災害時に、高齢者や障害者など通常の避難所では生活に支障を来す被災者の受け入れ先となる「福祉避難所」。4月の熊本地震では、介護に当たる人材や物資の不足で、十分に機能しない例が相次いだ。浜松市の医療関係者でつくるグループ「みらいTALK」は2013年から毎年、福祉避難所の運営を想定し、障害者とその家族も参加した訓練を重ねている。運営側と避難者側が共に実践的な訓練を重ねることで、課題が見えてきている。
同グループは、発達障害児の支援施設などがある浜松市発達医療総合福祉センター(同市浜北区)の医師らを中心に組織されている。11年の東日本大震災で、通常の避難所での生活が困難な障害者が自宅避難を余儀なくされ、物資や情報が得られなかった経験から、13年から市内の施設で「障がいをもつ子と家族のためのサバイバルキャンプ」と題した避難所宿泊訓練を主催している。
昨年10月には、福祉避難所となることが想定される同センターの体育館で1泊2日の宿泊訓練を行い、人工呼吸器を使う障害者や、外国籍の障害者を含む13家族36人が参加した。延べ100人以上のボランティアも加わった。訓練は、通常福祉避難所が設置され始める地震発生から3日目を想定し、水道や電気、ガスなど主要なライフラインは全て止まったという設定で行われた。
運営にあたる医師らは、参加者の障害の程度や介助の必要度を聞く問診をし、得られた情報に基づいて重度の人は医療スタッフの近くにするなどの配慮をして、部屋割りをした。参加家族は、段ボールで作った仕切りやベッドが並ぶ体育館で夜を明かした。子どもたちのために、ランタンや懐中電灯の光の中で遊ぶレクリエーションも用意された。参加者からは、「参加3回目でようやく子どもが寝られた」という感想や、「両親が離れ離れに避難した場合、一人で子どもを見られるか心配」という不安の声も聞かれた。
同グループの副会長で、同センターの遠藤雄策医師(42)は「福祉避難所の初動では、避難者を受け入れる際の問診を手早く行うことが重要だと分かった」と振り返る。昨年の訓練では、同グループが作製した問診シートに沿って、食事や入浴など、項目ごとに介助の必要性を記していくことで、1人当たり5分程度で終わり、その後の部屋割りの迅速化に役立った。遠藤医師は「専門知識を持ったスタッフを災害時に確保できるだろうか。事前に避難者の状況を把握できると、よりスムーズな運営ができるのでは」と指摘する。
■設置は発災数日後 移動手段確保に不安
福祉避難所は、市町がバリアフリー化している福祉施設などと事前に協定を結び、災害が発生して3~4日後に設置する。被災者はまず、一般の指定避難所で数日間を過ごした後、福祉避難所に移る流れになっている。
浜松市は、複数の福祉施設などと協定を結んでいるが、市高齢者福祉課によると、設置予定の場所や数は公表していない。その理由として、医療や介護スタッフの確保など、福祉避難所の受け入れ態勢が整う前に、避難者が訪れ、混乱するのを防ぐことを挙げている。
県肢体不自由児者父母の会連合会の大石辰夫会長(61)は「実際、災害が起きると自宅避難を選ぶ人が多いのでは。自宅が倒壊した場合は避難所に頼る必要があるが、福祉避難所に行く手段が確保できるだろうかという不安もある」と語る。
重い障害のある人も参加した福祉避難所訓練=昨年10月、浜松市浜北区高薗の市発達医療総合福祉センター
2016/5/22 @S[アットエス] by 静岡新聞
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