今回はちょっと変則的です(ときどきやってますけど)。前回のコメント欄にて頂いた御質問に、私が馬鹿は馬鹿なりに考えて何事かをお答えできれば、というものです。素人によるものですから(しかも出鱈目を謳っている)あまり期待してはいけません(笑)。
頂いた御質問は下記の通りです。
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中共内部の暗闘? (wnm)
2005-09-06 00:59:59
こんばんは。断片的な情報しか入ってこないので、最初は胡耀邦復権をダミーに掲げた長老層の復権運動かと私も思っていました。それと、もう一つ気になったのが、抗日戦争の死者数のボディーカウント論争でこれまで公式に認められていた数字が誇張(そりゃ、そうでしょうね)を含んでいたという主張が国内の新聞、新京報に現れた点です。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050831-00000173-kyodo-int(※1)
でも、ご指摘のように、江沢民が2番目の序列で登場したと言うことは、こうした一連の動き(なんでしょうか)が江沢民の上海閥に打撃になっていないことなのでしょうか。或いは、逆に対抗手段として、江沢民側がそのような序列を要求したのか、私に見られる情報からではこれ以上何とも言えないですね。ただ、抗日戦の死者の数を水増ししたという報道は明らかに江沢民時代に取られた様々な反日運動へのアンチに、結果としてなっていることは確実でしょう。ご高見を伺いたいです。
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まず胡耀邦再評価、正確には生誕90周年記念活動の動きから。
いきなり言葉尻をとるようで申し訳ないのですが、これについて私は「長老層の復権運動」という側面がどれだけあるのかは疑問だと思います。私が考えるに、胡耀邦評価は第一に共青団人脈による示威活動のようなものであり、第二により重要な点としてこの記念活動によってかつて胡錦涛の有力な支持母体であった党長老たちとの関係修復を図り、権力闘争上の戦力強化を目指しているのではないかと思います。
あと、清廉なイメージが胡耀邦にはありましたから、胡耀邦を持ち上げることで党幹部による汚職蔓延という現実を批判し、風紀粛正を求めるという意味合いも多少はあるかも知れません。その点では共青団人脈を際立たせつつ、現在行われている「共産党員の先進性保持活動」をやるような、一石二鳥のような面、これはあるかも知れません。
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ちなみに、胡錦涛がかつての胡耀邦人気にすがるもの、という側面はないと思います。仮にそういう側面があったとしても効果は薄いでしょう。香港紙『明報』(2005/09/04)は「自由派学者」の支持を得るためという一面もある……と書いていましたが、そういう知識人の支持が高まっても権力闘争における戦力アップにつながるとは思えません。
胡耀邦人気というのも国民の世代交代で昔の話になりつつあるように思います。胡耀邦に対し直接ないしは間接的に有り難さを感じているのは文革(文化大革命)を経験したり、文革で貼られたレッテルを剥がしてもらい名誉回復を受けた世代。これを中核に、下限はせいぜい1989年の天安門事件(六四事件)を経験した30代後半~40代まででしょう。
学校教育の場で文革がどのようにどれだけ教えられているのかわかりませんが、現在の若い世代にとって胡耀邦という名前は馴染みが薄いかと思います。という訳で、この面での効果を狙うとすれば利用価値には疑問符がつきます。
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前回書きましたように、「自由派知識人」とは端的にいえば天安門事件の名誉回復を求めるような知識人ということになるでしょう。しかし『香港文匯報』(2005/09/05)によると、
「天安門事件に対する政治的評価が翻ることはない」
とわざわざ書いてありますので、胡耀邦再評価が「自由派知識人」を喜ばせるような内容にはならないと思います。
●『香港文匯報』(2005/09/05)
http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0509050003&cat=002CH
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この『香港文匯報』の報道はなかなか興味深い内容です。湖南省にある胡耀邦の旧宅はシロアリに喰われてかなり痛んでいたのを、一般市民も見学できるよう、4月11日から地元政府が40万元余りを投入してメンテナンスを行っているということです。要するにこの時期にはすでに「生誕90周年記念活動」が準備されていたのでしょう。もちろん政争の具として使うことを想定した上でのことだと思います。
11月20日の生誕90周年当日は記念活動を全国ネットの中央電視台(テレビ局)が放送する予定とされています。面白いのは、記事がここでロイター電を引用し、
「胡錦涛はこの活動を党中央主催にするものと定めた」
「当日は胡錦涛を頭とする中共中央政治局のメンバーのうち、一部がこの活動に出席する」
としていることです。全員ではなく「一部」なんですね。お偉方もなにかと忙しいのでしょうが、格でいえば公務の二の次にされてしまうイベントでしかないようです。むろんこれは記念活動に対する党上層部の足並みが揃っていない、記念活動を行うことに消極的な政治勢力があることを示唆するものです。
それにしても11月20日という胡耀邦の誕生日、胡錦涛派からしたら「もう少し早ければいいのに……」というところではないでしょうか。
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御質問の二点目、いわゆる抗日戦争における死傷者数などに対して、一部で水増しが行われていることを批判する学者の声が北京紙『新京報』に出たことについて。
原文にあたるとわかるのですが、この学者・王錦思氏は「中国抗日戦争史学会会員」という肩書です。良心的なその道の専門家が、史実を無視した「水増し」がまかり通っている現状を見るに忍びなく、とうとう声を上げたという印象です。しかし結果的には反日で盛り上がろうとする向きに水をぶっかける、立派な政治活動となっています。
●『新京報』(2005/08/31)
http://www.thebeijingnews.com/news/2005/0831/11@015116.html
