Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

『男はつらいよ』お帰り 寅さん

2020年01月09日 | 映画
 もうずいぶん前のことだが、テレビで渥美清の特集番組を見た。その中で渥美清はこう語っていた。「スーパーマンっていうテレビ番組があっただろう。あれをやっていた役者が、ある日子どもたちに囲まれて、『ねえ、空を飛んでよ』とねだられた。だけど飛べなかった。ね、役者は素顔を見せちゃいけないんだよ」と。わたしの家にはテレビがないので、その番組をどこで見たのか記憶にないが、ともかくその言葉が印象に残った。その言葉を語るときの渥美清の表情が、寂しそうに見えたからか。

 「寅さん」シリーズ第50作の「お帰り 寅さん」を見た。よく笑い、よく泣いた。スクリーンに映る寅さんは(過去の作品の抜粋なので当然だが)いつもの寅さんだった。明るく屈託のない寅さん。人は死んで星になる。そんなロマンチックな言い方が、今だけは許されるなら、寅さんは星になったと思った。

 寅さんの妹のさくらも、さくらの夫の博も、年を取ったが元気だ。おばちゃん(寅さんとさくらの叔母)とおいちゃん(おばちゃんの夫)は亡くなった。団子屋(今はカフェになっている)の奥の茶の間には、今はさくらと博が住んでいる。

 上掲のスチール写真(↑)がその茶の間。ちゃぶ台を囲んでいるのは、左から順に、満男、満男の初恋の人・泉ちゃん、さくら、博。どこか懐かしい茶の間の風景だ。今の日本からは失われた風景かもしれない。「寅さん」シリーズの魅力は多々あろうが、今となっては茶の間の風景もその一つだ。

 満男はサラリーマンを辞めて小説家になった。結婚したが、妻は6年前に亡くなった。今は中学3年生の娘と二人暮らし。ある日、満男の前に泉ちゃんが現れる。泉ちゃんはヨーロッパに渡り、家庭を持っているが、仕事で日本に帰ってきたところ。そこからドラマが動きだす。

 ドラマの中心は満男だが、考えてみれば、「寅さん」シリーズの最後の頃は、実質的には満男が中心になっていた。満男と泉ちゃんの不器用な恋。それを暖かく見守る寅さん。その頃の「寅さん」シリーズは、満男を演じる吉岡秀隆の繊細な演技に支えられていた。実感としては、寅さんのDNAが満男に受け継がれたようだった。

 本作には寅さんと一番馬が合った(と思われる)リリーさんも登場する。リリーさんは今ではジャズ喫茶を経営している。そのリリーさんや、さくらも、過去の名場面に登場する。リリーさんを演じる浅丘ルリ子や、さくらを演じる倍賞千恵子の、息をのむようなみずみずしさ!
(2020.1.6.ユーロスペース)

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