない。誤植情報については弥永先生のHPで公開されている。ただ,他にもあるように思うが。

 さて,要綱や雑誌の会社法特集号等では分からなかったが,弥永会社法で初めて気付かされた点がある。それは,P472「10-3-3 清算株式会社の能力」の第2段落の記述。以下に引用する。

~~~~(引用開始)~~~~

 他方,平成17年改正前商法の解釈としては,会社の物的・人的拡大をもたらす新株発行や社債発行は現務を結了し,債務を弁済し,残余財産を分配するという清算の目的に合致しないから行えないし,営業をこれから行うことを前提とする行為である支店の新設等も行うことはできないと解するのが通説であったが(全集483),会社法の下では,清算の目的の範囲内である限り,そのような行為も行うことができる(491・482Ⅲ・489Ⅵ・487Ⅱ①参照)。

~~~~(引用おわり)~~~

会社法第476条があるから「清算の目的の範囲内」で絞り込みがかけられるが,現行商法では判例・解釈等に委ねられ,不可能ないし困難とされている部分。明文化されたことの意味は小さくないような気がする。

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万引きなどに対応するための窃盗罪の法定刑に係る改正について

2005-09-25 09:53:43 | Weblog
窃盗罪に罰金刑導入,万引きなどに適用検討…法務省 (読売新聞) - goo ニュース

 書店で「万引きは犯罪です」といった貼り紙を見かけるのは珍しくない。たまに,「万引きを見つけた方には,謝礼を差し上げます」といった貼り紙も見かける。後者はいき過ぎかとも思っていたが,万引きによる被害は書店に限っても年間200億円とも言われる。これは,確かに深刻。

 必罰主義が良いとは思わないが,被害額の相対的軽微,検察官の起訴裁量(起訴便宜主義)との関係で,処罰の間隙が恒常的に生じているとすれば,やはり問題。そう言えば,万引きで店を潰した云々の発言でタレント活動を自粛した女性アイドルがいた。モラルの崩壊は心配である。「万引きは民事の問題」で済まされない状況にきているのかもしれない。

刑法の関連条文

(窃盗)
第二百三十五条  他人の財物を窃取した者は,窃盗の罪とし,十年以下の懲役に処する。

刑事訴訟法の関連条文

第二百四十七条  公訴は,検察官がこれを行う。

第二百四十八条  犯人の性格,年齢及び境遇,犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは,公訴を提起しないことができる。

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横手平鹿合併協議会の公平委員会設置について

2005-09-24 07:00:22 | Weblog
公平委員会の設置など承認/横手平鹿合併協最終会合 さきがけonTheWeb

 来月1日,横手,平鹿,雄物川,大森,大雄,山内,十文字,増田の8市町村が合併して,新「横手市」が誕生する。新「横手市」は,人口約10万9000人,面積693.5平方キロメートル。
横手平鹿合併協議会については,増田町が昨年12月に合併協をいったん離脱。本年3月に復帰していた。

 公平委員会は,職員の勤務条件に関する措置の要求及び職員に対する不利益処分を審査し,並びにこれについて必要な措置を講ずることを職務とする。人事委員会と異なり,職員の競争試験・選考の実施,職員の研修その他の人事行政全般についての調査・企画・立案等の権限はない(地方自治法第202条の2参照)。

 そう言えば,増田町が合併協に参加した際,他の7市町村に対し,同町のパート以外の臨時職員を新市の正職員として引き継いでもらうよう打診したところ,a 正職員並みの待遇,b 長期雇用,は聞いたことがないとして受け入れられなかったことがあった。このあたりも公平委員会の設置と関係がある,と見るのは穿ち過ぎか。

 それにしても,記事の「同委員会は新市職員の公正な人事権の行使を保障するために設置される。」は分かりにくい表現。

地方自治法の関連条文

第二百二条の二  人事委員会は,別に法律の定めるところにより,人事行政に関する調査,研究,企画,立案,勧告等を行い,職員の競争試験及び選考を実施し,並びに職員の勤務条件に関する措置の要求及び職員に対する不利益処分を審査し,並びにこれについて必要な措置を講ずる。
2  公平委員会は,別に法律の定めるところにより,職員の勤務条件に関する措置の要求及び職員に対する不利益処分を審査し,並びにこれについて必要な措置を講ずる。
(第3項~第5項は省略)

