受験生向け情報誌「大学案内障害者版」の2019年版が発行され、最初の1996年版から数えて10冊目となった。市民団体「全国障害学生支援センター」(相模原市)が、障害のある学生の受け入れ状況を全国の大学に調査してまとめてきた。自身も車いすで生活するセンター代表の殿岡翼さん(46)は「障害者が自ら情報をつかみ発信することで社会も変わってきた。今後も障害を持つ学生たちの夢をかなえる後押しをしたい」と話す。
大学案内障害者版は、東京都八王子市にあった自立生活センター「わかこま・自立生活情報室」が94年に全ての大学を対象に障害者の受け入れ状況を調査し、冊子にしたのが始まりだ。
脳性まひで生まれつき障害がある殿岡さんは立正大学に在学中、さまざまな障害を持つ人の活動を紹介する冊子を作り、周囲に販売していた。冊子を目にした人に誘われて97年、卒業と同時に情報室のスタッフに。「障害のある学生は知りたいことがたくさんあるが、こんなことを聞いていいのかとの不安もある。代わりに情報を集めて伝えたい」。2年後、受験生や学生の相談に乗り、支援するセンターを設立し、調査と発行を引き継いだ。それから20年。現在は障害者7人とボランティアで運営している。
調査では、在籍する学生の障害の種別や点字での出題など受験時に受けられる配慮、講義ノートのコピーを渡すなど入学後の支援態勢といった約200項目を尋ねる。1年かけて各大学にインターネットで回答してもらった後、不明な点を一つ一つ問い合わせ、大学案内の基となるデータを完成させる。
項目は障害者に関する法整備や補助器具の技術進歩などに合わせて見直してきた。今回は16年に障害者差別解消法が施行され、障害を理由にした不当な差別が禁じられたのを受けて「受験を認めるか」との問いに対する回答の選択肢から「不可」を削除した。代わりに、障害を持つ学生の支援担当窓口の有無、近年理解が進んできた発達障害や高次脳機能障害に関する詳しい質問を追加した。
以前は大学に回答を依頼すると「答える義務はない」と拒否されることもあったが、障害のある学生が入学して対応が変わる例をいくつも見てきた。「障害のある学生の存在が大学を変えるんです」と殿岡さん。今回は792の大学・大学校を調査し、約3割の247校が協力した。
ただ、大学側の対応にはまだ改善の余地がある。殿岡さんは「事前に相談した際の大学側の言葉遣いや態度から『拒否されている』と感じ、受験をあきらめてしまうケースもある」と指摘する。
大学案内では、センター試験で受けられる配慮や障害者差別解消法、通学や大学内で受ける支援に対する補助制度なども紹介している。A4判382ページ。問い合わせはセンター(042・746・7719、メールinfo@nscsd.jp)