一 はじめに
会社法案が,自民、民主、公明、社民などの賛成多数で,一部修正のうえ,5月17日,衆議院を通過,参議院に送付された。今国会で成立する可能性は高いように思われる。
施行は公布日から1年6月を超えない範囲で政令で定める日となっており(会社法案附則1),成立した場合,平成18年4月施行が有力視されている。
二 日本版LLCについて
1 会社法案は会社法制の現代語化と現代化を目的としているが,後者の「最近の社会経済情勢の変化に対応するための各種制度の見直し」の1つとしてあげられるのが,合同会社の創設である(会社法案575)。
この合同会社,アメリカのLLC(Limited Liabilitiy Company)をモデルとしており,日本版LLCとも呼ばれている。その性格を一言で表現するなら「有限責任の人的会社」ということになる。
制度創設の背景には,人的資産が核となる事業,産学連携事業等には,貢献度に応じた利益分配や自由な組織運営が是非とも必要,という事情がある。
2 すなわち,合名会社や合資会社を利用した場合,組織運営の自由度は高いが(商法68,民法670~673),無限責任社員の不可欠性(商法80,146,147)がネックとなる。
他方,株式会社や有限会社では,この点はクリアできるが(商法200,有限会社法17),組織運営が強行法規によって規律されるため,使い勝手の悪さがある(商法260等)。種類株式(商法222)等による修正にも限界があったのである。
そこで,a社員全員の有限責任,b内部自治の徹底,の両方を満足させる会社類型として日本版LLC,すなわち合同会社が創設されることになったわけである(会社法案576,580,590~592)。
3 出資者からすれば,有限責任と内部自治の徹底とくれば,いいこと尽くしということになりそうである。
制度設計としては,組織運営は自由で構わないが,その代わり責任は重い,あるいは逆に,責任は出資の限度で構わないが,その代わり組織運営の規律は厳しくなる,というのが自然の成りゆきだからだ。
しかし,合同会社の場合,社員が全て有限責任であるため,B/S等の作成の義務づけに加え(同617),a資本の額の減少に関する特則(同626,627),b利益の配当に関する特則(同628~631),c出資の払戻しに関する特則(同632~634),d退社に伴う持分の払戻しに関する特則(同635,636),が他の持分会社と異なり設けられている。
責任の度合いと組織運営の自由及びその先にある利益の分配等は,前述のとおり,バーターの関係にある。会社法も,会社に関係する個々の主体間の私的利益の調整を目的とする以上,当然と言えば当然の規律ではある。
三 日本版LLPについて
1 しかし,この日本版LLCとよく似た制度が実は一足先に創設されている。ご存じのとおり,4月27日に成立した「有限責任事業組合契約に関する法律」(以下,有責組合法という)で定める有限責任事業組合がそれである。この法律,この夏にも施行が予定されているようである。
この法律により創設される有限責任事業組合はアメリカのLLCやイギリスのLLP(Limited Liability Partnership)をモデルとしており,日本版LLPとも呼ばれている。
2 有限責任事業組合は,民法の組合の特例として認められるものである。所管の経済産業省のニュースリリースを要約すると,おおよそ次のようになる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アメリカではLLCが,イギリスではLLPが,近年,新たな事業制度として整備・創設され,大きな成果をあげている。これは,LLP等の特徴である,a有限責任制,b内部自治制,c構成員課税,が理由と考えられる。翻ってみるに,わが国には現在のところLLP等にあたるものがない。よって,わが国企業の競争力向上には,民法の組合の特例として,上記の特徴を兼ね備えた事業制度を整備する必要がある。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
3 通常の民法の組合との主な相違点は,a有限責任(有責組合法3,15),b組合契約の要式性(同4),c共同事業性の徹底(同12,13),d意思決定方法の自由(同12),e事業の営利性(同1),f組合員適格の限定(同3),g労務出資の禁止(同11),h設立時の全部出資の必要性(同3),i登記の必要性(同8,57),といったところになる。以上,特例たる所以ということになろう。
構成員課税,利益分配の自由度(有責組合法33,民法674)については,両者は基本的に変わらないと思われる。
4 債権者保護に関する日本版LLCの手当てについては先に述べたが,有限責任事業組合においても,機関運営の規律を云々するのではなく,端的に分配可能額等を制限するといった形で種々手当てがなされている(有責組合法4,31,34~36)。
四 まとめ
