劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

国立劇場の文楽

2020-02-18 10:59:47 | 文楽
2月17日(月)の昼に、国立小劇場で文楽を観る。今月は三部制になっていて、その一部と二部を観た。一部は11時開演、25分間の休憩を挟んで終演は13時40分。第二部は14時15分の開演で、20分間の休憩を挟んで終演は17時頃だった。

第一部は「菅原伝授手習鑑」から、「車曳」、そして白太夫の「賀の祝い」。「車曳」の太夫は若手中心だが、時平を語った津國太夫が、長い笑いの芸を聴かせた。これは歌舞伎にはないので貴重、文楽の醍醐味だ。「賀の祝い」は、三輪太夫、小住太夫、靖大夫が前座で、最後の桜丸切腹の段を千歳太夫が語った。前半の太夫は語りはそこそこだが、三味線にベテランが付いていて、それで何とか水準を保っている感じ。千歳太夫の語りの場面は、桜丸が蓑助、その妻八重が勘十郎、白太夫が和生と、人形の名人が揃い、充実していた。なかなか面白いのに、月曜の昼だったためか、9割ぐらいの入りで、席が空いていたのはもったいない感じ。

第二部は錣太夫の襲名披露公演の扱いで、満席かと思いきや、これも9割ぐらいの入りで、席が空いていたのでびっくり。今回は3部制なのに、値段が高めなので入りが悪いのかと心配した。演目は、前半が新版歌祭文の「野崎村」、後半が錣太夫の語る「吃又」。前半の「野崎村」は大好きな演目だ。大店のお嬢様と丁稚の恋なのに、心中にならずにハッピーエンドで、最後の二挺三味線の調子が良いのが好きな理由。最初の睦太夫は調子が悪かったのか声が出ていなかったが、その後の織大夫、咲太夫は良く聴かせた。最後の三味線は燕三と燕二郎で息が合っていた。この演目は太夫を揃えた分、人形はちょっとという感じ。床の後ろの屏風は金と銀があるが、今回は織大夫が金で、切を語った咲太夫が銀。昔は切語りは金だったという話を聞いたことがあるが、最近は気にしなくなったのかなあと思った。

錣太夫は、80年前ぐらいに途絶えた名前らしいが、今回は津駒太夫が襲名。70歳ぐらいでの襲名だから、文楽は凄い。錣(しころ)という言葉を知らなかったが、辞書で調べると兜の下に垂れ下がる首を防御するヒダヒダのことを言うらしい。「吃又」は歌舞伎ではよく見たが、文楽で観るのは初めて、前半は希太夫でちょっと弱いが、奥で錣太夫に代わるところで、襲名の口上があり、それから後半を語るという形。少し可哀そうな扱い。

演目が始まる前に、幹部が揃って舞台上で挨拶しても良いのではないかという感じだ。それでも襲名披露だから、きちんとしたメンバーで固めてあって、三味線は宗助で、ツレ三味線は寛太郎。人形は又平が勘十郎で、女房おとくが清十郎というメンバーなので、安心して観ることができた。錣太夫は、襲名披露だから気合が入っていて、近年ないほどの好演。最後は盛り上がった。歌舞伎とはちょっと違う演出で、楽しめた。

第三部は「新口村」と「勧進帳」だが、太夫も人形も配役が魅力的でないので、今回は見送った。文楽も層が薄くなっている感じで、これからを支える人材が心配だ。早い時間に終わったので、家に戻って食事。鳥のアロゼと白ワインの食事。

東京シティバレエ団の「眠れる森の美女」

2020-02-16 11:07:40 | バレエ
2月15日(土)の夜に、ティアラこうとうでバレエ「眠れる森の美女」を観る。17時開演で、20分と15分の休憩を挟み、終演は21時20分頃。場内は満席。女性客が圧倒的で8~9割ぐらいか。バレエをやっていそうな、すらりとした人も多い。2月15日と16日の2回公演で、ダブルキャスト。

ティアラこうとうの大ホールは、1200名程度の定員なので、大き過ぎずに見やすいので良いのだが、こうした本格的なバレエやオペラ、演劇をやるには、舞台の広さが貧弱かも知れない。間口に対して、奥行きがあまりないし、タッパ(舞台面の高さ)も低い。舞台袖も殆んどないから、道具の入れ替えは困難で、同じセットで通すか、せいぜい書割の背景を変えるぐらいだろう。また、オケボックスも狭いので、オケの人数も限られてしまう。

