北円堂を知らずして奈良の歴史は語れない
「ノラや(内田百閒著・中文庫1980刊)」を読んだ。内田百閒(うちだひゃっけん1889~1971)氏は、T3 東京帝大(独文科)卒、漱石の知遇を受け/龍之介&草平を識る。陸軍士官学校/海軍機関学校/法政大学で教鞭を執る。不気味な幻想を描く小説/独自のユーモア溢れる随筆など多くの著作あり。---------
この本「ノラや」に収められた随筆のタイトルは次の通り。“彼ハ猫デアル(S31)”、“ノラや(S32)”、“ノラやノラや(S32)”、“千丁の柳(S32)”、“ノラに降る村しぐれ(S32)”、“ノラ未だ帰らず(S33)”、“猫の耳の秋風(S34)”、“猫ロマンチシズム(S37)”、“クルやお前か(S37)”、“泣き虫(S38)”、“カーテルクルツ補遺(S38)”、“垣隣り(S39)”、“クルの通ひ路(S39)”、“ノラや(S45)”。初出の発表雑誌は全て“小説新潮”でタイトルは“百鬼園随筆”。表紙の絵は、木版画で/百閒先生とクルツが向こうむきに庭を眺めている処だ。猫クルツと百鬼園先生と相倚りてお庭の詠めに興ずるの図。---------
この本「ノラや」の裏表紙の抜き刷り文は次の通り。ふとした縁で/家で育てながら/或る日/庭の繁みから消えてしまった野良猫の子のノラ。ついで居付きながらも病死した迷い猫のクルツ。愛猫探しに英文広告まで作り/“ノラやお前は何処へ行って仕舞ったのか”と涙堰き合えず/垂死の猫に毎日来診を乞い/一喜一憂する老百閒先生の/哀れにも可笑しく/情愛と機知とに満ちた愉快な連作14篇。---------
内田百閒は戦前/戦中/戦後を通じて、苦しかったことも多かった筈だが、そのようなことを題材にして書くことをしていない。“阿房列車”、“阿房の鳥飼”にみるように/人間を相手にせず/人生を達観したかのような作品を上梓した。でも、それを読めば内田百閒の実際の心の内が巧妙に吐露されており、つい百閒ワールドに引き込まれるのだ。この本「ノラや」は特に愛猫家には必読だろう。猫つながりで漱石ともつながっている百閒なのだ。