指田文夫の「さすらい日乗」

さすらいはアントニオーニの映画『さすらい』で、日乗は永井荷風の『断腸亭日乗』です 日本でただ一人の大衆文化評論家です

『日露戦争秘話・敵中横断300里』

2005年09月26日 | 映画
黒澤明の脚本を二度監督したのが、大映の森一生で、その1本がこれ。もう1本は時代劇、荒木又右衛門の『決闘・鍵屋の辻』
黒澤の脚本を映画化した人は多く(その最低は、小泉何とかの『雨上がる』と熊井啓の『海は見ていた』だろう)、谷口千吉が3回映画化しているが、友人だったからだろう。森は、大映京都の監督で、会社が違うのに2回も映画化しているのは、黒澤も認めていた証拠。

戦前に軍記物で大人気だった山中峰太郎の日露戦争を舞台にした小説。
菅原謙二が満州(中国東北部)の奥地に潜入し、ロシア軍が奉天に結集していることを調べ、日本の奉天会戦の勝利に貢献する。
この映画が作られた昭和33年頃は、奉天会戦を皆良く知っていたらしく、地理関係の説明がないので、私たちには少々分りにくい。
さすがの森なので、「血わき、肉踊る」娯楽作品にしている。
新東宝の『明治天皇と日露大戦争』の大ヒットに刺激された作品だろうが、渡辺邦夫の浪花節調ではなく、淡々と丁寧に描いている。
北海道で撮られたらしいが、セットがすごい。日本映画全盛時代である。

音楽が大映には珍しく鈴木静一。黒澤の『姿三四郎』など、戦前は東宝で、戦後は東映京都でマキノ雅弘の時代劇映画が多かった人であり、抒情的な旋律に特徴がある。