こうした困難な条件の中で、大作「眠れる森の美女」を上演するというだけで偉いと感心してしまう。だから、観にいくと言っても、楽しむよりも先に応援モードだった。踊りそのものが素晴らしいわけではないのだが、見ているとこの公演を頑張ってやっている出演者たちの苦労がなんとなくわかり、思わず涙ぐんでしまった。

この演目は新国立劇場の豪華な舞台も観ているが、今回の振付はそれとはちょっと違う昔風の振付で、これもまた違いが楽しめる。舞台セットは、ちょっとロイヤル風のもので、上手と下手にギリシャ風の柱があり、中央に階段があり、ちょっと高くなって後方にある左右の坂に繋がっている。この左右の坂から人物が登場するのだが、結構皆怖そうに下りてきていた。

本来ならば80~100人ぐらいいた方が良い舞台だが、今回の公演では50~60人だろうから、ちょっと寂しいかも知れない。しかし、衣装はなかなか立派で、奇をてらわずにオーソドックスだったので好感が持てた。1幕の村娘たちの踊る花のワルツは、村娘の衣装が淡い緑色で、ちょっと上品過ぎたかも知れない。また、花のアーチを持っての踊りだが、この花のアーチの色も緑が基調になっていて、色があっていると言えば聞こえが良いが、沈み込んでしまって華やかさが出なかったのは残念だ。

プロローグ、一幕、二幕は物語があり、それぞれに見せ場の踊りもあるが、結構ハラハラさせる場面が多かった。三幕は結婚式の余興で、いろいろな踊りが披露されるが、ここでは良く踊っていた。特に青い鳥の二人が安定感があり、安心して観ることができた。

オーケストラはシアター・オーケストラ・トーキョーで、指揮は熊倉優。オケボックスが狭いためもあるだろうが、弦楽器の人数が不足していて、音に厚みがない。管が良いかというと、大きな音は出すが、和音の響きに美しさがなく、チャイコフスキーを聴いている感じが出ない。打楽器もちょっと乱暴。一幕のローズ・アダージョの後の、四人の王子がオーロラ姫の手を持って代わる代わる回転させる場面では、音楽の速さと踊りが合わずにちょっと心配した。家に帰ったら、ちゃんとした演奏でもう一度聞き直そうと思った。

色々と問題点は感じたが、このバレエ団が頑張って「眠れる森の美女」を上演したのは本当にすごいことだと感動。

帰りがけにカウンターだけのフレンチのお店で軽い食事。ボルドーの赤を飲みながら、蛸と鰤のカルパッチョ、ラタトゥイユ、ロールキャベツなどを食べた。

紀尾井ホールのベートーヴェン

2020-02-15 12:33:47 | 音楽
2月14日(金)の夜に、紀尾井ホールで室内管弦楽団の定期演奏会を聴く。19時に開演して、20分間の休憩を挟み、終演は21時5分頃だった。館内は満席。男性客の比率が高く、男性用化粧室に行列ができていた。演目はベートーヴェン特集で、前半がヴァイオリン協奏曲、後半が交響曲第7番。

前半のヴァイオリン協奏曲は、ライナー・ホーネックがヴァイオリンを弾いた。ホーネックは出だしを指示しただけで楽団の指揮はまったくせずに、ヴァイオリンの演奏に集中していた。ホーネックが弾くベート―ヴェンは、ウィーンの薫りがするようで、聴いているだけでシェーンブルン宮殿の景色が目の前に浮かび、またウィーンへ行こうという気にさせてくれた。

ヴァイオリンの高音部を小さな音でトレモロ演奏する部分など、美しい音に鳥肌が立つほどで、これだけ美しい音色のヴァイオリンはあまり聞いた記憶がない。ホーネックの演奏を聴くと、いつももっと聞きたいと思うのだが、今回は50分ぐらいの大曲なので、存分に音を聞かせてくれ、更にアンコールでベートーヴェンを演奏してくれた。

