世界の名作読破プロジェクト。
今回は、近代日本文学の古典有島武郎の掲題の書を読んだ。
何故、今、有島か?
理由は、たまたま拙宅の書庫(実は、玄関の下駄箱がこれを兼ねているわけだが)にあって眠っていたからである。
有島晩年の傑作だが、著者自身をこれだけ深刻に且つ、恣意的に分析した私小説は他にはないと思う。
著者は先ず、自分とは何かという問いから始める。
「恐ろしい永劫の内に一つの点のように生まれ出で、存在するこの私は、その一点も瞬くうちに永劫のうちに溶け込んでしまうであろうことを知っ ている・・・。
そしてそれが自己形成という寂しく且つ、険しい道に分け入らなければならず、そこには神も宗教も主義者も存在するが、それらは何の助けにもならず、現在を厳しく生きる以外にないと言う。
加えて、愛は惜しみなく与えるものではなく、惜しみなく奪うものである という本質を理解しなければならぬと説く。
蛇足:著者の長年にわたる真剣な自己分析と努力は実を結ぶことなく、これを世に問うた2年後に、愛人とともに自死に至ったことは痛ましいかぎりである。