地方公務員法の関連条文

(人事委員会又は公平委員会の設置)
第七条  都道府県及び地方自治法 (昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項 の指定都市は,条例で人事委員会を置くものとする。
2  前項の指定都市以外の市で人口(官報で公示された最近の国勢調査又はこれに準ずる人口調査の結果による人口をいう。以下同じ。)十五万以上のもの及び特別区は,条例で人事委員会又は公平委員会を置くものとする。
3  人口十五万未満の市,町,村及び地方公共団体の組合は,条例で公平委員会を置くものとする。
4  公平委員会を置く地方公共団体は,議会の議決を経て定める規約により,公平委員会を置く他の地方公共団体と共同して公平委員会を置き,又は他の地方公共団体の人事委員会に委託して第八条第二項に規定する公平委員会の事務を処理させることができる。

(人事委員会又は公平委員会の権限)
第八条  (第1項は省略)
2  公平委員会は,次に掲げる事務を処理する。
一  職員の給与,勤務時間その他の勤務条件に関する措置の要求を審査し,判定し,及び必要な措置を執ること。
二  職員に対する不利益な処分についての不服申立てに対する裁決又は決定をすること。
三  前二号に掲げるものを除くほか,職員の苦情を処理すること。
四  前三号に掲げるものを除くほか,法律に基づきその権限に属せしめられた事務
3  人事委員会は,第一項第一号,第二号,第六号,第八号及び第十二号に掲げる事務で人事委員会規則で定めるものを当該地方公共団体の他の機関又は人事委員会の事務局長に委任することができる。
4  人事委員会又は公平委員会は,第一項第十一号又は第二項第三号に掲げる事務を委員又は事務局長に委任することができる。
5  人事委員会又は公平委員会は,法律又は条例に基づきその権限に属せしめられた事務に関し,人事委員会規則又は公平委員会規則を制定することができる。
6  人事委員会又は公平委員会は,法律又は条例に基くその権限の行使に関し必要があるときは,証人を喚問し,又は書類若しくはその写の提出を求めることができる。
7  人事委員会又は公平委員会は,人事行政に関する技術的及び専門的な知識,資料その他の便宜の授受のため,国若しくは他の地方公共団体の機関又は特定地方独立行政法人との間に協定を結ぶことができる。
8  第一項第九号及び第十号又は第二項第一号及び第二号の規定により人事委員会又は公平委員会に属せしめられた権限に基く人事委員会又は公平委員会の決定(判定を含む。)及び処分は,人事委員会規則又は公平委員会規則で定める手続により,人事委員会又は公平委員会によつてのみ審査される。

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東京地検に対する検察審査会の勧告について

2005-09-23 10:13:03 | Weblog
「不起訴不当」軽視しないで,検察審査会が異例の注文 YOMIURI ONLINE

 検察審査会制度は,不起訴処分の通知(刑訴法第260条)や準起訴手続(刑訴法第262条)と並んで,検察官の不当な不起訴裁量に対する控制。
2009年5月までには裁判員制度が導入されるが,現在のところ,わが国の刑事司法の中で国民の参加が認められている唯一のもの。

検審の「法律の解釈は一般国民の視点による判断が大切で,検察と同じ視点で犯罪をとらえ,構成要件の当てはめを考える必要は全くない。」には,我が意を汲んでくれない検察に対する苛立ちや開き直りが見てとれる。一方,検察側の「勧告の趣旨が,不起訴不当の事件は東京地検も一般国民の視点で公訴(起訴)権を行使すべきだというものであれば 云々」には,そうそう突っつかれても,という感じが見え隠れする。
因みに,司法制度改革審議会は,意見書の中で,「被疑者に対する適正手続の保障にも留意しつつ,検察審査会の組織,権限,手続のあり方や起訴,訴訟追行の主体等について十分な検討を行った上で,検察審査会の一定の議決に対し法的拘束力を付与する制度を導入すべきである。」としている。

 それにしても,伊藤鉄男・東京地検次席検事の「検審に回答した通り,検察は法と証拠に基づいて捜査している」というのは,木で鼻を括ったような話し。随分とそっけない。
説明責任というと,あぁ,聞き飽きたということになるのかもしれないが,検察は検審の建議・勧告に対し,より丁寧に対応していく必要があるように思う。お互い異なる地点に立っていることを前提に,意見を述べ合うというのが,検察審査会制度の妙味というか,狙いでもあるわけだから。