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この記事を胡錦涛派が繰り出したジャブとするのであれば、かつて当ブログで紹介した虚実定かならぬ日本人駐在員による中国人女性殴打事件(「斜陽の広東王国に村民のハンストに上海の情報戦」2005/09/01)と対をなすもののように思えます。上海の事件(反日を煽る内容の記事に対し公安当局が虚報認定)はアンチ胡錦涛派が仕掛けたか、その末端の血気にはやった連中が親分の思惑を超えて仕掛けてしまったか、でしょう。
いずれにせよ、この『新京報』の歴史学者の記事と上海の反日煽動記事はどちらも9月3日の「抗日何たら記念活動」を大々的に報じるマスコミの勢いではるか彼方に押し流されてしまったような観があり、情報戦とすれば狙った効果を上げていません。
ただ上海の反日煽動記事は「鉄砲玉」のようなものですが、『新京報』の記事は歴史学者に政治勢力の「後台」(後ろ盾)がなければ恐ろしく勇気のある発言だと思います。学者生命を絶たれるリスクが伴いますから。
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被害者水増し批判は、「歴史は歴史として扱うべきだ」(政治の道具ではなく)という歴史学者としての良心の発露かも知れませんし、文化大革命のような風潮に流れることへ警鐘を鳴らすものとみることもできます。
また「大きいことはいいことだ=効率無視で規模優先=GDP成長率信仰」という現状を批判した胡錦涛の「科学的発展観」にも沿う内容で、極めて真っ当なものです。ただそれで済ますことのできる内容かどうかは、この記事に対する批判が出るかどうかによります。共同通信では、
「誇張の例として、遼寧省瀋陽の博物館が中国戦線で200万人の日本兵が死亡したとしているが実際は45万人だったことなどを挙げた。中国の軍人の死傷者数についても『一致した定説はない』と言い切った」
という部分を実例として引いているのですが、実は原文にはそのすぐ後に最も重要な部分があります。
「中国戦線で死亡した日本軍は200万人ではなく、45万人前後で、第二次大戦における日本軍の総死者数の20%前後だ。抗戦による中国側の死者は3500万人ではなく2200万人前後で、ソ連(の死者数)より2700万人も少ない」
という一節、共同通信がこれをスルーしたのは行数制限のためかどうかはわかりませんが、「2200万人」とは江沢民が言い出した「3500万人」という定説(笑)に異を唱えるものです。9月3日の「抗日何たら記念活動」における胡錦涛演説でも「3500万人」を踏襲しています(ただし『新京報』の記事は「死者3500万人」、胡錦涛演説では「死傷者3500万人」)。
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言うなれば中共政権の定説に真っ向から反論するものですが、これによって史学界に論争が起こり、それが注目を集めることで、行き過ぎた「反日」が相対的にトーンダウンするとすれば胡錦涛側の思惑通りの展開、になると思います。
風当たりが強すぎると胡錦涛は平気で切り捨てることもあるでしょうから、記事を書いた王錦思さん、血祭りに上げられなければいいのですが(笑)。ただ私たちは、この「2200万人説」にしても水増しされていないという保証はないことを忘れてはいけないと思います。
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最後に江沢民の序列2位の件、こういう内情については私たち部外者には何もわからず、結局は憶測するしかありません。ただ前回と少し違うことを書きますと、「序列2位=甲斐性なしの証」なのかも知れません。
私は以前から「江沢民=甲斐性なし」としてきました。昨年9月の四中全会で軍権を握るポスト・党中央軍事委員会主席から引退し、それを胡錦涛が継承する際、制服組を別とすれば、江沢民は腹心の部下(例えば曽慶紅)を同委に滑り込ませることすらできなかったのが好例です。
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で、「序列2位=やっぱり甲斐性なし」というのは、小粒ゆえに序列に頼らなければならないという意味です。神様や皇帝のような「誰もが認める絶対的な存在」ではなく、「序列2位」という相対的なモノサシを用いないと出て来られない。
トウ小平であれば序列は無用、ただの党中央委員となっても自他ともに認める最高指導者だったでしょう?江沢民は小粒ゆえにその真似ができないから、「序列」というものにすがるしかないのかな、という感想を持ちました。
ただし、現役の指導者も江沢民同様、小粒なんですね。だから「序列」に関して綱引きが行われて、江沢民をナンバー2に置くことを許してしまった。この点、胡錦涛派の勢力は今年3月の全人代(全国人民代表大会)時点よりもかなり衰退した、あるいは頽勢に立たされている、といった印象が強いです。
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以上、「wnm」さん、ショボい回答でお役に立てず、本当に申し訳ありません。
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【※1】URLが長かったのでヤフーに出た同じ内容のものに改めました。
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【追記】書き漏らしましたが『新京報』の抗戦死者数の件、エントリーで引用した部分で「中国戦線で死亡した日本軍は200万人ではなく、45万人前後で、第二次大戦における日本軍の総死者数の20%前後だ」というのも尋常ではありませんね。要するにいま党中央が連呼している「対日戦争の主役は中国」「対日戦争において中国は中心的役割を果たした」とかいう話を、「20%前後」という数字でバッサリ斬って否定していると読むこともできます。少なくとも『新京報』のこの記事に反感を持った向きはそう感じることでしょう。(2005/09/08/15:42)
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んでも、結局2200万人かー、50歩100歩だな。
恐怖主義有望全球統一定義 中国反恐重在"東突"
http://legal.people.com.cn/GB/42735/3670595.html
"東突"10年制造260多起恐怖事件致160余人死亡
http://politics.people.com.cn/GB/1026/3670597.html
こういう記事を見るに付け、本当に中共はキモイなぁーと思う。
社会不安を全部独立派の所為にする気かな?
