Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ラキティナ/読響

2023年02月23日 | 音楽
 アンナ・ラキティナという女性指揮者が読響に初登場した。ラキティナは1989年、モスクワ生まれ。父はウクライナ人、母はロシア人。モスクワとハンブルクで指揮を学んだ。いまはボストン交響楽団でアシスタント・コンダクターを務めている。

 1曲目はエレナ・ランガー(1974‐)の「フィガロの離婚」組曲。「フィガロの離婚」(原題はFigaro Gets a Divorce)というオペラがあることは、どこかで読んだ記憶がある。そのオペラの組曲版だ。乾いた感性のポップなノリのある音楽。トランペット・ソロ、トロンボーン・ソロ、ピアノ・ソロなどはジャズ風だ。全体的にエンターテインメント性を感じさせる音楽。ラキティナ指揮読響はそのような音楽の持ち味をよく伝えたと思う。端的にいって、この音楽なら、今度はオペラを観てみたいと思った。

 2曲目はベルクのヴァイオリン協奏曲。ヴァイオリン独奏はルノー・カプソン。名手カプソンのヴァイオリン独奏もさることながら、やはり興味はラキティナがこの曲をどう振るかにあった。結果的には、残念ながら、だった。音を整えることに終始して、それ以上のことはしていなかった。

 じつは当初発表のプログラムでは、ベルクのヴァイオリン協奏曲ではなく、エスケシュという作曲家の新作のヴァイオリン協奏曲が予定されていた。ところがロシアのウクライナ侵攻の影響で、ヨーロッパでの世界初演が見送られ、その余波を受けて読響も演奏できなくなった。エスケシュの新作だったら、ラキティナの指揮はどうだったろうか。

 カプソンのヴァイオリン独奏は明晰そのものだった。若いころの愛の想い出とか死の苦しみとか、この曲にまつわるロマン性を一切削ぎ落して、ひたすら明快な音のラインを追い求めた演奏だ。そのような演奏で、聴衆の集中力をそらさずに、最後まで聴かせたのは、やはり名手の力量だろう。

 アンコールにグルックの「精霊の踊り」が演奏された。細い音で、幽かに聴こえるような演奏だ。なるほど、あの世で精霊たちが踊る情景は、このような音がふさわしいと妙に納得した。それにしても、正確な音程の説得力はすごいものだ。

 3曲目はチャイコフスキーの交響曲第1番「冬の日の幻想」。結局ラキティナのお手並み拝見はこの曲になった。結論的には、オーケストラを見通しよく鳴らすが、音楽の運びは単調だと思った。ドラマトゥルギーに欠けるからだろう。わたしは飽きてしまった。ラキティナはチャーミングな人なので、人気が出る要素はあるが、現状では読響の定期を振るのは荷が重そうだ。
(2023.2.22.サントリーホール)

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