『マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶』 ~世界中から愛された人

2007-08-16 23:59:50 | 映画&ドラマ



 イタリア料理では、「塩を加えるタイミングが料理の良し悪しを決める」といわれているらしいが、マルチェロ・マストロヤンニの演技を料理に例えると、塩のさじ加減が絶妙な俳優だと思う。どのタイミングでどれだけの量を加えるべきなのか、その場の雰囲気とでもいうか、アバウトなようで実に繊細な点も、「イタリア料理」みたいだと思った。自身を怠け者といいながら、生涯170本もの映画に飄々と出演した。

 ルキノ・ヴィスコンティに見出された美青年でもあるが、同じくヴィスコンティに見出されたアラン・ドロンのような酷薄さ(ドロンはそれが魅力だが)が全くない。フェリーニの分身ともいわれ、多くのフェリーニ作品に出演したが、彼の映画ほど難解ではなく、インテリぶったところもない。お茶目で人懐っこい面はジャン=ポール・ベルモンドに似ているが、彼のような体育系ではない(ベルモンドも脳みそが筋肉でできているわけじゃないけど)。暴力沙汰が苦手というか、運動が苦手な感じだ。私生活では、アニタ・エクバーグ、ソフィア・ローレン、カトリーヌ・ドヌーヴ、フェイ・ダナウェイなど多くの女優と浮名を流したが、同じドヌーヴを愛したロジェ・ヴァディム監督と違って、極めつけのプレイボーイといった感じもしない。誰からも愛される男だった。

 昔からマストロヤンニというと、なぜか在原業平を思い浮かべてしまう。聖和天皇の女御だった藤原高子と禁断の恋をしながらも、格別政治的な意図はなかったというのが自分の業平像なのだが、マストロヤンニには『伊勢物語』がとても似合う感じがするのだ。

 マストロヤンニがこの世を去って10年、彼を回顧するドキュメンタリー映画『マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶』が作られた。彼に会いたい人には、この上ないプレゼントであり、自分も「ル・シネマ」に駆け参じた。
 だが、期待していたより名場面集が少なく、その点が何とも残念だった。イタリア映画は権利関係が複雑と聞いているが、そのせいで使える映像に苦労したのかもしれない。『ひまわり』のテーマ音楽も流れないなんて・・・
 『ひまわり』(70)といえば、何本も共演作のあるソフィア・ローレンや、子供(キアラ・マストロヤンニ。彼女は出演している)まで儲けたカトリーヌ・ドヌーヴのインタビューがなかったのも、物足りなさを覚える一因となった。
(アヌーク・エーメは今も美しかった・・・)
 彼に愛された女性たちが一堂に会して彼を語る・・・まるでトリュフォーの『恋愛日記』みたいだが、そういう話を自分は期待していたのかもしれない。

 一番好きなマストロヤンニの作品は『白夜』(57)といいたいところだが、ヒロインを演じたマリア・シェルがあまり好きな女優でないのが玉に瑕だ。
 アニタ・エクバーグの美しさが際立った『甘い生活』(59)も素晴らしいが、後半の息苦しさが辛く、『8 1/2』(63)を選ぶのもいかにも模範解答的で面白くない。
 遺作がマヌエル・デ・オリヴェイラ監督の『世界の始まりへの旅』(97)というのも凄いけれど、やっぱりもう少し若い頃の彼がいい。
 そうなるとソフィア・ローレンとのコンビ作に尽きるのかもしれないが(アルトマンの『プレタポルテ』(94)みたいな「遊び」まで楽しい)、好みの女優を前面に押し出して、37歳の主人公が16歳の従妹(=ステファニア・サンドレッリ。彼女のデビュー作で、年齢以上に小悪魔ぶりを全世界に見せつけた)に翻弄される『イタリア式離婚狂想曲』(62)をベストにあげることにしよう。ウルスラ・アンドレス&エルザ・マルティネリと共演した『華麗なる殺人』(65)も、荒唐無稽な映画だけど好きなんだなあ~
 『イタリア式離婚狂想曲』のDVDがクライテリオンから、『華麗なる殺人』のDVDがアンカーベイから発売されていて、両社の気質を良く表していると思った。

 『マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶』を観て、関係者のインタビューよりも、彼の声をもっともっと聞いていたいと思った。話し方も声そのものも、実に魅力的な人だった。そうそう、煙草の吸い方も・・・
 映画の公式HPは、 →ここをクリック。


『イタリア式離婚狂想曲』(左)と、『華麗なる殺人』(右)

 


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