検察審査会法の関連条文

第一条  公訴権の実行に関し民意を反映せしめてその適正を図るため,政令で定める地方裁判所及び地方裁判所支部の所在地に検察審査会を置く。但し,検察審査会の数は,二百を下つてはならず,且つ,各地方裁判所の管轄区域内に少くともその一を置かなければならない。
2  検察審査会の名称及び管轄区域は,政令でこれを定める。

第二条  検察審査会は,左の事項を掌る。
一  検察官の公訴を提起しない処分の当否の審査に関する事項
二  検察事務の改善に関する建議又は勧告に関する事項
2  検察審査会は,告訴若しくは告発をした者,請求を待つて受理すべき事件についての請求をした者又は犯罪により害を被つた者(犯罪により害を被つた者が死亡した場合においては,その配偶者,直系の親族又は兄弟姉妹)の申立てがあるときは,前項第一号の審査を行わなければならない。
3  検察審査会は,その過半数による議決があるときは,自ら知り得た資料に基き職権で第一項第一号の審査を行うことができる。

第三十八条  検察審査会は,相当と認める者の出頭を求め,法律その他の事項に関し専門的助言を徴することができる。

第四十一条  検事正は,前条の規定により議決書謄本の送付があつた場合において,その議決を参考にし,公訴を提起すべきものと思料するときは,起訴の手続をしなければならない。

第四十二条  検察審査会は,いつでも,検察事務の改善に関し,検事正に建議又は勧告をすることができる。

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カード被害救済法の施行に係る約款の改定について

2005-09-22 21:04:50 | Weblog
 全銀協の前田会長が,20日の記者会見で,カード被害救済法(偽造・盗難カード被害補償法)(正式名「偽造カード等及び盗難カード等を用いて行われる不正な機械式預貯金払戻し等からの預貯金者の保護等に関する法律」)の施行にともなう約款の改定等について発言されている。要旨は,以下のとおり。

・偽造・盗難カードの補償の減額等について
 被害を少なくすることが先ずは重要。ICカード化,限度額の引下げ等対応しているが,今後もこの努力を継続していく必要がある。この法律は議員立法だが,議員の方々のご理解をいただいて約款を準備し,実施に移したい。

・補償を減額する場合の条件について
 補償は,最終的には,個別の話になる。一般論で申しあげるのは難しい。最も大切なのは,被害者の方の気持ちと銀行の対応にあまりギャップが出ないようにすること。専門窓口を作るなど,対応中である。

・約款の改定,ひな型の改定の進捗状況について
 約款の改定は,ほぼ完了。全銀協としては整斉と準備をしてきたが,この法律は議員立法なので,関係の方々に十分説明し,実施に移したい。

 被害者の方の気持ちと銀行の対応にあまりギャップが出ないようにすることが大切と言われながら,繰り返されるのは「議員の方々の理解」。違和感を覚えるのは私だけ?

全国銀行協会web site 前田会長記者会見(H17.9.20)

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個人情報保護にともなう住民基本台帳の原則非公開について

2005-09-22 08:21:31 | Weblog
住民基本台帳,原則非公開に・総務省検討会が報告書案 NIKKEI NET

 住民基本台帳の閲覧を請求する場合は,理由を具体的に明らかにすることとされている。
「具体的に」は,どの部分をどのような目的に利用するかが明らかになる程度の記載がある,ということ(昭和61.2.4自治振第12号通知)。
また,請求事由の真実性について疑義を生じさせるような事情があるときは,請求者に口頭で質問し,関係文書の提示を求める等の適宜の方法で確認することが適当,ともされている(同通知)。残念ながら,このような対策も,不正利用防止には十分ではなかった。
それにしても,「氏名・生年月日・性別・住所の4項目は基本的に閲覧可」には,今更ながら,唖然とせざるを得ない。「行政や本人・家族などの閲覧以外は,公益目的の利用に限定」との方針のようだが,「公益目的」の線引きを明確にしなければ,ザル法になってしまう。10月下旬の報告書は要注目,である。

