日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 中国政治の春の風物詩たる全人代(全国人民代表大会=立法機関)が昨日(3月5日)、とうとう開幕してしまいました。orz

「開幕してしまいました。orz」

 なのは前回書いたように記事分量が大幅に増えるからです。特に初日は温家宝首相による「政府活動報告」(これは原案で全人代期間中に出た意見をもとに多少修正される)が発表され、その関連記事もドバッと出てきます。

 私は仁義を切る意味で、全人代ならこの「政府活動報告」、党の「×中全会」なら「公報」(コミュニケ)にはどんなに長文でも必ず目を通すようにしていますけど、とにかく記事が多くて、例によって午前1時にスタートした記事漁りが拾うべき記事を拾い終えたら朝になっていました。

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 時間がかかったのはちょっと疲れていたせいもあるかも知れません。私はふだん完全夜型生活ですが、昨日は半ば撤宵(徹昼)という形で睡眠不足のまま午後から恩師と都心で待ち合わせて、一夕を共にしました。

 当然ながら中国の話も出ました。恩師は漢族ではないので、恩師の知人である台湾の作家・柏楊氏の名作『醜い中国人』を引きつつ「中国人というものについて」といったような茫漠たる話題にも及びましたけど、生臭い話も出ました。

 もっとも恩師は血筋ゆえに文化大革命で叩かれたのと、半ば政治亡命のような形で日本留学を果たしてそのまま居残った経歴があるので、政治と関わりたくないという気持ちもあって現在の政情には疎く、教え子である私の方が「講義」する形になりました(笑)。

 その代わり、恩師は政治から距離を置いていても絶妙な立ち位置にいるので、趙紫陽の娘の話から武大偉や王毅まで私の知らない話をたくさん聞かせてもらうことができました。……ていうか毎日のように互いに電話し合っているのですから、そういう話はもっと早くしてくれればいいのに。

「なーんだ御家人君、あなた何も知らないじゃないですか」

 と笑われてしまいましたけど、そういうことまで私が知っていたら権威筋・消息筋情報がどんどん入ってきますし、恩師の顔でいくらでも取材が利きますから、香港のACG業界関連の仕事なんて放り出して(副業のコラムは続けますけど)さっさと中国畑に転職しています(笑)。……まあ冗談ですけど。

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 そのあと温家宝の「政府活動報告」に接したので、何というか陶然たる気分で読んでしまいました。自画自賛と反省と大方針に沿った今年の目標と課題が並んでいましたけど、そういう難しいことは私にはわかりません。読後感は、

「ああやっぱり中国は『人大杉』だなあ。それから一党独裁がなあ」

 というものでした(人大杉=人多過ぎ)。

 ●全人代開幕、温家宝が「政府活動報告」を発表(新浪網 2007/03/05/12:02)
 http://news.sina.com.cn/c/2007-03-05/120212433735.shtml
 http://news.sina.com.cn/c/2007-03-05/120212433736.shtml
 http://news.sina.com.cn/c/2007-03-05/120212433738.shtml
 http://news.sina.com.cn/c/2007-03-05/120212433739.shtml

 ただでさえ「人大杉」なのに、成長率至上主義で効率は無視して開発開発と驀進する(無駄なビルや道路を造ってもGDPは増える訳ですから)粗放な江沢民路線と「搾取当然」の歪んだ経済成長モデル。出稼ぎ農民や開発のために耕地から引き剥がされた失地農民だけでなく、環境汚染への対応の甘さも「搾取」に数えていいでしょう。

 これを5年もやってしまえば、その後を引き継いだ温家宝はこういう「政府活動報告」を書くしか他に道がないでしょう。猿にでも書けます。ところで「粗放な経済成長方式」という言葉は「政府活動報告」にも出てきますが、これは江沢民路線への密かなダメ出しでもあります。

 さらに強調される中央によるマクロコントロールの強化、これは「中央vs地方」という経済発展に関する対立の構図を端的に示したものですけど、地方は地方で地域エゴに走っているという面だけでなく、地元住民を食わせてやらなければならない、という逼迫した事情があります。

 「成長率より効率を重視」という胡錦涛の提唱する科学的発展観は正しいといえるものの、地方にとってはそれをやったら失業者がわらわらと湧いて出るかも知れないので、はいわかりましたとすぐシフトチェンジする訳にもいかないのです。

 効率重視で畑にトラクターを導入したら人があぶれてしまった。その余剰労働力にどうやって再就職先を手当てするかという責任は地方当局に負わされます。「人大杉」なのです。失業者が増えて社会状況が悪化し、都市暴動などが起きてしまえばクビを飛ばされるのも地元当局。

 ちなみに「政府活動報告」の示した今年の数値目標のうち、登記失業率は昨年の目標値と同じ4.6%。これは現状(4.1%か4.2%。忘れました)を上回っているので失業問題に対しては前途の厳しさを覚悟している、といえるかも知れません。

