日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 前回の続編です。

 一連の事件は取りあえず「広東炭坑騒動」としておきます。さすがに「梅州起義」という段階ではありませんし、清遠、韶関、連州など梅州以外でも抗議活動が行われています。本当は「暴動」に昇格させたくてウズウズしているのですが(笑)、大規模な衝突はまだ生じていません。じゃあ「炭坑争議」にするかと考えても、これだと労使間の争いになってしまうのでやっぱりダメ。今回は経営者も炭鉱夫も、そして付近の住民も一緒になって地元当局に抗議しているのですから。

 ●炭坑経営者
 ●炭鉱夫(地元民と出稼ぎ農民)
 ●炭鉱相手の商売で生計を立ててきた付近住民

 という、いわば「三位一体による抗議」なのです。この点、昨年以来の各種暴動、例えば農地収用とか都市再開発絡みとか公害反対とか民族衝突、それに物価上昇で音をあげた年金生活者によるデモや、ふとしたきっかけで発生した市民暴動……などとは毛色が異なります。

 地元当局側に明らかに非があること、そして抗議者の側が大量の危険物(爆薬とか)を有していることも特徴のひとつです。事態が一向に打開されないことに業を煮やした民衆側が、ついに禁断のアイテムに手を伸ばす……ああ、胸が高鳴ります(笑)。

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 とりあえず続報いきますか。8月26日夜までの動きは次のようなものでした。

 ●炭坑経営者や炭鉱夫、それに付近住民など数百名から1000名以上が8月26日に梅州市政府庁舎を取り囲み、同日夜時点で雨の中なおも座り込みを続行。その途中で防暴警察(機動隊)との衝突があったと伝えられるが詳細は不明。

 ●清遠市で封鎖措置が執行される際、担当者を護衛する武装警察や警官衝突と地元民が衝突し、地元民5名と警官多数が負傷、13名が逮捕される。

 ●韶関市で市政府庁舎に対する陳情活動(上訪)が実施され、その人数は当初数百名だったのがいつしか数千名に膨脹、万一に備え武装警察が出動する騒ぎに。

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 その後の報道で伝えられているのは以下の通り。

 ●抗議のため韶関市政府庁舎を取り巻いた民衆は1万名に達していた模様。

 ●興寧市の村民400名が8月27日午前9時ごろ、中央から派遣されている特別調査チームの宿泊するホテル(金葉酒店)前に屯集、直訴を試みるも警官隊約200名に阻止される。小競り合いなどがあり警官隊は村民5名(男3名・女2名)を逮捕。

 ●村民が共同で開発した細沖煤鉱(場所は不明)を担当者や警察が爆破しようとしたことで地元住民(炭鉱夫)との間に流血の衝突。警察側は催涙弾を放つなどして鎮圧。これまでに投じた600万元が水の泡に。

 以上はいずれも香港紙『明報』(2005/08/28)と『香港文匯報』(2005/08/28-29)の報道に拠っています。

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 不思議なのは、これほどの事件なのに他の香港紙が報じていない、ということです。単なる出遅れにしては反応が遅すぎます。ただ親中紙筆頭格の『香港文匯報』が報道している以上、実際に起きている事件であることは確かです。

 親中紙である『香港文匯報』の記事がほぼ中立で、抗議活動をする民衆を悪者扱いしていないことも興味深い点です。むしろ強硬措置を徹底しようとする地元当局側が悪人であるような印象を読者に与えかねない書き方のように思います。

 『香港文匯報』の記事はまた、合法的炭鉱とヤミ炭鉱を玉石ともに砕き、機械・設備類までまとめて爆破した地元当局の強硬措置を広東省当局が高く評価していることにも言及しています。これによって地元当局の無理無体な強腰は省当局をバックにしていることがわかります。

 ……というより、こういう形で読者にわからせているのでしょう。抗議する民衆に積極的に肩入れしてはいないものの、同紙が地元当局・省当局のやり方を突き放して眺めていることは重要です。

 現時点において、『香港文匯報』が広東省当局と同じスタンスではない。……ということは覚えておくべきだと思います。これは今回の事件の収拾策について、広東省当局と北京の中央政府との間に何か微妙なズレないしは齟齬があることを示唆しているように思えます。

