日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 本業・副業が多忙を極めていますので今回は手短に横着にいきます。

 以前当ブログでも紹介した「『江沢民文選』学習活動」、これは省トップ・閣僚レベルの主要指導幹部を対象とした特別講座なのですが、2月7日に終了したようです。

 ●署名論文に思う:政治改革は20年前よりも退行状態。(2007/02/03)



 で、胡錦涛が留守であることと関係があるのでしょうが、アフリカツアーがスタートするなり、

「『江沢民文選』学習活動」

 なるキャンペーンが開始されました。省レベルの地方政府トップや閣僚(部長)クラスを対象に専門講座のようなものが開かれるようで、そのイベントが2月2日に北京で開催されています。

 ●「新華網」(2007/02/02/19:23)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2007-02/02/content_5688623.htm

 そのイベント、仕切り役は曽慶紅で李長春が演説、列席者には呉邦国、温家宝、賈慶林、呉官正、羅幹の名前が並んでおり、政治的に心電図ピー状態の黄菊と北京を留守にしている胡錦涛を除けば、党の最高意思決定機関である党中央政治局常務委員会のメンバーが全員顔を揃えるという格式の高さ。郭伯雄、曹剛川、徐才厚といった中央軍事委員会の主要メンバーも出席しています。

 さらにこれに華を添えるかのように、党中央の機関紙である『人民日報』が社説まで掲げるという怪しさ満点のキャンペーンです。

 ●「新華網」(2007/02/02/)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2007-02/02/content_5688641.htm

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 昨年春に胡錦涛が訪米した際にも上海閥は江沢民自らが母校を訪問して健在ぶりをアピールするなど、胡錦涛サイドに対する巻き返しを行っています。ただ今回の動きはどういう性質のものなのか、その本気度を探りつつ様子をみる必要があるように思います。

 「『江沢民文選』学習活動」自体は昨年夏にも行われ、当初は銅鑼を鳴らすかのような賑やかさでスタートしたものの、結局は尻すぼみ。最初は上海閥を主力とする「反胡連合」(反胡錦涛諸派連合)が一大攻勢に出たものと私はみていたのですが、その先に待っていたのは何とその上海閥の次世代を担う有力者、陳良宇・上海市党委員会書記(当時)の失脚でした。

 この例にならうとすれば、今回は江沢民を改めて持ち上げておいて黄菊あたりを血祭りに上げる、ということになりますが、さてどうなるのでしょう。江沢民を祭り上げるという政治的な取引の見返りに胡錦涛サイドにとって何かオイシイことが行われるのか、あるいは主軸の上海閥を潰されてボロボロ状態の「反胡連合」が江沢民を錦の御旗に何事かをなそうとしているのか。

 今回も銅鑼の鳴らし方が尋常でないため、しばらく注意深く見守る必要がありそうです。



 ……結局、最高指導者である胡錦涛総書記(国家主席)のいないスキを衝いてやっちまったという形になりました。わざとそういうスケジュールを組んだのだとすれば、仕切り役を務めた曽慶紅・党中央政治局常務委員(国家副主席)の意図は奈辺に?ということになります。

「曽慶紅が陳良宇斬り(上海閥のお世継ぎを汚職嫌疑で更迭)で働いた見返りに国家主席のポストを譲るよう胡錦涛に要求した」

 という消息筋情報が香港の中国情報月刊誌『争鳴』(2007年1月号)に掲載されたそうで、その記事が海外で注目を浴び、ひとしきり波紋を呼びました。私はその原文を目にしていませんし編集部とのコンタクトもないので記事の確度についてはコメントできません。

 へーそうなの?でも国家主席って外遊するときの「顔」なのに、中共政権の「最高指導者」ではあっても「最高実力者」の域には達していない胡錦涛がそれを譲るか普通?……と思った程度です。

 ただその消息筋情報の気分でもって前掲の「新華網」の記事(1本目。『人民日報』社説ではない方)を改めて読んでみると、色眼鏡をかけているだけに「何だか不穏」という印象が残りました。

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 記事に登場する仕切り役・曽慶紅の挨拶はなかなか巧みで、この特別講座の開催は、

「胡錦涛同志を総書記とする党中央が『三つの代表』重要思想を以て全党を理論武装し、また幹部を教育することを高度に重視していることを十二分に表明し、党中央が高級幹部の理論学習をしっかり行うということに対する姿勢を鮮明にしたものだ」

 と胡錦涛の名前を出し、今回の特別講座を通じて参加者が、

「『江沢民文選』の科学的体系とその示唆に富んだ豊富な内容を深く学び取り、それを胡錦涛同志を総書記とする党中央が提起した科学的発展観、社会主義和諧社会の建設といった重大戦略思想につなげ、……」

 ……つなげたりすることは、世代交代や大型人事が行われる来るべき第17回党大会に向けて好ましい環境を創出するものだ、として「江沢民に学べ」特別講座の意義と重要性を強調しています。

