発表会でモーツァルトのアンダンテを演奏したが、短い曲だが装飾音、トゥリル、スタッカートありで、変化に富んだ曲だ。丁度、宇野功芳著作集3巻を読んでいて、気になった下りがあった。モーツァルトの数少ない短調の曲は名曲といわれているが、宇野さんは、モーツァルトのいいのは長調の曲だといい、次のように言っている。
「だが、モーツァルトの音楽は、表面がどれほど明るく、優しく、幸せいっぱいでも、内部にはぞっとするほどの寂寥の風が吹いている。死の匂いがする。ため息が聞こえる。病的な翳りがある。口元には微笑を湛えていても、眼には涙が光っていることもある。この事実に気がつくと、人はもはやモーツァルトから離れなくなってしまう。モーツァルトと心中したくなる。」
「疾走する悲しみ」といわれるモーツァルトの曲。このアンダンテも、転調するときの流れが、一瞬だが暗くなるところがある。宇野さんの指摘するところが感じられる。
そうしたことを思いながら、アンダンテを吹くと、少しだがモーツァルトに近づけたような気がしてきた。