NHKBSで放送している『昭和演劇大全集』は、NHKが持っている演劇のビデオを放送するものだが、渡辺保さんと高泉淳子の解説がとても面白い。
先週は、新派の名作『佃の渡し』
『佃の渡し』を私が見たのは、昭和52年3月の新橋演舞場公演で、主演は水谷良重(現二代目八重子)だった。
劇の構成の面白さ、巧みさに驚いた。
北条秀司は、新派、新国劇、新歌舞伎等に多数の芝居を書いた。
歌謡曲にもなった『王将』のように新国劇にも名作は多いが、世界としては新派のものが一番合っていたように私は思う。
それは、渡辺保さんが言うように、新派には花柳章太郎、水谷八重子ら主役級の名優の他、大矢市次郎、石井寛、英太郎、伊井友三郎ら脇役にまで名優が沢山いたからである。
ビデオの昭和33年明治座での『佃の渡し』の公演を見ても、ほとんどガヤのような佃島の住民役の者が、それぞれ歩き方を変えて歩いてているのが見え、この辺などはさすがと感心した。
『佃の渡し』は、北条秀司が花柳章太郎に当てて書いた作品で、主人公の花柳が二役をやることが前提になっている。
佃島に生まれたが、赤坂の料理屋にもらわれた真面目で堅実な姉と、島一番の網元の息子と恋仲になり、男が起した金の問題で罪を犯し島に戻ってくる妹。
主に、この幼児のように純粋で、男に惚れっぽく、また野性的な妹の可愛さ、愚かさが描かれる。
花柳の相手役の網元の息子を花柳章太郎の息子武始が演じるのだから、すごい。
実の父親と息子が恋人同士を演じるわけだ。
花柳武始は、花柳の妾だった芸者の子である。
本妻との間の子が花柳喜章で、溝口健二の『山椒太夫』等の映画にも出ているが、言ってみれば大根役者で、役者としては花柳武始の方が上だった。
歌舞伎では、先代の中村雁治郎と扇雀の親子が、近松の芝居で何度も恋人同士を演じている。
これは、他のジャンルではあり得ない企画だが、芝居ではまったく変ではなく、それをきちんと見せるのは、芸の力という他はない。
二役なので、早替りもあり、そこも見せ場になっている。
久しぶりに会った花柳に向かって、恋人武始が家のこまごまとした事情を話すと、花柳が頓珍漢な返事をする。
「何んだ、今の話を聞いていなかったのかっ・・・」
「私、あんたの顔ばかり見ていたのですもの」
名台詞。
北条秀司は、商業演劇界で「天皇」とか「法王」とか呼ばれ、悪名ばかりが残っているが、名作家・演出家だったと思う。
今夜は、菊田一夫の『花咲く港』だが、数年前の新国立劇場での公演で、私も見た。
戦時中のこの戯曲は、菊田一夫が浅草の軽演劇から有楽町の大劇場に移ったきっかけとなった芝居であり、映画監督木下恵介の監督デビュー作でもある。
先週は、新派の名作『佃の渡し』
『佃の渡し』を私が見たのは、昭和52年3月の新橋演舞場公演で、主演は水谷良重(現二代目八重子)だった。
劇の構成の面白さ、巧みさに驚いた。
北条秀司は、新派、新国劇、新歌舞伎等に多数の芝居を書いた。
歌謡曲にもなった『王将』のように新国劇にも名作は多いが、世界としては新派のものが一番合っていたように私は思う。
それは、渡辺保さんが言うように、新派には花柳章太郎、水谷八重子ら主役級の名優の他、大矢市次郎、石井寛、英太郎、伊井友三郎ら脇役にまで名優が沢山いたからである。
ビデオの昭和33年明治座での『佃の渡し』の公演を見ても、ほとんどガヤのような佃島の住民役の者が、それぞれ歩き方を変えて歩いてているのが見え、この辺などはさすがと感心した。
『佃の渡し』は、北条秀司が花柳章太郎に当てて書いた作品で、主人公の花柳が二役をやることが前提になっている。
佃島に生まれたが、赤坂の料理屋にもらわれた真面目で堅実な姉と、島一番の網元の息子と恋仲になり、男が起した金の問題で罪を犯し島に戻ってくる妹。
主に、この幼児のように純粋で、男に惚れっぽく、また野性的な妹の可愛さ、愚かさが描かれる。
花柳の相手役の網元の息子を花柳章太郎の息子武始が演じるのだから、すごい。
実の父親と息子が恋人同士を演じるわけだ。
花柳武始は、花柳の妾だった芸者の子である。
本妻との間の子が花柳喜章で、溝口健二の『山椒太夫』等の映画にも出ているが、言ってみれば大根役者で、役者としては花柳武始の方が上だった。
歌舞伎では、先代の中村雁治郎と扇雀の親子が、近松の芝居で何度も恋人同士を演じている。
これは、他のジャンルではあり得ない企画だが、芝居ではまったく変ではなく、それをきちんと見せるのは、芸の力という他はない。
二役なので、早替りもあり、そこも見せ場になっている。
久しぶりに会った花柳に向かって、恋人武始が家のこまごまとした事情を話すと、花柳が頓珍漢な返事をする。
「何んだ、今の話を聞いていなかったのかっ・・・」
「私、あんたの顔ばかり見ていたのですもの」
名台詞。
北条秀司は、商業演劇界で「天皇」とか「法王」とか呼ばれ、悪名ばかりが残っているが、名作家・演出家だったと思う。
今夜は、菊田一夫の『花咲く港』だが、数年前の新国立劇場での公演で、私も見た。
戦時中のこの戯曲は、菊田一夫が浅草の軽演劇から有楽町の大劇場に移ったきっかけとなった芝居であり、映画監督木下恵介の監督デビュー作でもある。
花柳については、私も実際に芝居を見たことはありません。テレビで水谷八重子とやった『鶴八鶴次郎』を見たのは憶えています。
以前、BSで花柳特集があり、この中では『太夫さん』も傑作だったと思います。当時、京塚昌子は花柳の愛人だったはずだ。
花柳の晩年については、女優樋田慶子の『つまらぬ男と結婚するより一流の男の妾におなり』、なんともすごい題名ですが、彼の生活を描いていて大変面白いので、是非お読みください。
花柳章太郎の亡くなったときは小学生でしたが、「華やかな女形が、正月公演が開いてまもなく、舞台で倒れて(正確には舞台終了後)雪の日に大輪の花を散らせた・・・」というニュアンスの報道がされていたことは、なぜかよく覚えています。ただし実際の舞台を見たことないままに、「新派は古くさいもの」という先入観をもったまま今日に至りましたので、放送をみてほんとうにびっくりしました。女形というものをあらためて考えさせてくれました。
「佃の渡し」同様に、他の作品もじっくりと、当時の舞台中継が放送されることを望んで止みません。
ところで私は、十数年前に指田さんと1度だけお目にかかり「南インドの影絵芝居」およびその日本公演のお話をさせていただいた者です。むろんお忘れかと思いますが、今回花柳章太郎がらみで、このブログに出会って、一方的に懐かしい思いをいだいております。
私は、いつも録画して翌日に見ています。
今夜も、新国立での『花咲く港』は見ているので、特に興味はないが、菊田一夫については、渡辺保さんは東宝演劇部で直接の上司だったので、どんな話になるかとても期待しています。