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新国立劇場の「ウェルテル」

2019-03-20 13:14:23 | オペラ
3月19日(火)の夜に、新国立劇場でマスネの「ウェルテル」を観る。18時30分開演で、25分間×2回の休憩を挟み、終演は21時40分頃だった。初日の夜だったためか、働き帰りにの人もちらほら。客席は9割程度の入り。

3年前の再演で、今回はシャルロッテ役に藤村実穂子が出演するのが一番気になった点だ。

作品は、ゲーテの「若きヴェルテルの悩み」のオペラ化で、好きだった娘シャルロッテと結婚できなかった男が自殺してしまうというだけの話だが、見ていると、その娘は早く諦めて他の娘と恋愛した方が良いのだと思えてくる。シャルロッテでなければいけないという必然性がオペラではわかりにくい。ウェルテルの中ではシャルロッテの方も自分に好意を寄せていると感じているので粘るのだろうが、そこら辺が良く描けていない。

まあ、ゲートのドイツ語の作品をフランス語で演じるのだが、フランス語の歌詞が詩的過ぎて本人の気持ちだとか物語の展開がわかりにくいように感じる。イタリア作品のようにレチタティーヴォで話を進めて、アリアで気持ちを独白するというスタイルではなく、会話もアリアみたいに歌うので、物語の展開がわかりにくいのだ。4幕構成だが、各幕の幕切れは、まるで芝居を観ているような感じの終わり方で、オペラのムードではない。

例えば2幕などはウェルテルとシャルロット、シャルロットの許婚アルベルト、ウェルテルに密かに心を寄せるソフィーがそれぞれの気持ちを独白する4重唱なので締めくくれば、いかにもオペラらしいと思うのだが、まるでラシーヌの芝居みたいな幕切れだ。

舞台美術は美しくできていて、特に一幕のセットなどは美しいと思うのだが、子供たちが食卓の上で土足のまま立って並び歌を歌うのはお行儀が良くない。おまけにその後にその食卓でおやつを食べたりするのも気になる。

肝心の歌の方は、シャルロッテ役の藤村実穂子が抜群の存在感を示した。声量、声の美しさ、歌のうまさ、フランス語の発音とどれひとつとっても抜群で、世界で評価されるということはこういうことなのだと、改めて感心した。

ウェルテル役のサイミール・ピルグの立派な経歴だが、藤村に比べると若干ムラがあった。1幕と2幕は高い声が少し不安定だったが、3幕では立派な歌唱を見せた。最初からあの調子で歌ってくれたらと感じた。

アルベール役のバリトン黒田博は、声量は申し分ないのだが、フランス語のディクションが悪く損をしている。もう少し丁寧に歌えば、もっと高い評価を得られると思う。

ソフィー役の幸田浩子は、まあ、そつなく歌ったが、藤村の前ではかすんでしまった。

やはり、見ていると、どうしてあの程度の失恋で自殺してしまうのかというのが気になる。二幕には牧師夫妻の金婚式の祝いみたいなエピソードが絡んでいるので、プロテスタントの地方で、神と自分とが直接向き合っているという感覚なのだろうか。ドイツの特に北の方はプロテスタントが多いが、フランスではカトリックが中心で、神と人との間に教会が入っているので、結婚までは純潔を守っても、結婚したら遊びまくっても良い、みたいな感覚もあるのではないかという気がする。

このようなキリスト教的な意識が深く物語に絡んでくると、どうもよくわからない点が多い気がした。

遅くなってレストランがあまり開いていなかったので、家に帰って食事。オリーブのマリネ、野菜ス―プ、サーモンのソテーに白ワイン。

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