法律の周辺

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株主名簿の閲覧・謄写請求の拒否について

2008-06-14 17:22:45 | Weblog
東京高裁,日本ハウズに株主名簿の開示命じる NIKKEI NET

 会社法第125条第3項第3号には,株式会社が株主からの株主名簿閲覧・謄写請求を拒否できる場合として「請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み,又はこれに従事するものであるとき。」とある。
日本ハウズイングと株主名簿閲覧・謄写請求をした原弘産は競争関係にある。日本ハウズイングもこれを主な理由に請求を拒否したが,今般,東京高裁は地裁決定を取り消し,日本ハウズイングに株主名簿の閲覧・謄写を命じる決定をした。

株主名簿の閲覧・謄写請求の拒否に関しては,関俊彦著『会社法概論[全訂版]』P87に次のような記述がある。

 株主および債権者は,株式会社の営業時間内は,いつでも,請求の理由を明らかにして,①書面で作成された株主名簿の閲覧・謄写の請求,②電磁的記録で記録された株主名簿事項を表示したものの閲覧・謄写の請求をすることができる(125条2項)。閲覧・謄写の請求があったとき会社は,所定の拒否事由に該当する場合を除き,これを拒むことができない(同条3項)(注1)(注2)。
 株主名簿の閲覧・謄写を請求するについてはその目的が正当なものであることが必要である(注3)。条文に明記されているわけではないが,権利の濫用は許されないという民法の一般原則(民1条3項)からもこのように解釈することができる(注4)。
 しかし,閲覧・謄写を請求する株主は請求目的を正確に申し立てるとは限らない。そこで目的の正当性をだれが立証ないし疎明するかが問題になるが,請求を拒否する会社側にその不当性を疎明する責任があると解される(注5)。


注書きを覗いてみると,株主が総会で自己の主張に同調してくれる株主を探そうと閲覧・謄写を請求することは肯定される,とある。この記述自体は,競争関係がある場合にまで言及するものではないが,競争関係の一事をもって,いかなる場合も請求を拒否できるとなれば,企業の成長発展という意味ではかえって不都合がありそうだ。
しかし,この件の詳細はわからないが,仮に,会社法第125条第3項第3号に該当 → 請求拒否可,がストレートに出てこないとなると,第3号の存在意義とは・・・。
因みに,「会社法制の現代化に関する要綱」段階では,株主名簿の閲覧請求権については以下のようにあるだけで,競争関係云々の記述はなかった。

(5) 株主名簿の閲覧請求権
株主名簿,社債原簿及び新株予約権原簿の閲覧・謄写請求権については,次に掲げる拒絶事由を定めるものとする。
① 株主の権利の確保又は行使のための請求ではないとき。
② 株主が書類の閲覧・謄写によって知り得た事実を利益を得て他人に通報するために請求をしたとき。
③ 請求の日の前2年内においてその会社又は他の会社の書類の閲覧・謄写によって知り得た事実を利益を得て他人に通報した者が請求をしたとき。


経産省 「企業価値報告書2006~企業社会における公正なルールの定着に向けて~」【報告書】


会社法の関連条文

(株主名簿)
第百二十一条  株式会社は,株主名簿を作成し,これに次に掲げる事項(以下「株主名簿記載事項」という。)を記載し,又は記録しなければならない。
一  株主の氏名又は名称及び住所
二  前号の株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては,株式の種類及び種類ごとの数)
三  第一号の株主が株式を取得した日
四  株式会社が株券発行会社である場合には,第二号の株式(株券が発行されているものに限る。)に係る株券の番号

(株主名簿の備置き及び閲覧等)
第百二十五条  株式会社は,株主名簿をその本店(株主名簿管理人がある場合にあっては,その営業所)に備え置かなければならない。
2  株主及び債権者は,株式会社の営業時間内は,いつでも,次に掲げる請求をすることができる。この場合においては,当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。
一  株主名簿が書面をもって作成されているときは,当該書面の閲覧又は謄写の請求
二  株主名簿が電磁的記録をもって作成されているときは,当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
3  株式会社は,前項の請求があったときは,次のいずれかに該当する場合を除き,これを拒むことができない。
一  当該請求を行う株主又は債権者(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
二  請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ,又は株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
三  請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み,又はこれに従事するものであるとき。
四  請求者が株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき。
五  請求者が,過去二年以内において,株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。
4  株式会社の親会社社員は,その権利を行使するため必要があるときは,裁判所の許可を得て,当該株式会社の株主名簿について第二項各号に掲げる請求をすることができる。この場合においては,当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。
5  前項の親会社社員について第三項各号のいずれかに規定する事由があるときは,裁判所は,前項の許可をすることができない。

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2 コメント

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Unknown (hanbo)
2008-06-17 08:44:30
 株主名簿の閲覧・謄写請求の拒絶事由については,旬刊商事法務No.1739で,立法担当者により解説がなされている。
曰く,名簿屋による名簿の不正入手による弊害及びプライバシー保護の問題などが指摘されていたことから,会計帳簿の閲覧請求の拒絶事由である旧商法第293条ノ7と同様の事由を株主名簿の閲覧・謄写請求の拒絶事由として規定した,とのこと。
なお,判例として,最判H2.4.17,東京高判S62.11.30などがあるのはご存じのとおり。
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Unknown (hanbo)
2008-06-30 10:06:19
 書店で立ち読みした弥永ほか監修『新会社法実務相談』(商事法務)には,概略,会社法第125条第3項第3号の事由がある場合は,総会議決権の代理行使の勧誘を理由とする株主名簿閲覧・謄写請求であっても,これを拒否できると解される,とあった。
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