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 色々なことが起きていますが、改めて確認しておきたいのは、地元当局の無理無体な強腰に民衆(炭鉱経営者・炭鉱夫・炭鉱相手の商売で生計を立ててきた地元民)はなぜ反発・抗議し、何を求めているかということです。

 まず、求めているのは補償です。潰された炭鉱、爆破された機械・設備類、それまでの主に銀行からの融資に頼った投資、そしてこれによって失業する炭鉱夫と地元住民に対する生活補償です。

 ここで重要なのは、「爆破された機械・設備類」はもちろん、「潰された炭鉱」への補償についても合法的炭鉱とヤミ炭鉱を区別する必要がないことです。つまり地元当局の今回の措置については、ヤミ炭鉱にも補償を求める資格があるということです。

 それから反発・抗議の根拠について。そもそも今回のヤミ炭鉱潰しは、中央政府の国務院弁公庁が全国に向けて発した通達「安全生産条件と非合法炭鉱の整理・封鎖に関する通達」が発端であり、錦の御旗となっています。

 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-08/23/content_3393421.htm

 「だからヤミ炭鉱は潰されたんだろ」というのは、実は間違いなんです。

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 この「通達」によると、ヤミ炭鉱は直ちに操業を停止せよということになっていますが、「すぐ閉鎖させろ」とはなっていないんです。

「基準を満たしていない炭鉱には1度だけ操業停止・環境改善の機会を与え、期限までに安全生産許可証を手にできなかった炭鉱については法によって一律閉鎖とする。操業停止による環境改善の期限は今年末を超えてはならない」

 となっています。つまりヤミ炭鉱にも1度だけチャンスを与え、今年中に所定の基準を満たさなければその時点で閉鎖、ということなのです(失業問題など社会に混乱が生ずるのを避けるためかと思われます)。とにかく、一緒くたにされて潰されてしまった合法的炭鉱はもちろん、更正のチャンスを与えられぬまま潰されたヤミ炭鉱にも言い分があるということです。

 要するに広東省当局の支持をバックに梅州や清遠で採られた無理無体な強硬措置は「通達」に反していることになります。それゆえ「三位一体の民衆」は激しく反発し抗議行動を展開しているのです。『香港文匯報』の報道ぶりでも指摘したように、どうもこのあたり、中央の方針と広東省当局のスタンスがかなりズレているのは気になります。

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 炭鉱も潰した、機械・設備類も爆破した。……とここまでやってしまえば、やられた方にとっては生活の糧を奪われ、炭鉱経営者は返済できる当てのない借金の山を背負うことになります。極めて可燃度の高い状況です。

 しかも過去の突発したようなケースと違い、今回は抗議活動を繰り返す中で、数十から50社はあるとみられる炭鉱会社が被害者同士として連携する可能性があり、それを軸に、地元民衆が組織的なまとまりを示すかも知れません。ただ同じ広東省といっても梅州、清遠、韶関はそれぞれかなり距離がありますから、地域間でまとまることは難しいでしょう。動くとなれば、興寧や梅県を抱える梅州市が動員規模の点で他の地域に勝っているかと思います。

 被害者である「三位一体の民衆」、その被害は生活の糧を奪われたに等しく、もはやこれ以上失うものがないというレベルであること、これに対する地元当局が民衆の抗議・反発に対し強硬姿勢を全く崩していないことから、このまま進めば大規模な官民衝突は不可避ではないかと思います。中央が割って入って調停を行うなら別ですけど。

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 それにしても、今回の「民」に対する「官」のやり方は余りに苛烈です。それによって派生する様々な問題についての対策はあるのでしょうか。

 それとも、これほど苛烈にやる必要のある理由が「官」の側にはあるのでしょうか。

 そういえば、いかにも中共のやりそうなことですが、広東省にテロや暴動に対処する特別警察隊が組織されたとのニュースが8月27日、中国国内で流れました。

 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-08/27/content_3409698.htm

 脅しているつもりなんでしょうか。それとも「武力鎮圧いくぞ」との意思表示?



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