猫じじいのブログ

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佐伯啓思にならって、新型コロナを突き放して論ずる

2020-03-31 20:56:53 | 新型コロナウイルス
 
保守の論客、佐伯啓思が、今日の新型コロナ騒ぎを「少し突き放して」みると、「見事に現代文明の脆弱(ぜいじゃく)さをあらわにして」いると、3月31日の朝日新聞に書いていた。
 
彼の言うとおり、たいしたことのない「病原体」に「日本中がパニック」になっているかもしれない。
彼の言うとおり、「現代文明のなかで、われわれの生がいかに死と隣り合わせであり、いかに脆いものか」であるかもしれない。
 
しかし、ここで、彼の言うことを「突き放して」、すなわち、少しも共感をもたずに論評してみよう。
 
ヒトは、「現代文明」や「グローバリズム」と関係なく、常に「死と隣り合わせ」である。ヒトは遅かれ早かれ死ぬのである。すなわち、「現代文明」が特に悪いというわけではない。
 
同じく、彼の言う現代文明の三つの柱、「グローバル資本主義」、「デモクラシーの政治制度」、「情報技術の展開」が特に悪いわけでない。そればかりか、私は、昔よりマシであると思っている。
 
文明は、ヒト自身ではなく、ヒトが生みだした社会環境、いってみれば、防御膜(シールド)のようなものである。その膜の内側にいるヒトは、それぞれ、1つの受精卵から生まれてきて、社会で育てられる。ヒトは、昔と変わらず、イノセントに生まれ、賢くなることもあり、愚かしくなることもある。
 
「日本中がパニック」になるとは、日本という容器にはいっている、ヒトビトが全国的に愚かしい行動をしたということであろう。もちろん、日本の全員が愚かしい行動をしたのでない。
 
それでは、佐伯は、どうしろと言いたいのか。
 
佐伯がその朝日新聞で「感染爆発状態に至る前に強力な対策を取る」と言っているところをみると、プラトンと同じく「知的エリートによる支配」を夢みているのではないか。
 
私は、アンゲラ・メルケル首相と同じく、真実を国民に告げ、真実に耐える国民を育てる政治が良いと思っている。
 
もちろん、何が真実かは自明ではない。したがって、多様な意見が吹き出る。そこで、議論がおきれば、暫定的な「真実」の共有が形成されるであろう。
テレビの報道番組で多様な意見が吹き出たのは健康なことである。問題は、議論にならないことである。
 
例を1つあげよう。
新型コロナの検査数が、世界と比較し、日本だけが極端に少ない。安倍晋三が検査に別に反対しているわけではない。集団感染を防ぐという疫学の立場からは、検査を積極的にやった方が良い。
 
しかし、検査を実質的に抑えているヒトが、日本の上層部にいるのだ。なぜ、抑えるのか、それを主張するヒトが議論の場に出てこない。これでは困る。日本の「デモクラシーの政治制度」のレベルが低いのだ。
 
現代において、「日本人」というものは幻想である。日本国という容器の中にたまたま入れられたというだけである。日本人であること、日本国に住むことを選んだわけではない。だから、ヒトはそれぞれ利害が違う。自分の損得で動いていることを明らかし、調整するのが政治である。
 
新型コロナの検査を拒むのは、日本医師会の主流派が患者を引き受けたくないからでないか。私の耳には地方の開業医からその声が届く。お金でその問題が解決するなら、お金で解決するしかない。
 
医師が検体をとるのが怖いなら、血液検査と同じく、民間検査会社の技師が検体をとればよい。開業医が自分のクリニックで検体をとるとお客が来なくなるというなら、韓国や欧米のように、行政が設けた公共の場(ドライブスルー、ウォークスルーなど)で検体をとればよい。
 
ヒトが本音を言うからこそ、利害の調整をすすめ、とりあえずの妥協点が生まれる。これがデモクラシーの原則である。「国益」などとインチキなことを言ってはならない。日本の政治家はうそつきだ。
 
メルケル首相が、「集団免疫も治療薬もないとき、国民の3分の2が感染しないと流行がおさまらない」と3月11日にドイツ国民に告げたのは、正しい政治決断だと思う。それ以降、欧米各国のヒトビトは、今回の感染が大規模になることを理解したように見える。
感染者数が10倍、100倍、千倍、1万倍になるか、収束が1ヵ月になるか、10ヵ月になるか、8年になるか、80年になるかのどちらかを選択するしかないとメルケルは言っている。そして、できるだけ長引かせる策をドイツ政府はとると言う。
 
小池百合子は、「ナイトクラブやバーで多くの人が新型コロナに感染しているから、そんなところに行かないで下さい」と3月30日に言った。どこで感染したかわからないケースは、人に言いにくいところに行っているからであり、クラスター対策班はよくそれを突き詰めたと思う。
 
小池のストレートな言い方を支持するが、記者質問で、夜の接待飲食業者に新型コロナ補償をするという答えには、反対である。ホステスを抱えた接待飲食業は社会に不要である。彼らは仕事を変えるべきで、こういう業種はつぶれた方が良い。補償するな。暴力団にお金が流れるだけだ。
 
さて、佐伯は「未知のウイルス」というが、別に「未知」ではない。
 
分子生物学の進歩のおかげで、すぐに、中国の研究者が、新型コロナウイルスの本体、RNAの一本鎖の約3万の塩基の配列を決定し、昨年末、発表した。世界中の研究者が、ことしの1月に、それを確認している。塩基配列がわかったということは、世界中どこでも検査できるということである。市販されている機器PCRで増幅し、機器シーケンサーで塩基配列を決定すれば、確定検査ができる。しかも、RNAが変異を起こしやすいので、変異をたどることで感染経路の特定にも利用できる。
 
