Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

カーチュン・ウォン/日本フィル(横浜定期)

2024年01月21日 | 音楽
 カーチュン・ウォンが指揮する日本フィルの横浜定期。1曲目は伊福部昭のバレエ音楽「サロメ」から「7つのヴェールの踊り」。リズムの切れが良く、中東的な情緒が濃厚だ。一朝一夕の演奏ではなく、作品への理解と自信が感じられる。カーチュンと日本フィルが積み上げてきた伊福部昭作品の演奏経験の表れだろう。

 「7つのヴェールの踊り」といえばリヒャルト・シュトラウスのオペラ「サロメ」の同名曲を思い出すが、シュトラウスの音楽とはそうとう異なる。わたしは初めて聴いたので正確性を欠くかもしれないが、曲は大きく分けて、緩ー急ー緩ー急の4つの部分に分かれるようだ。たぶんその中で7つのヴェールを一枚ずつ取り去るのだろう。

 2曲目はラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」。ピアノ独奏は上原彩子。例の甘いメロディーの第18変奏が意外に甘さ控えめだ。それが上原流かもしれない。次の第19変奏のリズミカルな動きに生気がある。上原らしさを感じる。全体的にスリリングな演奏だ。カーチュン指揮の日本フィルも鋭いリズムで上原を支える。鮮やかなコラボレーションだ。

 上原のアンコールがあった。ラフマニノフの練習曲集「音の絵」作品39から第5番アパッショナートだ。「パガニーニ……」とは打って変わり、暗い情熱が渦を巻く。そのコントラストに惹きこまれる。

 3曲目はベルリオーズの「幻想交響曲」。芝居気たっぷりの曲なので、どんな演奏になるかと思ったが、意外といっては何だが、むしろ丁寧な演奏だった。ベルリオーズのスコアをまずは正確に再現する演奏だ。もちろんその上で、あちこちの動きに強烈なアクセントを付けて浮き上がらせたり、リズムを鋭角的に付けたりする。それはいつものカーチュンだが、音楽の全体的な型は崩さない。清潔かつ正統的だ。

 想像するに、「幻想交響曲」は日本フィルに関係の深い某指揮者の十八番だ。その指揮者は数少ないレパートリーを繰り返し演奏するのだが、困ったことには、曲をいじくりまわす。カーチュンはそのデフォルメされた部分を修正したのかもしれない。日本フィルに一種の緊張が感じられたのはそのためだろうか。

 細かい点を2点あげると、まずは第2楽章だが、当夜はコルネットのオブリガート付きで演奏された(名手オッタビアーノが演奏した)。音量が控えめだったことが印象的だ。次に第3楽章だが、中間部のトゥッティの後のチェロにポルタメントが付いていた。あそこは主人公が絶命する場面かもしれない。そうだとすると、コミカルな味があった。
(2024.1.20.横浜みなとみらいホール)

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