指田文夫の「さすらい日乗」

さすらいはアントニオーニの映画『さすらい』で、日乗は永井荷風の『断腸亭日乗』です 日本でただ一人の大衆文化評論家です

『黒い潮』

2018年11月24日 | 映画

1949年に起こった下山事件を描いた作品で、原作は井上靖、脚本菊島隆三、監督は山村聡、1954年に製作再開した日活で最初にヒットした作品である。

見るのは多分3度目だが、非常によくできているのに感心し、ラスト近く、津島恵子が、福岡に左遷される山村に対して「私を連れて行ってください」と言うところでは初めて感動した。

国鉄総裁だった下山氏、ここでは秋山総裁、が行方不明になり、国鉄の亀有・綾瀬間の鉄道線路の上で轢断死体で発見される。

これは、他殺なのか自殺なのかは、新聞社でも見解が分かれ、中で唯一毎日新聞が自殺説を取り、その中心人物の山村を描くが、周囲の人間が素晴らしい。滝澤修、東野英次郎、千田是也、青山杉作などだが、自殺説に懐疑的な重役の一人として石黒達也も出ている。最初から自殺説の叩き上げの刑事が石山健二郎で、この人もいい役者だったなと思う。平の記者としては、信欣三、芦田伸介、下元勉らの民芸の俳優も出ているが、出ていないのは宇野重吉くらいだろう。

                    

山村の演出は、さすがに元新劇(文化座)出なので、実に淡々として行くが、最後で一気に盛り上げている。

「ついに死んだぞ」という台詞があり、なんだと思うと六代目尾上菊五郎の死で、「これで歌舞伎も終わりだな」と言う。だが、現実はまったく逆で、今や瀕死なのは、歌舞伎ではなく新劇の方であるとは非常な皮肉。

女子事務員の左幸子の他、「こども」とよばれる少年の使い走りがいて、定時制高校生だと思うが、つい最近までこうした非正規労働者を新聞社をはじめ多くの大企業でも使っていたことが分かる。

この事件はノイローゼによる自殺だと私は思うが、当時は国鉄総裁のような社会的に地位の高い人が自殺するとは思われいなかったので、他殺説が有力になったのだと思う。

松本清張は、『日本の黒い霧』では、米軍関係者による他殺説を取り、それに準拠した熊井啓の映画『謀殺・下山事件』もあるが、本当に困ったものである。

国立映画アーカイブ



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