障害者とは関わりたくない--。子どもの頃、そんな感情を抱いた男性が差別意識を持ったまま障害者支援施設に就職した。障害者と真正面から向き合い20年を経た今、偏見をなくそうと、明石市内の映画館で障害児への理解を促す啓発映像を流すため、資金集めに奔走している。(藤井伸哉)
社会福祉法人「三田谷治療教育院」(芦屋市)の職員で、受託先の明石市立あおぞら園・きらきらに勤務する服部記昌さん(41)。
高校卒業後、「福祉」という響きの良さから医療福祉の専門学校に「なんとなく」進学した。
フリーターを経て、就職活動をしたが、知的障害者の入所施設しか合格しなかった。入所者と一緒に食事をする施設だったが、最初の3カ月は食事が喉を通らなかった。
だが、猛暑の中、黙々と農作業や野菜の袋詰めをする姿に接し「劣っていない。自分たちと一緒」と考えが少しずつ変わった。
数年後、職員に暴言を吐いたり暴れたりする30代男性との出会いが、さらなる転機になる。
いつのまにか、嫌だった仕事が楽しくなっていた。
「障害者を取り上げた感動的なテレビ番組がありますが、特別なことじゃない。毎日のように感動的なことがあるんです」
この思いを広く届けたいと、服部さんは不特定多数が利用する映画館で啓発映像の上映を企画。作品上映前のCMとして流そうと動き出した。
映像は30秒。
知的障害や発達障害のある子どもたちの生き生きとした表情に、「一生懸命頑張っているのに分かってもらえない」「理解と思いやりがあれば世界はもっと素晴らしい」などのメッセージを添えた。
NPO法人「明石障がい者地域生活ケアネットワーク」の協力を得て、昨年12月からインターネットを活用した「クラウドファンディング」で資金を募ると、予想を超える反響があった。
1館でのCM料は4週間で約43万円。クラウドファンディングの募金は既に110万円を超え、完成した映像は「イオンシネマ明石」(JR大久保駅南)で4月公開の人気アニメなど2作品に流す。
手応えを感じ、目標をさらに高くした。
年末公開予定の「男はつらいよ50 おかえり、寅さん」(仮題)でも映像を流そうと、150万円を目標に1月29日まで資金を募っている。
服部さんは「自分が変われたように、偏見はなくせる。誰もが幸せに暮らせる社会にしたい」と意気込む。
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クラウドファンディングのサイトは、ウェブサイト名の「FAAVO(ファーボ)」と「播磨」で検索。5千円、1万円、3万円の3種類があり、金額別に異なる大きさで、映像のエンドロールに名前や企業名が入る。同園TEL078・945・0280
■差別のない社会を目指して 服部さん
記憶に残る障害者との関わりは小学校高学年。
近くの特別支援学校との交流授業で、よだれを流している児童がいた。
いい子ぶって普通に接したが、本心は「汚い」と感じていた。
クラスにも障害児はいたが、どう触れ合ったか、覚えていない。
「差別するのはあかんことやとは思っていた。ただ、気持ちをシャットアウトしていたから記憶がないんだと思う」
高校生で進路を選択するときも、「いい子」になろうと人のために働くイメージがある「福祉」の専門学校に進んだ。
卒業したが、福祉の仕事に就く気にはなれず、フリーターとして数カ月働いた。お金が尽き、就職活動をした。
福祉以外の業界を回ると「なぜ」と問われ、返答できなかった。内定が出たのは知的障害者の入所施設だけだった。
「嫌な仕事をしたら、その後は何でもできるじゃない」。知人から“アドバイス”され、知的障害や精神障害がある成人向けの施設で寝食をともにした。
黙々と農作業をする姿を見て、少しずつ考えが変わった。
数年後、暴言や暴力の目立つ男性と出会った。自分なりにアプローチを工夫すると、少しずつ心を開き、要望を言ってくれるようになった。
「あだ名で呼んで」「朝起きるときにあいさつして」。全て聞き入れた。朝顔を見たら「おっはー」とおどけた。
すると、暴言や暴力が少なくなった。
「わかり合えた。理由があって暴れていたんだ」
一人一人を見て、向き合うことの大切さをやっと理解した。この仕事を選んでよかったと思えた。
現在は勤務先で、就園前の子どもの親から悩みを聞く。
「子どもの障害を隠している」「言葉が出ないのを見て、周りから『まだ話せないの』と言われる」。不安があふれる。
「こんな広告を出さなくてもいいような社会が来ることが目標です」
障害者と健常者が一緒に楽しめるハロウィーンのイベントなど、次の構想が膨らむ。
障害者の啓発映像を映画館で上映するためクラウドファンディングを企画した服部記昌さん
2019/1/24 神戸新聞NEXT
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