ゴエモンのつぶやき

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日に日に疲労、深夜ドライブ 強度行動障害、足りぬ支援

2018年07月01日 10時43分30秒 | 障害者の自立

 自分や他人を傷つけたりする「強度行動障害」。重度者の場合は行政や福祉の支えが必要だが、十分なサポートが受けられず、負担に苦しむ家族もいる。強度行動障害の長男を落ち着かせるため、毎晩のように深夜のドライブを続ける守山市の夫婦に今月上旬、同行取材した。

 午後十時、守山市内で和田泰代さん(50)と待ち合わせた。ワゴン車の後部座席には長男の智泰さん(18)がいた。「こんばんは」と声を掛けても膝に顔を埋めたまま、反応がない。記者は助手席に乗せてもらい、琵琶湖の湖岸道路を一緒にドライブした。

 智泰さんは自閉症と重度の知的障害があり、自分の手足や顔にあざができるほどつねったり、跳んだりするなど、じっとしていられない。自宅の壁をたたいたり、大声を上げたり。一人では過ごせないため、生活全般で介助が必要だ。

 ドライブの途中、対向車はほとんどない。湖岸道路を南へ走り、大津市瀬田方面に向かう。車内で流れる音楽が眠気を誘う。突然、後ろから「ウオー」と叫び声。智泰さんが体を前後に激しく揺らし、助手席背面にガンガン頭をぶつける。「寝不足で夫婦とも疲れすぎている。あまり深く考えないようにしている」と泰代さん。智泰さんの左窓ガラスは、たたいても割れないように緩衝材とタオルで覆われていた。

 この日は午後八時ごろから夫(58)が運転し、午後十時から交代した泰代さんは大津市中心部を回り、守山市の元の場所に戻ったのは午後十一時半。好きなドライブをして景色を見ていると、心が落ち着くという智泰さん。眠りに落ちたのは午前一時すぎだった。

 ドライブを始めたのは、智泰さんが養護学校高等部一年のとき。平日は寄宿舎で暮らし、週末に自宅へ戻ると、夕食後に「ブーブー」をせがんだ。今年三月には養護学校を卒業。県内外で入所施設を探したが、満員だったり、対応できる職員がいなかったりして断られた。現在は四月に市内で新設された生活介護事業所で、午前はチラシ配りや畑作業、午後はプールへ行くなどして過ごす。別の事業所で夕食と入浴を済ませて午後八時ごろに帰宅する。その後、午前零時ごろまでがドライブの時間だ。

 泰代さんは「智泰は常に気持ちが不安定。小さいころはもっとしんどかった」と振り返る。夫も家に不在がちとなるトラック運転手から、医療機器会社に転職し協力してきた。夫は早朝の新聞配達もこなし、泰代さんは寝付きの悪い智泰さんに付き添い、床に就くのは深夜一~二時。ともに睡眠時間は短く、日に日に疲れがたまっている。「何とか今は続けているが、いつ踏ん張りがきかなくなるのか怖い。一日でもいいから休みがほしい」と涙を浮かべた。

 県によると、強度行動障害のある人は、福祉サービスを昨年受けた人だけで県内に六十人。施設へ入所できない人は集計されず、実態は不明だ。障害者の入所施設は二十一あるが、いずれも満員で県外施設への入所は昨年度で百五十五人に上った。知的障害者らが入所する大規模施設は国が地域移行を推進し、新設しない方針を示しているが、障害者は年々増え、重度者が取り残されている。県などは作業所などで支援者を増やす養成研修を開いているほか、受け入れ事業所へ補助金も出しているが、支援は広がっていない。県障害福祉課の担当者は「強度行動障害の人が入所できるよう、本年度中に福祉施設や作業所の関係者を集めて検討する場をつくりたい」と話している。

 <強度行動障害> 自分や他人の体をたたいたり、傷つけたりするほか、かみつくなどする行動が高い頻度で起こり、特別な支援を必要としている状態を指す。行政・福祉の分野で使われる言葉。厚生労働省の調査では、福祉サービスを受ける強度行動障害のある人は昨年12月時点で、全国に延べ34564人。重度の知的障害や自閉症スペクトラムのある人が多く、2016年に相模原市で起きた障害者施設殺傷事件の現場となった施設は、強度行動障害者を積極的に受け入れていた。

2018年6月30日       中日新聞


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