風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

ミシン

2011-12-18 11:18:26 | 歳月
      昔、風子ばあさんがまだ娘だったころ、
     ミシンは大事な嫁入り道具のひとつだった。

      若い娘はみんな毎月500円づつの積み立てをして、
     嫁入り時に満額になるように備えた。

      風子ばあさんは心がけが悪くて、
     ミシンを持たずに結婚した。
     
      亭主になったうちのじいさんは、
     あげな物は邪魔だから、要らんと言ってくれた。

      不器用だから、何かを縫ってみたいとも思わなかった。

      子供が幼稚園に行くようになっても、
     今のように手作りのバザーなどということはなかったし、
     ミシンがなくて不自由だと思ったことはなかった。

       子供が小学校に上がると、
      学期のはじめに雑巾が要ったが、
      雑巾くらい手で縫えばそれで事足りた。

       ところがである、
      ごく最近、もう四十歳になる息子が言った。

       あの雑巾は、下手だったね、
      学校へ持っていくと、友だちから、
      お前が縫ったのか?とからかわれたもんだよ。

       アリャア、である。

       「でなんと言ったの?」
       「うん、僕が縫ったんだよって、自慢してた」

      ああ、恥ずかしい! 
     何十年も知らなんだ。すまなんだ、

      申し訳ない……。
     不出来な母を許してほしい。

      数々の後悔で、
     風子は息子に頭が上がらないばあさんなのである。

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