また、中国の研究者が疫学的情報を英語の論文の形で発表しており、世界中で共有されてきた。だから、メディアの記者もその論文を読むことができる。そうすれば、新型コロナ対策専門家会議への質問のレベルも高まったと思う。
 
私は、分子生物学の基礎は知的なヒトたちの間では常識になっているのかと思っていたが、そうではないようだ。
 
佐伯は、新型コロナがなんでもない普通の感染症で、「致死率は、通常のインフルエンザより多少高いもの」「感染力は多少高い」「感染者の8割は軽症で治癒」と言っている。
しかし、木村太郎が言っているように、それでも大量にヒトは死ぬのである。防げるなら防ぐのが、常識的判断である。
 
また、本当は、厚労省の「軽症」という言い方はおかしいので、高熱で非常に苦しくのたうち回る状態を含んでいるのだ。残りの2割は、重症で人工呼吸器をつけた感染者を言う。現状では、そのまま、人工心肺をつけるようになり、それでも、現在のところ、半数が回復したとの報告しかない。残りは助からないのである。
 
インフルエンザには、毎年1000万人が感染している、と厚労省は推定している。診断を受け確定した死者の数は、多くの年は1000人以下である。しかし、推定関連死者数は1万人という。したがって致死率は0.1 以下、0.01ぐらいである。治療薬があるからだ。
 
新型コロナのばあい、クルーズ船のケースでは、感染者712人で死者7人である。これをもって、日本の医療関係者は新型コロナの致死率を1%という。これを、1000万人に適用すれば、10万人が死ぬわけである。そして、国民の60%が感染するとすれば、80万人が死ぬわけである。
 
致死率1%は、通常のインフルエンザより十分高い。通常のインフルエンザと違い、現状では、治療薬がなく、患者自身の生命力によって生きのびるしかないのである。
 
3月30日の時点で、日本国内での致死率は3%で、アメリカが2%弱、韓国が1.5%、ドイツが0.7%である。イタリアの致死率は11%、スペインの致死率は8%、オランダは7%、フランスが6%である。致死率の違いは医療体制が機能しているかどうかを表わしている。
 
新型コロナが収束するのは、ドイツのロバート・コッホ研究所の所長が言う国民の3分の2に達するのは、ずいぶん先なのである。現状では、どの国も感染者数は、国民の1%に至っていないのである。イタリアでも国民の0.16%である。日本は国民の0.015%である。インフルエンザでも、毎年、国民の10%は感染するのである。
 
そういう意味では、まだ、パニック(あわてふためくこと)になる事態ではない。
 
「非常事態宣言」とか「外出自粛」とか言う前に、もっと本当のことをしらないといけない。「気やすみ」や「まやかし」ではなく、科学的な判断で政策をだすべきではないか。検査薬は色々な会社から販売されている。日本がそれを買って使わない理由がない。小池のように、感染の巣に行ってはならないと、本当のことを言うべきだ。
 
治療薬もこの1年内にでてくるだろう。病原体が同定されており、培養もできるからである。
 
佐伯の「突き放した」議論は、知的エリートは偉いんだという傲慢さにすぎず、私はヒトという生物種の愚かしさを彼自身が表わしているにすぎないと思う。
 
[追記]
ウイキペディアによると、2009年の新型インフルエンザのときも、今回と同じく、「厚生労働省は、重症化や死亡した例などを除いて、新型インフルエンザかどうかを調べるPCR(遺伝子)検査を当分の間行わなくてよいとしたため、現在なお、2009年の国内の正確な感染者数は不明である」。
ワクチンについては外国の医薬品メーカと購買契約を結んだため、想定したらより早く終息したので、違約金を払うなど、政府が損したと国会で答弁している。
安全のため、違約金が出ても、仕方がない。そんなことで国会が責めるとは情けない。責めるべきは、厚労省がPCR検査をせず、感染の実態を把握しなかったことである。
 
[追記]
本文のクルーズ船の感染者数、死亡者数はWHOの最新の発表数だが、その数は日本政府のずいぶん前の報告をそのまま載せているだけである。
4月1日の朝日新聞には、感染者数は723人、死亡者数は11人になっている。朝日新聞のほうが実態を反映しているとすると、クルーズ船の致死率は1.5%となる。
 
[追記]
噂では、あす4月2日に緊急事態宣言をするという。メディアでは、宣言をする要件ばかりが議論されているが、何をするために、緊急事態を宣言するかの議論がなされていない。日本医師会は、病院に患者が押しかけないよう、病人を自宅に閉じ込めたいために、緊急事態宣言を要請しているのではないか。
 
[追記]
きのうの新型コロナウイルス感染症の政府専門家会議後の記者会見で、尾身副座長が「医療崩壊とよばれる現象はオーバーシュート(爆発的な患者急増)が起こる前に起きる」と言った。とても不思議な発言に聞こえる。
妻の友達で、家族に医師がいる人たちのあいだで、政府や自治体の要請で新型コロナの診療にあたることを「赤紙」と言っている。これは、医師のかなりの部分が、診療の協力をいやがっていることをほのめかしている。
人間だから、自分が損をすることをやりたくないのだろう。何か折り合いをつける妥協点はないのか。
感染症病院の医師や一部のこころざしの高い医師だけに頼っていては、オーバーシュートの前に医療崩壊が起こりざるをえないだろう。


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