住民基本台帳法の関連条文

(住民基本台帳の一部の写しの閲覧)
第十一条  何人でも,市町村長に対し,当該市町村が備える住民基本台帳のうち第七条第一号から第三号まで及び第七号に掲げる事項(同号に掲げる事項については,住所とする。以下この項において同じ。)に係る部分の写し(第六条第三項の規定により磁気ディスクをもつて住民票を調製することにより住民基本台帳を作成している市町村にあつては,当該住民基本台帳に記録されている事項のうち第七条第一号から第三号まで及び第七号に掲げる事項を記載した書類。以下この条及び第五十条において「住民基本台帳の一部の写し」という。)の閲覧を請求することができる。
2  前項の請求は,請求事由その他総務省令で定める事項を明らかにしてしなければならない。ただし,総務省令で定める場合には,この限りでない。
3  市町村長は,第一項の請求が不当な目的によることが明らかなとき又は住民基本台帳の一部の写しの閲覧により知り得た事項を不当な目的に使用されるおそれがあることその他の当該請求を拒むに足りる相当な理由があると認めるときは,当該請求を拒むことができる。

(住民票の写し等の交付)
第十二条  住民基本台帳に記録されている者は,その者が記録されている住民基本台帳を備える市町村の市町村長に対し,自己又は自己と同一の世帯に属する者に係る住民票の写し(第六条第三項の規定により磁気ディスクをもつて住民票を調製している市町村にあつては,当該住民票に記録されている事項を記載した書類。以下同じ。)又は住民票に記載をした事項に関する証明書(以下「住民票記載事項証明書」という。)の交付を請求することができる。
2  何人でも,市町村長に対し,自己又は自己と同一の世帯に属する者以外の者であつて当該市町村が備える住民基本台帳に記録されているものに係る住民票の写しで第七条第十三号に掲げる事項の記載を省略したもの又は住民票記載事項証明書で同条第一号から第十二号まで及び第十四号に掲げる事項に関するものの交付を請求することができる。
3  前二項の請求は,請求事由その他総務省令で定める事項を明らかにしてしなければならない。ただし,総務省令で定める場合には,この限りでない。
4  市町村長は,特別の請求がない限り,第一項の住民票の写しの交付の請求があつたときは第七条第四号,第五号及び第九号から第十四号までに掲げる事項の全部又は一部の記載を省略した写しを,第二項の住民票の写しの交付の請求があつたときは同条第四号,第五号,第九号から第十二号まで及び第十四号に掲げる事項の全部又は一部の記載を省略した写しを交付することができる。
5  市町村長は,第一項又は第二項の請求が不当な目的によることが明らかなときは,これを拒むことができる。
6  第一項又は第二項の請求をしようとする者は,郵便その他の総務省令で定める方法により,これらの規定に規定する住民票の写し又は住民票記載事項証明書の送付を求めることができる

第五十条  偽りその他不正の手段により,第十一条第一項の規定による住民基本台帳の一部の写しの閲覧をし,第十二条第一項若しくは第二項の住民票の写し若しくは住民票記載事項証明書の交付を受け,第十二条の二第一項の住民票の写しの交付を受け,第二十条第一項の戸籍の附票の写しの交付を受け,又は第三十条の三十七第二項の規定による開示を受けた者は,十万円以下の過料に処する。

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相続により移転した譲渡制限株式に対する売渡請求について

2005-09-21 15:58:49 | Weblog
 会社法では,譲渡制限株式が一般承継によって移転した場合(会社法第134条第4号)であっても,会社が当該株式を会社に売り渡すよう株主に対し請求することができる旨定款に定めることが可能となった(会社法第174条)。
定款でその旨を定めた会社は,売渡請求をする場合,株主総会で売渡請求をする株式数等を決定することになる(会社法第175条,同第309条第2項第3号)。

 本制度の創設は,通常,一般承継による株式の移転であっても,会社にとって好ましくない者が株主になるおそれがあることは特定承継の場合と異なることはないから,といった説明がされている。要綱では,一般承継を「承認の対象とする」とされていたが,相続等が従前の法律関係を包括的に承継する制度であることなどからすれば,法的構成として相同居しうるか,やはり疑問である。