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 そのほか教育の整備や民生の充実、農村へのテコ入れといった点も「人大杉」と無縁ではありません。あれほど広大な国土を有し、総人口は13億人以上。ただしその全てを満たし得るほどの経済的資源がなく、市場制度で合理的な分配を目指そうとしても所詮は一党独裁ですから公平・平等な競争環境なんてものは存在しようもなく、党幹部のさじ加減で無理が通ります。

 さらには、その少ない資源をテコにした利権をめぐり、汚職がまかり通ります。教育・民生・農村への投資増加も新しい利権を生み、汚職を生むことになるでしょう。その汚職を取り締まるのも、一党独裁制ですから国家機関ではなく党中央紀律検査委員会。

 一党独裁といえば、新華社電などでは党の会議ではない「兩會」(全人代&全国政協)での胡錦涛の肩書きは、

「中共中央総書記、国家主席、中央軍事委主席」

 と党中央での肩書きが最初に来ます。全人代のトップである呉邦国も、

「中共中央政治局常務委員、全人代常務委員会委員長」

 ですし、全国政協の主席である賈慶林も、

「中共中央政治局常務委員、全国政協主席」

 さらに曽慶紅も、

「中共中央政治局常務委員、国家副主席」

 の肩書きで全人代の分科会に顔を出しています。ことごとく中国共産党での肩書きが優先されています。政府(国務院)や全人代や全国政協なんてものは党の威光に比べればそれほど無力だということの表れでしょう。

 なるほど全人代が「ゴム印」(ハンコ押すだけ機関)と呼ばれる訳です。党の肩書きが前に来なかったのは、国務院総理(首相)が「政府活動報告」を担当するのが慣例となっている温家宝くらいのものです。

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 まあこの教育や民生の充実、農村へのテコ入れに加え、環境保護や中央による統制強化、つまり胡錦涛カラーが前年より強く打ち出されているのが今年の「政府活動報告」の特徴です。目指すはもちろん調和のとれた「和諧社会」。格差がそれほど深刻になっているということです。沿海部と内陸部の格差、都市と農村の格差、貧富の格差、業種間格差など、挙げていけばキリがありません。

 まあ中央による統制強化を呼号してみても、それが実際に行われるかどうかは毎年のことながら疑問です。……という趣旨の記事を、「政府活動報告」が出たその日に新華社が配信しています。

 ●ニュース分析:中国経済の実質成長率は今年も目標値の8%を超えるだろうか?(新華網 2007/03/05/20:26)
 http://news.xinhuanet.com/misc/2007-03/05/content_5804532.htm

 そりゃ疑問を呈したくもなります。この記事によれば、2003年と2004年に全人代で掲げられた経済成長率目標はともに「7%前後」、2005年と2006年はいずれも「8%前後」なのですが、実績ベースは10.0%(2003年)、10.1%(2004年)、10.4%(2005年)、10.7%(2006年)と、毎年これを大きく上回っています。

 温家宝が「中央によるマクロコントロールの強化」を強調しているように、中央が各地方政府という「諸侯」の手綱をしっかりとさばけていない、あるいは中央の威令が及んでいない現状が浮き彫りにされています。

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 民生の充実といえばまず社会保障制度、特に医療面ということになるのですが、衛生部の高強・部長は「政府活動報告」が発表される前日の3月4日に、

「現時点で全国民を健康保険でカバーするなんて無理」

 と、早くも泣き言。衛生部新聞弁公室も、

「改革案のタイムテーブルだってまだ全然ないし」

 ……と調子を合わせています。

 ●「新華網」(2007/03/04/13:06)
 http://news.xinhuanet.com/misc/2007-03/04/content_5798596.htm

 農村へのテコ入れである「社会主義新農村建設」にしても、その農村である末端レベルでは

「別荘を建てればいいんだ」
「要するに都市化だろ都市化」

 という風潮に流れている農村が少なくなく、

「新農村、新農村、道路整備と不動産開発に青信号」
(かなり字余り)

 という言われ方をしている、このままではマズイ、ということが実態調査を行った全国政協委員の口から報告されています。この流れだと正に新たな利権、新たな汚職を呼ぶことになるでしょう。……そうそう、上に挙げた様々な「格差」の中に、「官と民の格差」を加えるのを忘れていました。

 ●「新華網」(2007/03/05)
 http://news.xinhuanet.com/misc/2007-03/05/content_5802393.htm

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 まあ全人代というのは中国肺炎(SARS)の流行を隠匿(2003年)するほどおめでたい政治的イベント、いわゆる縁起モノではありますけど、成長率にせよ新農村建設にせよこうもシニカルな反応が当日に返ってくるのですから(社会保障問題に至っては前日に泣き言)、ある種の危機感は共有されているのでしょう。

 でもその危機感、つまり「公」を顧みずについ私利追求に走ってしまうところが、中国3000年の伝統なんですよねえ(笑)。めでたしめでたし。




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