1 この日本版LLCと日本版LLP,字づらだけでなく,あげられる特徴もよく似ている。
日本版LLCの根拠法たる会社法案は,法務省所管。日本版LLPの根拠法たる有責組合法は経済産業省所管。
すわ,縦割り行政の弊害か,と思いきや,話はむしろ逆で,法務省による日本版LLCの検討の中で,財務省がLLCの特徴である構成員課税に難色を示したため,急遽,経済産業省が代替的にLLPの検討を始めた,というのが実態のようだ。
構成員課税とは,収益等の帰属が複数の段階を経る場合,最終段階に至るまで課税を控える,いわゆるパス・スルー課税(Taxation on pass-through securities)のことをいう。本家のアメリカのLLCの場合,納税者が法人課税か構成員課税かを選択できる「チェック・ザ・ボックス制」が採用されているという。
LLCが普及している背景には、構成員課税のメリットがある。それが無いとすれば,日本版LLC,法制度としてはともかく,「仏作って魂入れず」の感がないではない。どうだろうか。
2 このように見てくると,LLCとLLPは,出資者全員の有限責任は同じ,内部自治の徹底という点でも重要財産の処分等の留保(有責組合法12条1項但書,同2項,省令)を除けば概ね同じだが,法人格の有無,構成員課税の許容の如何で異なるということになりそうである。
結局,どちらを選択するかは,事業の性質,株式会社への発展の可能性等をも睨みながら判断することになるのであろう。
ただ,法人格と構成員課税を秤にかけるというのは,正直,乱暴な話ではある。
加えて,中長期的には構成員課税が可能なLLCの創設も・・・,という試みもある中での日本版LLPの創設。「構成員課税を選択したいのなら,税制改正を言うより,日本版LLPへどうぞ」といった話にもなりかねない。この点は,日本総研の藤田哲雄氏も指摘しておられる。制度の固定化につながらなければよいのだが。
3 ざっと見ての印象だが,この「日本版」というバイアス,なかなかくせ者である。両制度間の距離,近いようでいて案外遠い,というのが率直な感想だ。
参考 秋田県においても,地域内の新事業・新産業の創出促進をねらいとした支援体制を構築している。これを「地域プラットフォーム」という。
詳細は,財団法人あきた産業振興機構 http://www.bic-akita.or.jp/sangyou/ までお問い合わせを。
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会社法案が,自民、民主、公明、社民などの賛成多数で,一部修正のうえ,5月17日,衆議院を通過,参議院に送付された。今国会で成立する可能性は高いように思われる。
施行は公布日から1年6月を超えない範囲で政令で定める日となっており(会社法案附則1),成立した場合,平成18年4月施行が有力視されている。
二 日本版LLCについて
1 会社法案は会社法制の現代語化と現代化を目的としているが,後者の「最近の社会経済情勢の変化に対応するための各種制度の見直し」の1つとしてあげられるのが,合同会社の創設である(会社法案575)。
この合同会社,アメリカのLLC(Limited Liabilitiy Company)をモデルとしており,日本版LLCとも呼ばれている。その性格を一言で表現するなら「有限責任の人的会社」ということになる。
制度創設の背景には,人的資産が核となる事業,産学連携事業等には,貢献度に応じた利益分配や自由な組織運営が是非とも必要,という事情がある。
2 すなわち,合名会社や合資会社を利用した場合,組織運営の自由度は高いが(商法68,民法670~673),無限責任社員の不可欠性(商法80,146,147)がネックとなる。
他方,株式会社や有限会社では,この点はクリアできるが(商法200,有限会社法17),組織運営が強行法規によって規律されるため,使い勝手の悪さがある(商法260等)。種類株式(商法222)等による修正にも限界があったのである。
そこで,a社員全員の有限責任,b内部自治の徹底,の両方を満足させる会社類型として日本版LLC,すなわち合同会社が創設されることになったわけである(会社法案576,580,590~592)。
3 出資者からすれば,有限責任と内部自治の徹底とくれば,いいこと尽くしということになりそうである。
制度設計としては,組織運営は自由で構わないが,その代わり責任は重い,あるいは逆に,責任は出資の限度で構わないが,その代わり組織運営の規律は厳しくなる,というのが自然の成りゆきだからだ。
しかし,合同会社の場合,社員が全て有限責任であるため,B/S等の作成の義務づけに加え(同617),a資本の額の減少に関する特則(同626,627),b利益の配当に関する特則(同628~631),c出資の払戻しに関する特則(同632~634),d退社に伴う持分の払戻しに関する特則(同635,636),が他の持分会社と異なり設けられている。