 会社の売渡請求の行使期限だが,会社法第176条第1項但書は,「ただし,当該株式会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときは,この限りでない。」と規定している。
売渡請求制度を,好ましくない者が株主になることを「未然に防止する措置」である点にスポットをあてて考えれば,「相続その他の一般承継があったことを知った」は,相続に関して言うなら,株主の死亡という相続開始の原因事実を知ったことと解して問題はなさそうである。
これに対して,「相続その他の一般承継があったことを知った」は,単に相続開始の原因事実を知っただけでなく,相続放棄・遺産分割協議等により,株式の帰属が具体的に確定したことを知ったことまでを指すという考え方もありうるような気がする。遺産分割協議等が早期におこなわれるのは一般論としては好ましいが,相続人にはそれが強制されているわけではない。相続が開始して1年以内に遺産分割協議等がおこなわれていない場合は,株主は未だ確定しておらず,会社にとって好ましくない者かの判断は困難とも言える。それにもかかわらず,相続開始から1年が経過したから売渡請求はもはや行使できない,というのでは制度そのものが機能しないことになる。
相続放棄の期間制限に係る民法第915条第1項の規定ぶり(「相続の開始があったことを知った」)との比較は,この考え方に有利といえる。
前説から後説に対しては,a 行使期間の長期化は法律関係を不安定にする,b 会社にとって好ましくない者に取得されてからでは手遅れ,といった批判が考えられる。後説からは,行使期間を制限的に解した場合,売渡請求が濫用的に行使される可能性が高まり,弊害が大きくなる,といった反論が考えられる。前説からは,そもそも売渡請求は謙抑的行使を予定した制度ではない,といった再反論もありうる。後説も,異説とばかりは言えないように思うが,どうだろうか。

 さて,話しは少し変わるが,相続による共有株式の権利行使については,会社法でも,現行の商法第203条第2項と同様,権利行使者指定制度が設けられている(会社法第106条)。
もっとも,会社法第106条には,新たに,「ただし,株式会社が当該権利を行使することに同意した場合はこの限りでない。」という但書が加わった。
これは,権利行使者指定制度が会社の事務処理の便宜のために設けられた制度であることを裏から確認したに過ぎないのだろうか,それとも,法定相続分等に応じた議決権の個別行使を会社側が認めることも許容するものなのだろうか?
後者の場合は,結果的に,株式の当然分割を認めるに等しい。はたして,そこまで含意するのかどうか。この点は,なお,はっきりしないところではある。
因みに,最判平成11年12月14日は,「(前略)権利行使者の指定及び会社に対する通知を欠くときには,共有者全員が議決権を行使する場合を除き,会社の側から議決権の行使を認めることは許されないと解するのが相当である。」としていた。

 権利行使者の指定は相続分の過半数で決することになるが,最判昭和53年4月14日は,議決権の行使方法につき,「共有者間で総会における個々の決議事項について逐一合意を要するとの取決めがなされ,ある事項について共有者の間に意見の相違があっても,被選定者は,自己の判断に基づき議決権を行使しうると解すべきである。」としていた。共有者の総意を要求する決議によって代表権を制限しても,その違反は議決権行使の瑕疵にはならないということなのだろう。内部問題は,善管注意義務違反ないし不法行為に基づく損害賠償の問題として解決することになりそうだ。

 以上,一般承継に係る売渡請求制度について概観した。
「会社にとって好ましくない」「株主利益の毀損につながる」は,多義的であるだけに曲者だ。この売渡請求も,相続人間の内紛→株式会社の基本的意思決定に支障→当該共同相続人らは会社にとって好ましくない(株主利益の毀損につながる)→売渡請求可,といった形で,安易に,あるいは,株主排除の方便として濫用的に,利用されるおそれも否定しきれない。注意が必要のように思われる。

法務省 会社法制の現代化に関する要綱試案の補足説明

経済産業省 「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」の公表について・企業価値研究会「企業価値報告書」の公表について 報道発表

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買受可能価額について

2005-09-21 07:49:35 | Weblog
不動産競売が減少傾向/県内,信用保証協会「安すぎて二の足」 - さきがけonTheWeb

県内の商業地地価,7・5%ダウン/7月現在,下落幅は縮小傾向 - さきがけonTheWeb

 本年4月1日から改正民事執行法が施行されている。
基本的な手続きの流れは変わらないが,最低売却価額制度が見直され,新たに売却基準価額・買受可能価額の制度が導入された。
売却基準価額は,以前の最低売却価額と同じ価格水準。買受可能価額は,売却基準価額からその2割を減じた価額。新しい制度では両方の価額が公告され,入札は買受可能価額以上の額で可能となった。

 新制度で入札が行われたのは,経過措置の関係で,施行から2,3カ月経過してから。東京地裁の本庁なども,6月中旬の開札分からだったようだ。
記事の内容は,不動産競売の減少は改正民執法の影響のような書きぶりだが,影響が顕著に現れるのは,これからだろう。秋田県内では,基準地価の下落傾向も続いている様子。8月の金融機関の「地域密着型金融推進計画」の公表で,無担保融資の動きも加速しそうだ。
地価の下落幅は縮小しつつあるようだが,不動産競売の減少,続くのではないだろうか。