ホーネックのヴァイオリンを聴いたので、もうそれだけで大満足だったが、後半の交響曲7番も驚くほどよかった。今度はホーネックがヴァイオリンではなく指揮棒を持ち指揮をしたが、小さなオケから思わぬほどの迫力のある音を引出し、第四楽章などは熱気のある盛り上がりを見せた。交響曲7番がこんなに面白いとは知らなかった。

今年はベートーヴェン年なので、沢山聴くことになりそうだ。

すっかり大満足で、帰りがけにいつものスペインバルで食事。カキのアヒージョや、マンチャゴ風のカポナータなどを食べた。

映画「スターリンの葬送狂騒曲」

2020-02-09 10:39:49 | 映画
衛星放送の録画で、2017年の映画「スターリンの葬送狂騒曲」を観る。イギリス映画で、ソ連時代の独裁者スターリンが亡くなった後の共産党幹部間の権力闘争を描いている。権力闘争を描くというと、何か暗いイメージがあるが、あまりにも教条主義的な様子が喜劇的に描かれていて面白い。

出演者は、写真で見る本物の人たちと結構似た人物が演じている。スターリンは今でも赤の広場のところで永遠安置されていて、誰でも見ることができるので、僕も見てきたが蝋人形のように今でも生前の様子が窺える形で横たわっている。亡くなった後に、そうした措置をする場面も描かれていて、葬儀での幹部の立ち位置の場所なども気にする様子が分かって面白い。

スターリンは生前はジョン・フォードの西部劇が好きで、クレムリンの中で毎晩のように見ていたらしいが、この映画でも側近たちを並べて一緒に映画を見る場面が出てくる。映画には出てこなかったが、ソ連国内で上演する映画は全部スターリンは自分で検閲していたらしく、気に入らない映画を作ると、すぐに収容所送りとなってしまうので、映画監督は作品製作に慎重になり、スターリンは大の映画好きだったにもかかわらず、スターリン時代の製作本数はどんどんと減っていった。たしか、クレムリンの映写技師が書いた本が日本語にも訳されて出ていたと思う。

この映画の冒頭は、ラジオでピアノ協奏曲を放送する場面が描かれているが、演奏が終わった時にスターリンから放送局に「録音が欲しい」と電話がかかってくるので、録音していなかったディレクターが、必死になって人を集め直して、もう一度同じ曲を演奏させて録音させるというのが笑える。本人たちは、「録音がない」と言ったら殺されるかも知れないと必死なのだ。

秘密警察の幹部が、他の連中たちの弱みを握って権力を掌握しようとするが、フルシショフが工作をして失脚をさせて、自分が権力を握るという話になっている。歴史的に本当にそうだったのかは調べていないが、こうした国家にありがちな展開で面白い。

久々に観た面白い作品で、誰にでも推薦できる一本だった。

東京芸術劇場の東京フィル・コンサート

2020-02-08 09:51:19 | 音楽
2月7日(金)の夜に東京芸術劇場で東京フィルハーモニーのコンサートを聴く。19時開演で、15分間の休憩を挟み終演は21時10分頃。場内はほぼ満席。

プログラムは、「ロシアの薫り」と題してラフマニノフ特集で、前半はピアノ協奏曲2番、後半は交響曲2番。指揮は渡邊一正、ピアノはベテランの花房晴美。

ピアノ協奏曲の2番は、ロシアの暗いムードが好きな曲だが、今回の演奏は妙に明晰で明るい演奏。ピアノもきちんと演奏しているが、なんとなく情感というか、ラフマニノフのうねりとなって押し寄せる情感の波が感じられない。だから面白くないかというとそうでもなく、今まで聴いたことがないだけで、こうした演奏もありなのかと思わせるものだった。

後半の交響曲2番は、1時間もかかる大曲。退屈しないかと思ったが、聴き始めたら引き込まれてあっという間に終わった。全体にアレグロで早いテンポで進むが、第3楽章のアダージョがくっきりと浮かび上がり、美しく聴かせた。ラフマニノフはこれまであまり聴いてこなかったが、魅力的で良いなあと改めて感じる。

ピアノのアンコールはドビッシーの曲で、花房晴美はフランス音楽を得意としているらしく、この演奏が素晴らしかった。オケもアンコールがあり、チャイコフスキーの「眠れる森の美女」のワルツ。ロシア仲間での締めくくり。

帰りはいつものスペインバルで軽い食事。トルティージャ、生ハム、クリームコロッケ、タラのフリットなど。