東京都の女性(50)は約10年前、離婚や娘の自殺未遂をきっかけにブランド品などの買い物をやめられなくなりました。医師の助言や友人の助けを得て、不要な買い物をしないで済むように変わっていきました。また、横浜市の女性は(27)は、ほしいものを買うことが我慢できずに借金を抱えてしまい、約2年前からリハビリ施設や自助グループに通い始めました。自分の人生を見つめ直す過程で、「寂しさを埋めるために買い物をしていた」と気づきました。この4月からは施設のスタッフとして働くことになりました。
■高揚感一瞬、残った借金
東京都に住む女性(50)は約10年前、たまたま立ち寄った東京・銀座の高級ブランド店で、大きめのハンドバッグが目にとまった。
「お似合いですよ」
店員に声をかけられ、うれしくなった。好きなブランドでも、バッグが欲しいわけでもないのに、値段も聞かず「これを下さい」と伝えていた。クレジットカードを渡し、約30万円と書かれた伝票に署名した。迷いはなかった。
だが、帰宅すると「どうしてこんなもの買ってしまったのか」と悔やんだ。先ほどまでの高揚感はなくなっていた。
女性は娘2人と暮らしていた。かつての夫は生活費を入れず、女性が子育てをしながら、日中はファミリーレストラン、夜から明け方までスナックで働いた。心身のバランスを崩して自殺を試み、当時の駿河台日本大学病院で、うつ病と診断された。
数年前に夫は借金を残して家を出たため、離婚した。元夫の借金は背負わずに済んだものの、中学生だった次女は環境の変化で精神的に不安定になり、学校でいじめにも遭い、登校できなくなった。大量に睡眠薬を飲むことを繰り返した。
そんな現実から逃れたくて、銀座などの繁華街を当てもなく歩くようになっていた。
バッグを衝動買いした後も、「今はこれがはやっています」「おすすめです」などと言われると、沈んでいた気持ちが明るくなった。洋服、金のネックレス、指輪、化粧品セット……。勧められるまま、高価な商品を購入した。
買った時の快感はすぐに消え、そのたびに後悔した。包装を開けもせず、部屋に放置することも多かった。それでも、また声をかけられると買ってしまった。
ふだん使っていたクレジットカードはすぐに限度額に達した。別のカードで買い物を続け、約3年で5、6枚あったカードのすべてが使えなくなった。借金は約200万円まで膨らんでいた。
「買い物をやめられない」
女性は、通院先の日大病院の主治医だった渡辺登(わたなべのぼる)医師(66)に打ち明けた。自己破産を申請するため、診断書がほしかった。
■「それ必要?」声かけ頼む
貴金属やブランド品の買い物が止まらなくなった東京都の女性(50)は2010年ごろ、うつ病の治療で通っていた駿河台日本大学病院(当時)の主治医、渡辺登(わたなべのぼる)さん(66)に打ち明けた。
「よく話してくれましたね」。
渡辺さんは勇気をたたえた。後ろめたさから主治医に話せない人が珍しくないからだ。
詳しく尋ねると、支払う能力がないのに、つかの間の高揚感や安らぎを味わうために必要のない高額な商品を買い、購入後に深く後悔することを繰り返していることがわかった。渡辺さんは女性を「買い物依存症」と診断した。
「気持ちが安定しないことが買い物に依存することにつながったと思います。買い物でストレスを発散しないで済むようにしていきましょう」
抗うつ薬や不安を和らげる薬などを続けることにした。自己破産の申請に使うための診断書も作成した。
渡辺さんから助言を受け、女性は1人で外出する時は財布に2千~3千円ほどしか入れないことにした。友人に「買い物依存症」であることを伝え、「私が何かを買おうとしたら『それ本当に必要?』と聞いてほしい」と頼んだ。
診断から1年たたないころ、雑貨から高級ブランド品まで扱うディスカウント店に友人と出かけた。日用品を買う目的だったが、気がつくとショーケースに並んだダイヤのピアスを見つめていた。
「それ必要ないでしょう?」。友人に声をかけられ、我に返った。「1人で出かけるのはまずい」と認識した。
友人に「それ必要?」と聞かれては思いとどまることを繰り返し、「欲しい」という欲求がなくなったのは5年ほど前のことだ。この間に1度だけ、1人の時に約3万円する高級ブランドのたばこケースを買ってしまったことがあった。
現在、女性は生活保護を受けながら次女と2人で暮らす。渡辺さんが所長を務める赤坂診療所に月1回通う。
「お金がなくなるのが怖いから、もう買い物しすぎることはない」。月に数回、友人と会い、たわいもない話をすることが気分転換になっている。
女性は今も、渡辺登さんの診察を受けている
2017年3月19日 朝日新聞
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