指田文夫の「さすらい日乗」

さすらいはアントニオーニの映画『さすらい』で、日乗は永井荷風の『断腸亭日乗』です 日本でただ一人の大衆文化評論家です

『暗号名 黒猫を追え!』

2012年10月23日 | 映画

1987年、スパイ防止法制定を目的に作られた井上梅次監督作品で、某宗教団体の資金で作られたとの噂もある。

メジャーでの公開はできず、地方の公民館や集会で上映されたというが、意外にもきちんと作られていて、当初は大手会社での公開を目指していたことがわかる。

警視庁の公安課の刑事柴俊夫らの、B連邦共和国や北方共和国(あきらかにソ連と北朝鮮)のスパイの黒猫との戦いを描くものだが、井上梅次作品なので、城北大学ラクビー部の柴俊夫、国広富之、榎木孝明、高岡健二らが、敵味方に別れて戦う筋書きになっている。これは、井上梅次の監督作品『暗黒街最後の日』で、大学時代の友人だった鶴田浩二と丹波哲郎が暴力団と刑事に別れて対立するのと同じ構成である。

初めは、B連邦共和国のスパイ活動と警視庁公安課の戦いが描かれるが、最後は北朝鮮のスパイが、日本人になりすまして諜報活動を行っていたことに焦点が移る。これは、当時ソ連の崩壊が近づいており、警視庁公安課の捜査対象は北朝鮮に移っていたからだろうか。

そして、このソ連と北朝鮮の二つの国のスパイだったことを、「二重スパイ」と言っているが、これは違うと私は思う。

普通、二重スパイとは、アメリカのスパイが実は、ソ連のスパイを務めていたという敵対国間のスパイ活動を言うものであり、ソ連と北朝鮮のような「友好国」間のスパイ活動は、二重スパイとは言わないはずである。

だが、すぐれたスパイであればあるほど、実は二重スパイ性を持っているものである。

なぜなら、敵から良い情報を得るためには、味方の重要な情報を与えねばならず、客観的に見れば、スパイというものは、双方の情報を交換する役割を担っているのである。ダブル・スパイの典型が、リヒアルト・ゾルゲで、彼はソ連赤軍のスパイだったが、近衛内閣に深く関係していた尾崎秀樹の情報源で、国際情勢について様々な示唆を与えている、一種の情報顧問的存在でもあったのである。

最後、北朝鮮のスパイで、日本人になりすましていた伊吹剛は、高速船で逃走してしまう。

井上作品の常套手段である、中島ゆたかをめぐって、柴俊夫と森次晃嗣が、共に中島が好きだったという兄弟間の三角関係は何故か発展せずに終わる。中島ゆたかは、大柄で大変な美女だが、どこか月丘夢路に似ているのは、やはり井上梅次好みなのだろうか。

主題歌もきちんとあり、伊藤アイ子が歌っている。

彼女はかなり上手かったがルックスが平凡で売れなかったが、その実力を評価し起用した井上梅次はさすが。

阿佐ヶ谷ラピュタ



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