どこまで増えるんでしょうかね。誰か突っ込めよ。
それにしても「水増し」が好きな国ですね。「豚肉」から「死亡者」まで。秤にせよ統計にせよ、「僅供参考」でしかないお国です。
>確か中国側の死者は今年、夢の5000万人越えを果たしたと思います。
留学先の学校の教師は6000万と言ってました。
この記事を中国BLOG記事アーカイブプロジェクトに推薦しておきました。
http://www.chinawalkers.net/weblog+details.blog_id+61.htm
韓国はとりあえずナンチャッテ民主主義かつナンチャッテ法治主義ですから、訴訟という手続を踏みますが、支那の場合は即粛正では?w
日中戦争の死者がそこに含まれるのかどうかは私にはわかりませんが、それにしても中国だけでそんなに死んでるわけがないですよね。
http://news.goo.ne.jp/news/kyodo/kokusai/20050908/20050908a3040.html
ロシア×1中国×8だそうです。
まぁ人海戦術が伝統の両国ですから想定の範囲内なのかもしれませんが。
なんでも先の湾岸戦争でイラクの主力戦車がすがすが
しいぐらいにアメリカに歯が立たなくて一方的にやられたので中国のお偉方が『人海戦術はもう駄目アル』と言う方針になったらしいですよ。
だから今は一生懸命近代化に勤めてる最中です。
そんなわけもあって欧州に武器を売ってくれ売ってくれって頼んでるんですね、まぁ素敵反日行動のおかげで『中国はやっぱり民主主義じゃないやばい国』と言うのが白日の下に去らされておじゃんになったり成らなかったり。
↓参考:軍事に詳しいJFS氏のサイト
http://obiekt.seesaa.net/article/5387177.html
http://column.chbox.jp/home/kiri/archives/blog/main/2005/09/09_230101.html
について、何かコメントしていただけると嬉しいなぁ~
香港の方ではどう見てるんだろう?
MURAJIと申します。
このHPはいつも楽しみに見させて頂いております。
一応軍事まにあな私の目から見ますと、中国大陸での日本人の死者45万人というのは妥当では無いかと思います。
終戦直前のソ連軍侵攻とかでも10万単位の死者が出てますし。
あと、防衛庁が編纂した公刊戦史「北支の治安戦」1~2とかを読むと、日本軍はゲリラ戦を行う中共軍に一回もまともな勝利をしてないです
完全にベトナム戦争か今のイラク戦争のおうな感じで、日本軍はひたすら翻弄されているだけですし。
そして、その絶え間なく続くゲリラ戦で、日本兵の軍規も崩壊して、ベトナムとかイラクで米軍がやったような不祥事を起こしまくるという感じで。
実言うと太平洋戦争は、アメリカとかイギリスを相手に戦ったものと思われがちですけど、予算とか人員面で言うと、昭和20年に本土決戦準備に入るまで日本軍が軍事予算の大部分を投入しているのは中国戦線です。
どれくらいの予算が投入されていたかというと、太平洋戦争中に日本軍が新規建造できた大型空母は5隻ですが、中国戦線に投入されていた予算を使えば100隻の大型空母を建造できたくらいです。
正直、「対日戦争の主役は中国」「対日戦争において中国は中心的役割を果たした」という言葉は間違いではありません。
ただ、彼らの言っていることの問題は自分たちの誇大な大本営的発表だけして、他の国の資料とか取り上げもしないこともしないことかと。
先ほどの防衛庁の公刊戦史とかは、日本軍の立場からの発表以外に、中共側の戦果の大きすぎる発表とかもきちんと載せて、客観性を計ろうとしてますが、中共側の資料には、そんなのが全く無いですから。
日本は中国に関り過ぎたよね、勝手に中国人同士殺し合いさせとけば良かったよね。
>どれくらいの予算が投入されていたかというと、太平洋戦争中に日本軍が新規建造できた大型空母は5隻ですが、中国戦線に投入されていた予算を使えば100隻の大型空母を建造できたくらいです。
これ本当? 建造だけでなく運用も?
いくらなんでも100隻はなくね?
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