指田文夫の「さすらい日乗」

さすらいはアントニオーニの映画『さすらい』で、日乗は永井荷風の『断腸亭日乗』です 日本でただ一人の大衆文化評論家です

『唐版・風の又三郎』は忘れられない 根津甚八が死んでも

2016年12月30日 | 演劇

根津甚八が死んだが、1974年初夏に江東区夢の島で見た『唐版・風の又三郎』は忘れられない。今まで多くの芝居を見てきたが、この『唐版・風の又三郎』は多分最高の一つである。

地図で見ると、夢の島なので、多分地下鉄から相当の距離を歩き、大橋を渡って現場のテントに行った。

                    

劇は、航空自衛隊のパイロットが戦闘機に乗って逃げた実話と「風の又三郎」を混ぜたもので、主演は根津と李礼仙。

この劇は、大評判で渥美清の他、蜷川幸雄も中野良子を連れて見に来て、皆感激して泣いたという劇だった。

私も同じで、最後いつものように赤テントの一部が開けられて登場人物が外で演技したときの興奮は今もよく憶えている。

まさに怒涛のような感動の渦だった。

この時の音楽のテープは持っていたが、今は娘にあげたので、家にはない。

結局、彼は状況劇場での演技が最高で、テレビではこれまた向田邦子の名作『冬の運動会』だと思う。

これも元高級軍人の志村喬が、若い藤田弓子の家でくつろいでいるのも忘れ難いドラマだった。

彼は、演劇の人間で、その意味では見た人間にしか何も残っていないが、役者は本来それでよいのだと思う。

夫人のインタビューで、部屋にはクレデンサのような立派な蓄音機が見えたが、彼はSPのマニアだったのか、それともウツの辛い時を過ごすのにSPレコードを聴いていたのだろうか。

思えば、まったく同年で、心からのご冥福をお祈りしたい。


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