民事執行法の関連条文

(売却基準価額の決定等)
第六十条  執行裁判所は,評価人の評価に基づいて,不動産の売却の額の基準となるべき価額(以下「売却基準価額」という。)を定めなければならない。
2  執行裁判所は,必要があると認めるときは,売却基準価額を変更することができる。3  買受けの申出の額は,売却基準価額からその十分の二に相当する額を控除した価額(以下「買受可能価額」という。)以上でなければならない。

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祝 仙北市 誕生

2005-09-20 18:32:51 | Weblog
新市の業務スタート/仙北市,3庁舎で開庁式 - さきがけonTheWeb

 角館町は,本年1月17日に合併協議会を離脱。その後,臨時町議会で合併協廃止案を否決された合併反対派の町長が,民意を問いたいとして,2月21日付けで辞職。3月13日に町長選を実施したところ,合併賛成派の前助役が当選。同月27日に合併協議会へ復帰し,翌28日に合併調印。同月31日,県に合併を申請した。合併特例債の発行が認められる現行特例法下の県内最後の申請であった。
感情的なしこりも心配されるが,「雨降って地固まる」の諺もある。仙北市の誕生を祝福し,あわせて,今後の発展をお祈りしたい。

なお,仙北市議会の議員定数は24人だが,来年4月30日までの在任特例で,暫定の議員数は55人とのこと。

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個人情報保護にともなう戸籍の原則非公開について

2005-09-20 13:30:36 | Weblog
戸籍、原則非公開へ法改正=個人情報保護で-法務省 (時事通信) - goo ニュース

 「原則:公開」から「原則:非公開」への大転換。これに,a 不正取得を防ぐための身元確認の義務付け,b 不正取得者に対する過料の引き上げ(5万円→10万円),等が加わる。

 個人情報保護関係5法案は,平成15年5月23日可決成立,同月30日公布。同年12月に施行令等の政令を制定。平成16年4月「個人情報の保護に関する基本方針」を閣議決定。その後,関係省庁において,所管分野ごとにガイドラインが整備されてきた。「(戸籍法改正は)個人情報保護法が全面施行されたことを踏まえた措置」はもっともだが,そもそも,整備法で手当てをしておくべきではなかったのか。

 会社法と並んで個人情報保護法関連の書籍が書店で平積みになっているが,これなどは,今年に入ってからの現象のような気がする。具体的な条文はともかく,法内容の周知という点で,はたして十分だったのかどうか。悪人に法を説いても仕方がない,と言えばそれまでだが。
しかし,そうであれば,なおさら,戸籍法の改正はもっと前にしておくべきだったのでは。この種の漏れ,他にもあるような気がする。

戸籍法の関連条文

第十条  何人でも,戸籍の謄本若しくは抄本又は戸籍に記載した事項に関する証明書の交付の請求をすることができる。
2  前項の請求は,法務省令で定める場合を除き,その事由を明らかにしてしなければならない。
3  市町村長は,第一項の請求が不当な目的によることが明らかなときは,これを拒むことができる。
4  第一項の請求をしようとする者は,郵便その他の法務省令で定める方法により,同項の謄本,抄本又は証明書の送付を求めることができる。

第十二条の二  除かれた戸籍に記載されている者又はその配偶者,直系尊属若しくは直系卑属は,その除かれた戸籍の謄本若しくは抄本又は除かれた戸籍に記載した事項に関する証明書の交付の請求をすることができる。国又は地方公共団体の職員,弁護士その他法務省令で定める者も,同様である。
2  前項に規定する者以外の者は,相続関係を証明する必要がある場合その他法務省令で定める場合に限り,同項の請求をすることができる。
3  第十条第四項の規定は,第一項の請求をする場合に準用する。

第百十七条の七  戸籍及び除かれた戸籍の副本並びに第四十八条第二項に規定する書類に記録されている保有個人情報(行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十八号)第二条第三項に規定する保有個人情報をいう。)については,同法第四章 の規定は,適用しない。

第百二十一条の二  偽りその他不正の手段により,第十条第一項若しくは第十二条の二第一項の謄本,抄本若しくは証明書の交付を受け,第四十八条第二項(第百十七条において準用する場合を含む。)の規定による閲覧をし,若しくは証明書の交付を受け,又は第百十七条の四第一項の書面の交付を受けた者は,五万円以下の過料に処する。

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