法律の周辺

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親子関係不存在確認請求事件で権利濫用の主張を認めた最判について

2006-07-07 19:13:22 | Weblog
血縁関係なく「実子」届け出,「親子」否定の2審破棄・最高裁 NIKKEI NET

 権利濫用の主張が認められる要件は,

1 実の親子と同様の生活の実体があった期間の長さ
2 判決をもって実親子関係の不存在を確定することにより被告及びその関係者の受ける精神的苦痛,経済的不利益
3 原告が実親子関係の不存在確認請求をするに至った経緯及び請求をする動機,目的
4 実親子関係が存在しないことが確定されないとした場合に原告以外に著しい不利益を受ける者の有無

等の諸般の事情を考慮し,実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な結果をもたらすものといえるとき,ということのよう。

 困った時の一般条項,と言われる。権利濫用(民法第1条第3項)も一般条項のひとつ。
この「藁の上からの養子」については,従前,無効な嫡出子出生届を養子縁組届と読み替えて扱えないかという,いわゆる「無効行為の転換理論」として議論されてきたところ。
しかし,この点は,既に,身分行為の厳格な要式性 → 有効な養子縁組届とみなすことは許されない,で決着済みである(最判S25.12.28,同S50.4.8)。

ただ,この原則論を貫く場合,事案によっては不都合が出てくる。そこで,権利濫用論の出番となる。
気になるのは,権利濫用論では,真実の身分関係と戸籍の記載に齟齬が生ずる点。
しかし,この点については,民法自身,嫡出否認権の喪失(民法第776条),嫡出否認の出訴期間の制限(民法第777条),認知に係る一定の制限(民法第782条,第783条,785条)を規定し,そのような事態の生ずることを容認している。真実性が常に他の要請に優先するものではないことを認めているわけだ。

因みに,記事の最判H9.3.11は,第三者による親子関係不存在確認請求事件。このときは,権利濫用にあたらないとされた。
記事には,「1997年の最高裁判決では裁判官の1人が,こうした訴訟のほとんどは相続財産争いなどが背景にあるとして「訴えが認められない場合もあり得る」との補足意見を付けていた。」とある。この補足意見を付けた裁判官とは,可部恒雄判事。
最高裁HPを見ると,可部判事の退官は,H9.3.8。上記最判の3日前。退官前,既に判決内容は確定していたということであろう(なお,民訴規則第157条第2項参照)。
いずれにしても,可部判事が関与した最後の最判かもしれない。風穴があいた。

判例検索システムHP 親子関係不存在確認請求事件(広島)

判例検索システムHP 親子関係不存在確認請求事件(東京)


民法の関連条文

(基本原則)
第一条  私権は,公共の福祉に適合しなければならない。
2  権利の行使及び義務の履行は,信義に従い誠実に行わなければならない。
3  権利の濫用は,これを許さない。

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