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 さらにこの席上演説を行った宣伝部門の総元締である李長春は昨夏の「『江沢民文選』学習活動」を引き合いに出し、しかもその活動について当時の胡錦涛が行った重要演説にふれることで、曽慶紅同様、実際はどうあれ今回の特別講座が、

「左様、総書記のお墨付きもある」

 という色彩を帯びるように仕向けています。そして『江沢民文選』と江沢民の提唱した「『三つの代表』重要思想」は、

「小康社会の全面的実現と中華民族の復興に向けて科学的な指導理論と思想面における保証を提供するもの」

 とし、それを学ぶことが胡錦涛の「科学的発展観」などへの理解を深めることにもなる、と強調。さらにはこの「江沢民セット」(『江沢民文選』と「『三つの代表』重要思想」)は、

「中国の特色ある社会主義を建設するというテーマをしっかりと把握しているもの」

 であり、「社会主義とは何か」「いかにして社会主義を建設するか」という認識を深めることにも役立つとしています。

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 いやいや、「江沢民セット」がそんなに重宝するものとは知りませんでした。確かに「江沢民セット」がなければ「七色の河川」とか「骨の湾曲した魚」とか「三つ目の牛」とか「渤海から魚類消滅」とか「重金属野菜」といった仰天ネタが現出することはなかったでしょう。魔法の杖ですね(笑)。

 それにしても、「無駄を気にせず成長率を追求」といった従来型の「GDP信仰」路線に対し、効率重視や環境保護にも目を向ける発展のあり方を、と強調する「科学的発展観」や様々な格差の是正を眼目とする「和諧社会」といった胡錦涛の提起した路線は、本来「江沢民セット」ひいてはトウ小平の「先富論」(条件のある者から豊かになっていけばいい)へのアンチテーゼなのですが。……などといった難しい話は苦手なのでやめておきますけど、ともあれこの特別講座の始業式が、

「『江沢民セット』あってこその『科学的発展観』」

 というノリだったことは伝わるかと思います。「江沢民セット」が「科学的発展観」の上に立つのです。まあ中共の建前に照らせば確かにその通りではあるものの、そういう認識を深めるための特別講座が胡錦涛の留守の間に開かれた。なるほど怪しいではありませんか。

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 そして胡錦涛がまだアフリカにいる2月7日に行われた終業式は呉官正が進行役で曽慶紅が締めの演説を務めました。ちなみに曽慶紅が常に主役を務めているのは、理論面のメッカである中央党校の校長を兼任しているからです。

 ●「新華網」(2007/02/07/19:40)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2007-02/07/content_5710623.htm

 党中央政治局常務委員では外遊中の胡錦涛と死に体の黄菊は別として、李長春と羅幹の2人が出席。温家宝・呉邦国・賈慶林の3名がいないのは地方視察のためで他意はないように思います。あとは始業式同様、政治局委員の面々や郭伯雄、曹剛川、徐才厚といった制服組の筆頭格、つまり中央軍事委員会の主要メンバーが顔を揃えています。

 また色眼鏡つきで曽慶紅の演説を読んでみると、始業式よりも「江沢民セット」の重要性がいよいよ強調されている印象です。

「第16回党大会以来、党中央が提起した一連の重大戦略思想はトウ小平理論と『三つの代表』重要思想を堅持し、またそれらをより豊かにし、発展させたものである」

 というのは、その気になれば「江沢民セット」を掲げて「第16回党大会以来、党中央が提起した一連の重大戦略思想」に枠をはめることができる、と言えなくもありません。

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 面白いのはこの、

「第16回党大会以来、党中央が提起した一連の重大戦略思想」

 という物言いです。「科学的発展観」とか「和諧社会」などのことなのですが、この終業式における曽慶紅演説には、

「科学的発展を推し進める」
「社会の『和諧』(調和)を促進する」

 という言い回しがそれぞれ一度だけ登場するものの、

「科学的発展観」
「和諧社会」

 という固有名詞は全く出てきません。さらに、始業式では「胡錦涛同志を総書記とする党中央」という表現が使われていましたが、ここでは
「胡錦涛」のコの字も登場しないのです。

 何やら曽慶紅が自分の守備範囲である理論面をよりどころにして、胡錦涛の留守をいいことに党中央を仕切らんとせんばかりの勢いです。ちなみに進行役の呉官正は曽慶紅の演説を「重要講話」と呼び、

「思想的にも理論的にも適切さにおいても指導的な色彩も、その全てがとても強力なものだ」

 とうたい上げています。

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 ちょっと香ばしくなってきたように思いませんか?いやいや気のせいでしょうか。わざわざ色眼鏡をかけて読んだからそう感じるだけ?……そうかも知れません。

 でも何かちょっと楽しみですねえ。旧正月を控え心浮き立つ年の瀬です。

 ……あれ?多忙ゆえ手短にする筈だったのに(笑)。




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