責任の度合いと組織運営の自由及びその先にある利益の分配等は,前述のとおり,バーターの関係にある。会社法も,会社に関係する個々の主体間の私的利益の調整を目的とする以上,当然と言えば当然の規律ではある。
三 日本版LLPについて
1 しかし,この日本版LLCとよく似た制度が実は一足先に創設されている。ご存じのとおり,4月27日に成立した「有限責任事業組合契約に関する法律」(以下,有責組合法という)で定める有限責任事業組合がそれである。この法律,この夏にも施行が予定されているようである。
この法律により創設される有限責任事業組合はアメリカのLLCやイギリスのLLP(Limited Liability Partnership)をモデルとしており,日本版LLPとも呼ばれている。
2 有限責任事業組合は,民法の組合の特例として認められるものである。所管の経済産業省のニュースリリースを要約すると,おおよそ次のようになる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アメリカではLLCが,イギリスではLLPが,近年,新たな事業制度として整備・創設され,大きな成果をあげている。これは,LLP等の特徴である,a有限責任制,b内部自治制,c構成員課税,が理由と考えられる。翻ってみるに,わが国には現在のところLLP等にあたるものがない。よって,わが国企業の競争力向上には,民法の組合の特例として,上記の特徴を兼ね備えた事業制度を整備する必要がある。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
3 通常の民法の組合との主な相違点は,a有限責任(有責組合法3,15),b組合契約の要式性(同4),c共同事業性の徹底(同12,13),d意思決定方法の自由(同12),e事業の営利性(同1),f組合員適格の限定(同3),g労務出資の禁止(同11),h設立時の全部出資の必要性(同3),i登記の必要性(同8,57),といったところになる。以上,特例たる所以ということになろう。
構成員課税,利益分配の自由度(有責組合法33,民法674)については,両者は基本的に変わらないと思われる。
4 債権者保護に関する日本版LLCの手当てについては先に述べたが,有限責任事業組合においても,機関運営の規律を云々するのではなく,端的に分配可能額等を制限するといった形で種々手当てがなされている(有責組合法4,31,34~36)。
四 まとめ
1 この日本版LLCと日本版LLP,字づらだけでなく,あげられる特徴もよく似ている。
日本版LLCの根拠法たる会社法案は,法務省所管。日本版LLPの根拠法たる有責組合法は経済産業省所管。
すわ,縦割り行政の弊害か,と思いきや,話はむしろ逆で,法務省による日本版LLCの検討の中で,財務省がLLCの特徴である構成員課税に難色を示したため,急遽,経済産業省が代替的にLLPの検討を始めた,というのが実態のようだ。
構成員課税とは,収益等の帰属が複数の段階を経る場合,最終段階に至るまで課税を控える,いわゆるパス・スルー課税(Taxation on pass-through securities)のことをいう。本家のアメリカのLLCの場合,納税者が法人課税か構成員課税かを選択できる「チェック・ザ・ボックス制」が採用されているという。
LLCが普及している背景には、構成員課税のメリットがある。それが無いとすれば,日本版LLC,法制度としてはともかく,「仏作って魂入れず」の感がないではない。どうだろうか。
2 このように見てくると,LLCとLLPは,出資者全員の有限責任は同じ,内部自治の徹底という点でも重要財産の処分等の留保(有責組合法12条1項但書,同2項,省令)を除けば概ね同じだが,法人格の有無,構成員課税の許容の如何で異なるということになりそうである。
結局,どちらを選択するかは,事業の性質,株式会社への発展の可能性等をも睨みながら判断することになるのであろう。
ただ,法人格と構成員課税を秤にかけるというのは,正直,乱暴な話ではある。
加えて,中長期的には構成員課税が可能なLLCの創設も・・・,という試みもある中での日本版LLPの創設。「構成員課税を選択したいのなら,税制改正を言うより,日本版LLPへどうぞ」といった話にもなりかねない。この点は,日本総研の藤田哲雄氏も指摘しておられる。制度の固定化につながらなければよいのだが。
3 ざっと見ての印象だが,この「日本版」というバイアス,なかなかくせ者である。両制度間の距離,近いようでいて案外遠い,というのが率直な感想だ。
参考 秋田県においても,地域内の新事業・新産業の創出促進をねらいとした支援体制を構築している。これを「地域プラットフォーム」という。
詳細は,財団法人あきた産業振興機構 http://www.bic-akita.or.jp/sangyou/ までお問い合わせを。
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